第7話 手紙
第7話 手紙
真実とは けして一つとは限らない
見誤ってはいけない
§§§
―――パサリ
絨毯の上に落ちたのは一枚の封筒だった。少々黄ばんでいてずいぶん古そうだ。そして宛名の欄には「怜へ」と几帳面な字で書かれていた。
「怜!これ!」
落ちていた封筒を拾い上げ、怜に差し出す。怜は一瞬きょとんとした表情でそれを受け取る。
「師匠の字だ・・・」
中から一枚の紙を取り出し文面を追う。それは怜への短い手紙だった。
怜はそれを読んだ。何度も、何度も。そしてまたぽろぽろと涙を流し始める。しかし私は慌てることはしなかった。この涙が悲しみからのものではないと確信していたからだ。
怜はようやく行くべき道を見つけられたのだろう。
それは怜がずっと探していたものの答え。
待ち望んでいたもの。
怜はしばらく静かに涙を流しひたすら泣いた後、その手紙を大切そうに引き出しの中にしまった。
「俺は随分寄り道をしてしまったようだ」
「そんなこともあるよ」
「本当に長い道だった。君は俺にとっての標だったんだな」
「それは違う。これは怜が見つけ出した道だよ」
もし、この旅路の標があるとしたらそれは私ではない。
紅燐や紅蓮、師匠のほうだろう。
「もう過去を振り返って嘆くのはおしまいにしよう」
そう言った怜の顔はとても晴れやかだった。
そして引出しの中からハサミを取り出すと私の手に預けた。
「前髪・・・君が切ってくれないか?」
怜なりの過去との決別なのだろう。
私は頷き、怜の前髪を短く切り揃えた。
「ありがとう」
私たちが庭に出ると待ち構えていたように2体の人形が振り返った。
怜の短くなった前髪を見て一瞬驚いてそれからとても嬉しそうに笑っていた。
少し冷気を帯びた風が私の長い髪を揺らしていく。
『僕は君の幸せを一番願っているよ』
手紙の中の優しい言葉が私の耳に届いた気がした。
秋の柔らかな光が彼等の幸福を際立たせていた。
fin.
DMの最終話になります。他に番外編をいくつか考えています。是非興味のある方はお読みください。最後にここまでお付き合いしていただいた方に多大なる感謝を。またどこかでお会いできますように。