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第2話 出会い

 第2話 出会い


『人は人との出会いや別れ、関わりを通して、生きる希望と意味を知るんです。

 今はわからなくても君にもいつか、わかるときが来ますよ・・・』

 あの人はいつもそう言っていた・・・俺は知る事ができたんだろうか―─生きる意味を


 §§§


 私は会ってもらえるのだろうか・・・世界一の人形師に―─怜という人に。もしかしてここまで来たのは無駄だったのかもしれない・・・。会ってもらえないかも・・・。


 「大丈夫だと思いますよ」

 私の問いに紅燐はあっさりと肯定した。私が困惑していると紅燐は構わず続ける。

 「たしかに怜は人とあまり会いたがりません。だけど、こんな山奥まで来た客人を追い返すような人ではありませんから。大丈夫ですよ」

 私はそれを聞き、ほっとする。

 その時、客間の扉がギィと音を立て、開いた。

 「会ってもいいみたいだぜ」

 いきなり入ってきたのは活発そうな(というより生意気そうな、と言ったほうが正しいか・・・。)紅燐と同じくらいの年頃の少年だった。

 少年は紅燐にそれだけを告げ、さっさと部屋を出ていった。

 出ていく間際、彼の琥珀色の瞳がこちらを睨みつけていたのは気のせいではないだろう。



 「では怜の所までご案内いたします。私についてきてくださいね」

 そういうと紅燐は客間をあとにし廊下へと出る。

 私は慌ててついていき、紅燐に並んで歩く。

 「さっきの子は・・・?」

 「今のは紅蓮コウレンといいます。私と同じく怜に作られた人形ですよ」

 またもやサラリと告げられた事実にクラリと眩暈を覚える。

 だって紅燐にしろ、さっきの少年にしろ、まるで感情を持った人間にしか見えない。

 ・・・やはり怜という人形師は、かなりの技術者のようだ。


 紅燐が扉の前で立ち止まる。

 どうやらここが怜の部屋のようだ。

 とても緊張する。

 自分の心臓の鼓動しか耳に届かない。体が全部心臓になったようだ。

 紅燐は一度雫を振り返り安心させるように、にこりと微笑む。

 そして笑顔のまま、「大丈夫ですよ」と一言言うと、扉をノックする。

 「怜、お客さまをお連れしました」

 「・・・入れ」

 中から短く返事がくる。

 紅燐は躊躇うことなく扉を開け、雫に中に入るよう目で促す。

 「し・・失礼します」

 ゆっくりと中に入ると薄暗い部屋の中に1人の青年が座っていた。


 「お客人、ご用件は?」

 青年はこちらに背を向けたまま言う。

 そんなに大きな声でもないのに青年―─怜の声は室内に綺麗に響いた。

 けれど、どこか人を突き放すような冷たい声だった。

 「わ、私を・・・私を弟子にしてください!!」

 私は勢いよく頭を下げ、緊張のためかこの場に不釣り合いな大きな声を出してしまう。

 ──それにしても。

私は今、何と言ったか・・・。私は「世界一の人形師」に会うために此処へ来た・・・はずだ。

会ってからのことなんかちっとも考えてなかった。・・・なのに。

 私は、自分が無意識のうちに弟子になりたいと言ったことに戸惑いを隠せなかった。

 何故かそう言わなければならない、と感じたのだ。


 怜は、椅子を回転させこちらを向く。

 頭を下げたままの私には表情はおろか、顔も見えない。

 「お客人。名は?」

 怜はやはり冷めた声音で私に問いかける。

 私は頭を上げ、怜と対面する。とてもドキドキしていた。


  歳は、十五〜十六あたりだろうか。青年と呼ぶにはまだ若い。

  髪は灰色で、もうすぐ肩に届きそうだ。前髪が異様に長く、目を覆い隠している。

肌は真っ白で、光を反射しているように思える。全体的に色素が薄いようだ。

  表情は全く見えないが、とても冷たい、人を拒絶するようなオーラを纏っていた。


 私は怜を見て、彼こそ人形なのではないかと思った。それほどまでに生気が全く感じられないのだ。

 「・・・雫といいます」

 緊張がそのまま声に出てしまう。喉がはりつき声がうまく出せない。

 怜は暫く考えるような、値踏みをするような仕草を見せる。

 なんとか怜の表情を読み取ろうと試みたが、前髪のせいで肝心の瞳は見る事が出来ない。

 「勝手にするといい」

 怜は薄い唇を開くと投げ捨てるように言い、また背を向ける。

 「紅燐。雫を部屋に案内してやれ」

 「はい。いつもの部屋でいいですか?」

 「あぁ」

 2人のやりとりを唖然として見つめる。

 まさか、こんないきなりの願い出が叶うとは思ってもみなかったのだ。

 私がぼぅっと突っ立っていると、紅燐が話しかけてきた。

 「では雫さん、部屋へご案内します」

 「あ・・・は、はい!」

 

 「こちらです」

 案内された部屋は、家具こそ少ないが掃除がしっかりとしてあり、清潔だった。

 換気のためか少し開いた窓からは冷たい風が入り込んでくる。窓の外は日がとっくに沈み、暗闇に包まれていた。

 「他の部屋にも出入りは自由ですよ。何か不都合な所がありましたら、遠慮せず言ってください。他の部屋を用意しますから」

 紅燐から一通り説明を受ける。

 「では、何かわからないことなどありましたら、私の部屋か、台所にいますので声をかけてくださいね」

 紅燐はそう言い残すと部屋から出て行く。

 私は溜息をつくと、ベッドに横になる。

 今日は緊張したり驚いたりしっぱなしだったから、体からどっと疲れが出る。

 私はそのまま目を閉じ、木のざわめきを聴きながら深い眠りへ就いた。




  夏の日差しは夜の闇へ消え、空にはたくさんの星が瞬いている。

   森の奥深くにある大きな屋敷は静かな闇へと吸い込まれるように在った。


―─そして、1人の青年の赤い夢がはじまりつつあった・・・。


  ─be to continue─





Doll Master(以下略してDM)の2話になります。1話よりもだいぶ遅れてしまいました。3話はもう少し早くお届けできる予定です。・・・って読んでくれた方がいるかどうかは不明ですが。感想、意見または批判などでも構いません。お待ちしております。最後にこの作品を読んでいただいた方に多大なる感謝を。

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