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Never Ever(外伝)  作者: 一葉
第一話:W・Escape(第2部プロローグ)
1/5

W・Escape(前編)

このお話は、時間的にはリーヴスが陥落する直前になります。

リーヴスの王太子、ファーライアの国外脱出を書いた物です。


   2497年4月2日

   イン・ファン山脈中央、リーヴス国内、リライト駅にて






閑散とした駅のプラットフォーム。

まばらな乗客達に混じって、明らかに異質な気配を放つ者達がいる。

襟に付いているバッチはクロスソードの紋、ギルギットの兵隊である。


「ちっ、リーヴスは終わりだな・・・・・

 こんな所までギルギット兵がいやがる。」


そう呟いたのは、帽子を目深にかぶったビスケットである。

暫く待っていると、駅に13両編成の列車が滑りこんでくる。

フォ―――――ッ!

汽笛を鳴らして列車が止まる。

ビスケットは素早く列車に乗り込むと座席に座り、丁度来た売り子さんからお弁当とお茶を買って食べ始めた。

そうこうしている内に、列車はトリンクルを目指して走り始める。






   同日

   イン・ファン山脈沿いにて






崖沿いの線路を列車は北を目指して走っている。

トンネルへと入り、暫し暗闇の中を走る。

すぐに明かりが見え、陽の光の元へと躍り出た。


そのトンネルの上に一つの影があった。

13両目の貨物車が通りすぎた時、その影は列車の上にあった。

軽やかな身のこなしで列車に飛び乗ったのは一人の青年だった。

彼の名は「K助」、ギルギットの傭兵である。

K助は素早く窓に取りつくと中へと滑りこんだ。

(フッ、決まった)

と、自画自賛していると、突然明かりが点った。


「いらっしゃ~い♪」

床にひざをついたK助の頭に銃が付きつけられる。


「来るならここだと思った。」

そう言って、銃口をK助に向けているのは10代後半くらいの少女だった。


「ナイスな読みだね、ウチの部隊に欲しいくらいだよ。」

K助はこんな状況なのに落ち着いていた。


「あら、ありがと。」


「リーヴス第一王女ファーライア様ですね。」

K助は淡々と話し続けた。


「だったら?」


「一緒に来ていただきたいのですが。」


「嫌だと言ったら?」


「こうするまでです。」


そう言うと同時に、K助はファーライアの背後に回りこんだ。

腰から何かを抜き、襲いかかる。

が、見えない力に押しつぶされ、床に倒れる。

あまりの圧力の為に指一本動かすことが出来ない。


「レベルDの私でも、どこから来るのかあらかじめ分かっていればこれくらいの事は出来るのよ。」


K助は声さえ出すことが出来ない。

(結界か・・・・・)

ファーライアは縄を取り出すと、K助の手足を縛り出した。

しかし、慣れていないせいだろう、四苦八苦している。

どうにか縛り終えて、猿轡をかませると、K助が先ほど手に持っていたものを拾い上げた。

ただの布切れの様にしか見えないのだが、用心して窓から投げ捨てることにした。






   同日

   セイザス渓谷近く、ギルギット陣営にて






辺りには大きなテントが幾つも立てられ、人が右往左往していた。

なかでも一際大きなテントに一人の兵士が入っていく。


「隊長!」

兵士は敬礼し、隊長の言葉を待つ。


「何だ?」


「目標が近付いてまいりました。」


その報告を聞いて、隊長の顔に緊張が走る。


「そうか、相手は四大魔法士の一人、気合を入れていくぞ。」


「イエッサー!」

兵士達が敬礼で答える。


「これで奴を殺れば、俺の株も上がるというもの・・・」

隊長は口元に笑みを張りつかせ、作戦の成功を確信している様だ。


「伝令ー!」

突然一人の兵士が飛び込んでくる。


「何かあったか?」


「目標と同じ列車に傭兵部隊のK助様が乗られているらしいのですが。」


「それは本当か?」


「はい、上層部の特命で動いておられる様です。爆破は中止なさいますか?」


(あの忌々しいK助を殺れるチャンスだな・・・)

「爆破は決行だ、敵国の元首の一人、ビスケット抹殺を優先する。」


隊長の断固とした態度に、兵士は少し動揺している。


「え、よろしいのですか?」


「やると言ったらやる!早く行け。」


「はい。」


兵士達が次々と出て行き、作戦の開始が部隊中に告げられる。


「ふん、所詮余所者、死んだからと言って痛くも痒くも無いわ。」

ご満悦な名も無き隊長でした。






   同日

   再び列車内にて






「あんた何者なの?って、どうせギルギットの奴なんでしょうけど。」


ファーライアは床に体育座りで座っている。


「まあね。と言っても、傭兵なんだけど。これでも、結構名の通った傭兵なんだぜ。」


「・・・・・良い様ね。」

ファーライアは呆れている。


「で、なんだって?私を連れて来いって?それとも殺せって?」


「出来れば連行しろ、でなければ殺せ・・・ま、良くある命令だな。」


車両の逆側に座るファーライアは少し小さく見えた。

逃げることに必死だったのだろう、疲れた顔をしている。

それでも逃げ続けるのは国民のためなのか?それとも自分のためなのか?K助は計りかねていた。


「護衛がみあたんねぇな。」


「皆、あんたの仲間にやられたわよ。」


「ごしゅーしょー様。」


「大丈夫よ、私には魔法とコイツがあるから。」


銃を握りK助に向ける。

しかし、すぐにしまい込みひざを抱えてしまった。


「それだけで行けると思ってんのか?」


「やるしかないでしょ、捕まるわけにはいかないのよ。

 私は・・・・・」


「そう上手くいかないのが世の中ってもんさ。」


!?


ファーライアは一瞬蒼白になって、銃を構え公式を唱えようとする。

しかし、K助の方が一瞬早く、自分を戒めていた縄を振り払いファーライアに襲いかかる。

ファーライアの銃を叩き落し、羽交い締めにして、ナイフを喉に突きつけた。


「傭兵は殺してなんぼの職業だ。

 静かにしたほうが身の為だぜ。」


ファーライアは何もすることが出来ず、悔しさに顔をゆがませている。


「私達が何したって言うのよ!

 あんた達は・・・あんた達ギルギットは、どこまで私達を苦しめれば気が済むのよ!

 ライナーもセイもリッキーも、皆あたしを逃がす為に・・・ムグッ、ウー・ウー・・・・・・・・・」


K助はいつまでも続きそうなファーライアの叫び声を口にテープを押しつけて黙らせた。

そして、縛り上げようと縄に手を伸ばしたとき・・・物凄い揺れが列車を襲った。






ブ――――――ン・・・・・・・

エア・スクーナーとは、一人乗級の小型飛行艇である。

エア・スクーナーの音が空気を振動させる。

三機のエア・スクーナーは地面すれすれを飛び、渓谷を川沿いに進んでいた。

鉄橋が見えてきた所で三機は散会した。

列車が鉄橋に入るタイミングに合わせて、10cm砲を橋に向けて発射した。

ドズッ!

それぞれの攻撃が絶妙のタイミングでHITする。

支えを無くした列車は重力に従って谷底へと落ちていった。

そこまで見届けて、空挺部隊は引き上げていった。

後は地上班の仕事だ。






傾く車体、浮く身体、K助はバランスが取れず倒れるファーライアの体を横抱きにしてかばい、片手で取っ手に捕まると何処に隠していたのか剣を取り出した。

K助は剣でドアを切り裂くと、外に飛び出した。

そのまま落下中の列車の車体を蹴ると、木の繁っている場所に飛びこんだ。

ザザザザザッ・・・・・ギシッ

二人は大木の枝に引っかかり、運良く助かることが出来た。

ズン!・・・ドン!

重い衝撃の後に爆発音が響いた。

衝撃で、二人の引っかかった木までが揺れる。

枝の間から黒煙が昇っていくのが見えた・・・・

二人は暫く重なったまま黙って見詰め合っていた。


「どうして助けてくれたの?」

先に口を開いたのはファーライアだった。


「殺せって言われてたんでしょう?」


「死にたかったのか?」

K助の口調はとても静かだった。


「・・・・・・・・・・」


K助は黙ってしまったファーライアの頭をなでた。

ファーライアは不思議そうな顔をしている。


「とにかくまず降りなきゃな。」

言って上体を起こす。


「ッつ・・・」


「どうしたの?怪我?」


「あ?ああ・・・少々間抜けな落ち方をした。」


良く見ると、K助の肩の所に血が滲んでいる。


「じっとしてて。」

そう言うと、ファーライアは右手をK助の肩にかざし、公式を口ずさみ始めた。


少しずつ痛みが引いていくのが分かる。


「おいっ、なんの真似だよ。今なら俺を殺れるかもしれないのに。」


「・・・・・じゃあ、あなたはどうして私を助けたの?」


「ん?・・・ふっ、それもそうだな。」

K助はファーライアに、身を任せることにした。






辺りには落ちた衝撃と爆発の衝撃で、ばらばらになった列車の残骸が広がっていた。

ビスケットは一人、この残骸の山を見上げていた。


「これってやっぱ、俺のせいかなぁ・・・」


ビスケットの呟きを聞く者は誰一人いなかった。



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