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Never Ever(外伝)  作者: 一葉
第一話:W・Escape(第2部プロローグ)
2/5

W・Escape(中編)

   2497年4月2日

   イン・ファン山脈内、鉄橋墜落現場にて






暫くして、K助の治療が終わると二人は木の上から降りた。

列車の落ちたあたりに行くと、小さな人影が一つある。

良く見ると、どうやら人のようだ。


「見て、誰かいるみたい。」

ファーライアは小走りに人影の方へと走っていった。


「大丈夫ですか?」


その問いに振り向いたのはビスケットだった。

「ほう、よく助かったもんだな。」


(げっ、アイツは・・・・)


ファーライアの後ろから歩いてくるK助の顔色が変わったのに気付いたのはビスケットだけだろう。

ファーライアはと言えば、ビスケットの姿に驚いている様だ。


「人間の言葉がわかるの?」


「もし、俺が人間の言葉が分からないなら、その質問は随分と無意味だと思うが。」


「それもそうね。」

ファーライアはじっとビスケットを見ている。


「ねぇ、少し触っても良い?」


「ん?」


ファーライアはビスケットの返事を待たずに手を出した。


「キャー、ふかふか、可愛いー♪」


ファーライアは委細構わず触りまくっている。


「止めろ・・・・・・・・・・」


ビスケットの言葉には力がない。


「世の中にこんな生き物がいたなんて知らなかった。」


「ビスケットだ。」


「え?」


「生き物はやめてくれ、ビスケットだ。」


「あら、ごめんなさい。」


ファーライアはまだ触り続けている。

いたく気に入った様だ。

暫くビスケットをいじりまわしていたファーライアは、ビスケットを抱えると残骸のほうを振り仰いだ。


「・・・これって、私のせいなのかな?」


「さぁ?」

そう言って、ビスケットの方を見るK助。


「問題はこれからどうするかだな・・・」

残骸を見上げながらさらに続けた。


すると、不意にK助のこめかみに銃口が押し付けられる。


「あんたはこのまま消えれば良いのよ。」

ファーライアだ、いつの間にかビスケットを下ろしている。


K助は慌てず、落ち着いた声を出す。


「まぁ、待て。もう敵じゃないんだから、銃は下ろしてくれねぇかな。」


「えっ?」


不思議そうな顔のファーライア、しかし、銃は下ろさない。

K助はあごで残骸を指し示す。


「こいつを見な、へたすりゃ俺も死んでんだぜ。俺はもう用無しって事さ。」


無言で銃を下ろすファーライア。


「そんな瞳で見るなよ。

 所詮傭兵なんて捨て駒なんだ。」


しんみりした空気を振り払う様に、K助が一つ手をたたく。


「いつまでもここにいたって仕様がない。

 ギルギットの奴らも来るだろうし、移動した方が良いだろう。」


そう言って、先頭に立って歩き出すK助。

しかし、ファーライアは動かない。


「どうした、来ないのか?」


「私には私の目的地があるわ、ここでさよならね。」


しかし、K助の顔は得意満面の笑みをたたえている。


「目的地はパブロダール・・・かな?

 パブロダール行きの船が出る一番近い港はバルムークだな。」


図星な顔のファーライア。

これでは「そうです。」と言っているようなものだ。


「行くぞ、俺が無事に連れてってやる。」


「私、お金持ってない。」


「良いよ、別に。

 俺もバルムークの方に行くつもりだったし。

 それに、あんたの事気に入ったし。」


ファーライアは物凄く嫌そうな顔をしている。


「傭兵がそんなで良いわけ?」


「良いの。

 ほら、傭兵って自由業だから。」

ファーライアは呆れている。


「行くぞ。

 それ、忘れんな。」

K助が指を差しているのはビスケットだ。


「あなたも一緒に行く?」


ファーライアはビスケットと目線を合わせて尋ねている。


「ああ、どうせバルムークに行く予定だ。」


「さ、行きましょ。」


ファーライアがビスケットを抱える。

しかし、ビスケットはファーライアの手をすり抜けて飛び降りた。

そのままK助の頭の上に飛び乗った。

今度はK助が嫌そうな顔をしている。

後ろではファーライアが指差して笑っている。






   同日

   イン・ファン山脈北部の森の中にて






奥深い森の中に一つの灯火が揺れている。

暖かくなったとはいえ、夜はまだ冷え込む次期だけに、焚き火を絶やすわけにはいかない。

3人は焚き火を囲むようにしてそこにいた。

ファーライアはすでに寝息を立てている。

周りに人がいて安心しているのか、ぐっすり眠っている。


「前からあんたとは話してみたかったんだよな。」

二人は静かに火を見守っていたのだが、K助が突然口を開いた。


「何故だ?」


「こんな珍妙な生き物が四大魔法士の一人だなんて、不思議でさ。」


ビスケットは口元に、意味ありげな笑いを作っている。

「世の中ってのは、不思議だらけさ。気にするな。」


「・・・・・・・・・・」


K助はじっとビスケットを見ている。


「何だ?」


「いや、前会ったことある奴に似てるなって思ってさ。」


「そうか?」


「何処か俺に似てる奴でさ。

 なんか大事な物を探してるとか言ってたな。

 あいつは見つかったのかな・・・」


「お前はどうなんだ?」


「あったよ。

 でも、無くしちまった。

 もう、どうでも良いよ。」


「そうか。」


二人はそのまま暫く黙っていたのだが、K助が突然笑い始めた。


「どうした、何を笑ってるんだ?」


「さっきのお姫さん思い出した。」


「?」


「『キャー、ふかふか、可愛いー♪』だってさ。

 四大魔法士も形無しだな。」


「五月蝿い。」


K助はまだ笑っている。


「そんなことより・・・いいのか?」


「何が?」


「俺達と一緒にいれば、お前も狙われるぞ。」


K助は笑いを収め、居住いを正した。


「確かにこのまま消えた方が賢いかもな。

 でも、俺ってバカだから気にすんな。」


「バカは嫌いだ。

 ・・・しかし、どちらにしろもう遅い様だが。」


「そうみたいだな。」


K助は立ちあがると素早くファーライアの元まで行き、そっと揺り起こした。


「何かあったの?」


ファーライアが眠そうに目をこすりながら尋ねる。

「敵さんのお出ましだぜ。」


K助がそう言うと、ファーライアはさっと起き上がって銃を取り出し、しっかりと握った。

ファーライアが息を詰めてみていると、暗い森の奥から影が近付いてくるのが分かった。

影は実を結び人の形を取る。

現れたのはチョビ髭を生やした、品の良さそうな紳士然とした男だった。


「私、ダーザインと申します。

 ファーライア・ディル・エイク・フォン・リーヴス様ですね。

 お迎えに参上いたしました。

 もし、ご承知頂けないときは死んで頂くことになりますが。」


「死ぬのはてめぇだ、お姫さんの側にいれば現れると思ってたぜ。」

答えたのはK助だった。


「裏切り者は静かにしていなさい。」


「裏切り者はどっちだ。」


「・・・・・ふむ、確かにそうですね、失言でした。

 では、邪魔ですから死んでください。」


と、ダーザインが動こうした瞬間、ビスケットがK助の頭の上に飛び乗った。

それを見たダーザインの動きが止まった。


「そう言うわけですか。

 道理で強気なわけですね。」

そう言って、ダーザインは一歩下がった。


「今の装備で戦うのは無理ですね。

 出直して来るとしますか。」


K助がベルトを引き抜くとそのベルトはピンと伸びて剣のようになった。


「逃がすか!」


K助は間合いを詰め、ダーザインに斬りかかった。


K助の剣は確実にダーザインを捉えていた。

K助は剣を一気に振りぬいた。

しかし、ダーザインを切り裂いた剣には手応えが全く無い。

切られたダーザインは霧が散る様に消え、2つに切れた紙切れが舞っているだけだった。


「ちっ、分身ブランチか・・・・」


「気付いてなかったのか?やっぱバカだな。」


K助が突進したせいで地面に投げ出されたビスケットが、K助を見上げながら言った。

K助は苦々しい顔をしている。


「むかつく奴だな。

 ・・・くそっ、次は殺ってやる。」


「あのぅ・・・いまいち状況が掴めないんだけど。」

申し訳なさそうにファーライアがこちらを見ている。


「つまり、次に奴が現れた時が、マジの戦いになるって事さ。」


「さっきの奴が私を追いかけてた奴なの?あんた一人じゃなかったのね。」


「傭兵者一人に任せるほど、あんたは軽い存在じゃないって事だよ。

 少しは自覚しろ。」


「そんなこと分かってるわよ、ふんっ」

ファーライアはそっぽ向いて、また寝床に戻っていった。


「ふぅ、ともかく・・・そっちにもいるんだろう?」

K助は改まってビスケットに向き直り尋ねた。


「まぁな、B/Mが2人ほど。」


「げっ、あの死神部隊か?」


K助の驚きも当然で、B/Mとはギルギット内で暗躍する特殊部隊のことだ。

彼らに狙われたが最後、遺書を書くしかすることが無い、とまで言われている死の部隊なのだ。


「なんだ、そんな風に呼ばれてんのか、あいつ等。」


「まぁ、あんたなら奴らの一人や二人、どーって事ねーだろうけど・・・・・」

K助の額には変な汗が浮いている。


「明日の昼頃にはバルムークに着くだろう。」


「ということは、それまでか、もしくは、港かだな。

 まさか、人目に付く所で仕掛けては来ねぇだろう。」


「トリンクルの軍を使うと言うことも考えられるが、トリンクルが協力するかは微妙な所だな。」


「いや、確実に殺る為に自分達で来るだろ、たぶん。」


「どちらにしろ、体を休めておいた方が良いだろう。

 さっさと寝ろ。」


「へいへい、あんたも早く寝な。」


K助は横になるとあっという間に寝息を立て始めた。

ビスケットは火をいじりながら、ずっと二人を見守っていた。






ビスケットたちがキャンプを張っている場所からかなり離れた森の中に奴等はいた。

ダーザインと黒づくめの男女二人組である。

その二人とはレジィ・ザーランドとヒート・ゲイルだ。


「一緒にいるのか、厄介だな。」


「そうね、ビスケットとファーライア姫の軌跡が重なってたからまさかとは思ったけど。」


「姫とK助は私にお任せ下さい。」


「当たり前だ、そっちは元々管轄外だ。」


「何とかして引き離したいわね。」


「大丈夫だろう。

 いくらビスケットとは言え、荷物が二つもあってはまともに戦えまい。」


「なるほど。

 ・・・・・と言う訳だからしっかりやりなさい。」


「おまかせください。」


そうこうしている内に、空が白んで来た。

夜明けは近い様だ。



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