第01話 はじまり1~鈴村と味來~
――友だちを知らない僕に友だちというものを教えてくれたのはキミだろう。
「慧!! あれやっておいてー!!」
「あいあいー」
クラスメイトの鈴村 海李に『あれ』を頼まれた。『あれ』とは放課後の黒板消しだ。ちなみに、世間的には鈴村の容姿は清楚なかわいい系だ。しかし、残念ながら僕の好みではない。僕の好みは地味目の顔だ。
「性格かぁ……」
実際、鈴村の性格を全て知っているわけではない。ふだんからよく話す訳でもない。しかし、僕が知っている範囲の鈴村の性格はけっこう好みだ。
……僕に黒板消しを押し付けてくる性格が好みなのだろうか? いや、違う。そんなことはない。ちなみに、全部押し付けられてるわけではない。鈴村は午前の授業後は全部きちんと消してくれている。午後は基本的に僕となる。きっと、ちゃんと役割分担をしてくれる性格が好みなのだろう。
きっと鈴村は誰かと結婚しても役割分担していい家庭を築くだろう。
そもそも、どうして、僕こと沢村 慧のことを――黒板消し当番が同じだけの僕のことを――名前で呼ぶんだろうか?
陰キャでオタクな僕なのにそういうことがあっても勘違いしないのは昔なじみかつ異性の友だちがずっと『けい』と呼んでいるからだろう。
「ふぅ、終わった!! さて、先生に報告だな」
先生に報告した後、帰ることになった。今日も昔なじみの友だちと帰る。さっき話した『けい』と呼ぶ友だちだ。なんとなくだが、鈴村の呼び方は『慧』と漢字で、昔なじみの友だちは『けい』と平仮名な感じがする。昔なじみの友だちは高校生にしては雰囲気が幼稚なのだ。
『けい』と呼ぶ昔なじみの友だちとは違う学校だ。僕は私立の宝賀高校だ。宝賀は中高一貫の割には新入生の7割が外部からの生徒だ。高校の入学時は平均くらいなのにやたら有名私立大学への進学率がいい。昔なじみの友だちは公立の西馬高校だ。元々西馬高校は大阪市内にあったが、色々あって大阪市とは違う市に今年移ってきたのだ。なぜか宝賀の近くに移転して来たのだ。西馬高校自身そこまで偏差値は高くない。
「宝賀と西馬か……」
この2校の距離は徒歩で数分だ。西馬の移転の話が世間に出たのは一昨年だ。そして、ウワサで宝賀の経営母体が買収されるかもしれないと言われたのも一昨年だ。実際に宝賀が買収されて斉藤理事長に変わったのは去年だ。
行事の共同開催を試験的に試すのが今年だ。去年までの宝賀の体育祭と文化祭は前理事長派の先生たちの意見が強かったのだろう。それまでと何ら変化がなかった。私立高校の割には、ショボすぎた。
余談になるが、現生徒会長は西馬との行事の共同開催を熱望してわざわざ留年したというウワサも流れた。
生徒会長、確か、去年の2学期に転校してきた数人のうちの1人だから留年説が真実なことはない。
世間一般の高校生の2大年間行事と言えば『体育祭』『文化祭』だろう。なぜか宝賀は創設当時からそれに加えて『クリスマス会』という行事がある。毎年クリスマス会実行委員はあるクラスで先生がクリスマス会のことを発表したホームルームの時、真っ先に声を発した生徒とその生徒が指名した生徒で決まる。ウワサでは去年は1年6組から選出されると言われていた。やる気満々の陽キャ生徒は先生が何か単語を発する度に、『あー!!』と叫ぶので途中でネタバラシされた。
――隣のクラスだ。
去年は1年5組に所属する生徒の中から選ばれている。クリスマス会実行委員のメンバーの1人は妙な習慣の関係で転校生になった。
結果としては去年のクリスマス会は大いに盛り上がった。商店街の売店、恋愛的なイベントがふたつ。そこで成立したカップルや先生に告白した生徒までもいた。クリスマス会代表自身、年下の彼女に改めて告白していた。あれからまだ1年も経ってない。ましてや、半年も経っていないのだ。季節が冬から春に変わったばっかりだ。この短期間で去年のクリスマス会は『伝説のクリスマス会』と言われている。ちなみにこの時のクリスマス会実行委員は1人を除いて今年の生徒会に所属している。
「けい、お疲れ様」
「味來もな」
学校から歩いて途中で合流したのが瀬戸 味來、僕の昔なじみの友達だ。昔なじみと言っても実は1度縁は切れている。ふわっと石鹸の淡い香りが漂ってくる。きっと味來の家で使っている柔軟剤の匂いだろう。
さっきクラスメイトの鈴村の顔は好みではないと思った。改めて味來の顔をまじまじと見た。味來は恥ずかしそうにしている。
「顔だけ見れば、味來ってかわいいんだよなぁ」
『顔だけって何よ、もう』と言いつつも他校にも関わらず一緒に登下校してくれている。
そう、そういう存在なのだ。
よくオタク友だちから『異性の幼馴染がいるって羨ましすぎるでやんす』と言われる。
『やんす』だったけ? 時々、あいつ語尾変になるからなぁ。
それはさておき、味來の話だ。僕にとって味來は『幼馴染』ではないし『異性』でもない。『家族』とも思えない。だからといって『親友』かと言われたらそうでもない。ただ、単に『昔なじみの友だち』だ。
これから先のことなんてわからないけど今の味來はそうなのだ。よく言う例えならば、実家のような安心感だ。それなら、やはり『家族』とも思うが、なにかしっくり来ない。きっと、お互い『何があっても恋愛の意味で好きにはならない』と信じ切れる仲なのだ。
「ちょっと話そう」
「どうせ家も近くだし、こんな何もない川沿いのベンチで話さなくても……」
「ちょっとね、ほら、中学の時みたいにけいといつも一緒じゃないし、そんな気軽に話せるわけじゃないんだよ。大事にしたいんだ。この時間を」
――慧じゃん!! どうしたの?
「休みの日もwireでけっこうな頻度だよなぁ」
「けい、呼ばれてたよ」
呼ばれてた? そういえば、『慧じゃん』って言われたような……。漢字で呼ばれてる感じがした。
漢字で呼ばれてる感じがする? いったい何を言ってるんだ。
「なに、無視っとんじゃ!!」
おそらく僕を呼んだであろう人物からドロップキックをくらった。ちょっと足の付け根付近に紺色が見えた。
「女?」
「けい!! 失礼だよ!! お友だちなんでしょ!!」
遠くから『海李、そんな簡単に飛び蹴りするなー』と叫ばれている。
――だって慧が……。
『女の子』『慧と呼ぶ』『海李と呼ばれている』この3つで気付いた。
「鈴村か!!」
「そうよ……。あっ、ごめん。邪魔しちゃったみたいだね。……そうだよね、慧にだって小学校とか中学校の頃の友だちもいるもんね」
鈴村は少し……いや、かなり残念そうだ。なんとなくだ。なんとなくなのだが、もし、僕が悪いことしたなら何かで詫びて埋め合わせしなければならない。
「鈴村、今度……」
僕はどうしたい? 遊びに誘うのか? 明日何かにつけて遊びに誘うか? そもそも、鈴村と僕は友だちでない。ただのクラスメイトで同じ当番なだけだ。そんな僕が遊びに誘うなんて……。
「今度?」
なぜか味來も食い気味に僕から鈴村への言葉を待っている。ふと、僕の頭には『月が綺麗ですね』というかなり昔の文学作品の口説き文句が頭をよぎった。いや、別に口説くつもりはない。もし、鈴村を口説くとなればきちんと先に友だちにならなくてはいけない。今は春で夕方だ。その割には……。
――太陽がまぶしいですね。
『え?』『ん?』『は?』
その場にいた味來、鈴村、いつも鈴村と一緒にいる女の子の3人に首を傾げられた。
ハッキリ言おう。僕が同じ境遇なら3人と同じ反応をする。
「いや、なんでもない、忘れてくれ」
「もうそろそろ夏だもんなぁ」
「夏の前に体育祭あるよねー、今年はご近所に出来た公立の西馬と共同開催らしいからねぇ、けっこう楽しみよね!!」
『え?』
味來だけが宝賀と西馬の体育祭の共同開催と聞いて驚いている。
「そっか、だから今年、学年での演目が少なくて、やたら競走系が多いんだ」
第02話 はじまり2~多奈川さんと日辻~




