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第1話 訪問者

 

 第1話 訪問者


 人形師──それは字の如く、人形を作り出す職人たちの事をいう。

 しかし、はるか昔は数多く存在していた人形師も、今ではその数を減らした。

 残った人形師も人目のつかぬ場所でひっそりと暮らしているという──


 §§§

 

 私の名はシズク。今は亡き、祖父の跡を継ぐべく修行中の人形師見習いだ。

 私は今、とある人形師に会うため、森の奥深くにあるという洋館に向かっている。

 その、とある人形師というのは、とても有名な一族の最後の末裔とかで、とにかくとても腕が良く、その人が作る人形はまるで生きているかのように動くという。

 そういえばその一族は『人形に魂を込める一族』とか、『人形に永遠の命を与える一族』とも呼ばれていた。その一族の末裔である。

 その人形師の名は──。


 

 森の中を進むこと数時間、やっとその人形師が住むという館の前までたどり着いた。

 ──どうやら、その人形師はよほど人嫌いが激しいらしい。

 朝早くに出発したというのに、もう空は夕日で赤く染まっていた。

 もう直ぐ、辺りは暗くなりはじめるだろう。


 私は肩にかかる薄茶の長い髪をはらい、古い洋館を見上げる。

 本当にこんな所に人が住んでいるのだろうか。

 音どころか、人の気配すらも感じない。

 …もしかしてデマの情報をつかまされたか?なにせ情報を買ったのは90あたりの痴呆がはじまったような爺さんだし…。

 いや、せっかくここまで来たんだから、とりあえず人がいるかどうかだけでも…。

 いてもいなくても今夜は野宿だろうし。

 

 

 私は大きく息を吸い、声をかけた。

 「たのもぉーーー!!!」

 静かな森に不釣合いな大声が響き渡る。

 暫く待つが、人が出てくる気配はない。

 もう一度声をかけるか迷っていると、扉が控えめに開かれ、一人の少女が出てきた。

 漆黒の髪に黒曜石のような瞳。

 赤い花柄のワンピースを着ている。

 美人というわけではないが、可愛らしい整った顔つきをしている。

 10〜13歳というところだろうか。

 ──というか、人いたんだ…。

 

 私が、人がいたことに驚き、少女をじっと見つめていると、少女は怪訝そうな顔で尋ねてきた。

 「あ、あの…。なにか御用でしょうか…?」

 やっと我に返り、しどろもどろに答える。

 「あ、えっと…。君ここの子だよね?私ここに、レイっていう人形師がいるって聞いてきたんだけれど…。君が、怜…さん、かな?」

 たしか青年って聞いてたんだけど…。

 すると少女はクスリと笑い、答える。

 「いいえ。違います。怜のお客様ですね?ここではなんですから、どうぞ中へ」

 そう言うと少女は背を向け、館の中へと入っていく。ギシギシと床が音を立て、この館がずいぶん古いことを物語る。

 「…。おじゃましま〜す」

 私も少女の後をついて中に入る。

 「ここまで来るのは大変だったでしょう」と言われ案内されたのは広い客間のような部屋だった。二人かけのソファーに座りお茶を出される。紅茶のいい香りがした。

 「少しここでお待ちください」

 そう言って少女は私の向かいに座る。

 「えっと…君は…?」

 「ああ、申し遅れました。私は紅燐コウリンと申します。怜が作った人形です」

 「……え??…人…形…??…君が???」

 一瞬頭の中が真っ白になった気がした。

 「はい」

 少女は当たり前のように即答する。

 まさか。こんな、人間にしか見えない少女が…人形??こんなことがあるのだろうか。

 私は少女──紅燐を頭からつま先までじぃ〜っと見つめる。

 紅燐は恥ずかしくなったのか、少し目を伏せ、視線を床に向ける。ほら、こんな仕草もまるで人間…いや、確実に人間だ。

 「そ、その…。こう言っちゃなんだけど、本当に人形?」

 「ええ。私は怜が作ってくれた人形です」

 紅燐はなおもきっぱりと答える。

 

 …どうやらこの子の言ってることはウソやごまかしの類ではなさそうだ。と、言う事は。この館の主であろう怜という人は、本当にすごい技術の持ち主…いや、すごいどころじゃあないだろう。

 

 私がそんなことを考えこんでいると、紅燐が質問してきた。

 「あの、貴女の名前は?」

 「…え?ああ、ゴメン。ちょっと考え事をしてて。えっと、私の名前は雫。よろしくね。紅燐ちゃん」

 「はい。よろしくお願いします。…その、なぜ雫様は此処へ?それと、どうやって此処の場所がわかったのですか?」

 「雫様って…。雫でいいよ。あと、敬語も無理しなくていいから。私がここへ来たのは、世界一と謳われる人形師に会うため。そして、その人が作った人形に会うため。ここの場所はある馴染みの情報屋の爺さんから聞きだしたのよ」

 すると紅燐は少し悲しげに訊いてきた。

 「…雫さんは、怜に会ったら、どうするんですか?」

 「ん〜。どうするって言われてもな〜。とりあえず会ってみなくちゃわかんないかな。私、こう見えても、人形師見習いなんだよね。だったらこんなにすごい人形を作る人だもの、どんな人だか知りたいじゃない?」

 「そうですか」

 そう答えると紅燐は黙り込んでしまった。

 部屋に気まずい沈黙が漂う。なにかおかしなことでも言っただろうか…。

 とにかく、私は一番訊きたいことを訊いてみることにした。

 

 「えっと…。それで、私は怜さんっていう人に会えるのかなぁ?」



 ─be to continue─



初めての投稿となります。拙い作品ではありますが、どうぞ宜しくお願い致します。感想や、意見、お待ちしております。

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