第二王子の結婚相手
今回長めです!私にしては…
「フィネーラ・ラベルデント!私は、今ここにお前との結婚を破棄する!」
あぁ。と思った。
胸の中で、何かがことりと落ちる音がした。
**
私―フィネーラ・ラベルデントに婚約の話が舞い込んできたのは、私が十二の時だった。陛下と王妃陛下が病死し、早急に第2王子の結婚相手が必要となった。
それまで、陛下は健康と言われていた。その為、まだ第2王子が即位することは無いだろうと、今まで婚約者がいなかったのである。
急を要する事態だったため、当時王国で1番力を持っていたラベルデント公爵家―
つまりは、私の家に縁談が舞い込んできたのだった。
婚約が決まった1週間後に結婚式。まあ、早すぎる展開だった。父と母を同時に無くした殿下としては、急に決まった結婚相手など目に入れたくもない存在だったのだろう。
私が目障りだった殿下―もとい陛下は、陰湿な面倒事を押し付けてくるようになった。
本来することは無いはずの、山のような書類を片付けろと命じられる毎日。断ったら「王命だ」と無理矢理黙らされる。毎日夜遅くまでぼろぼろになりながら片付け、ようやく朝方に陛下付きの侍女に書類を渡す。帰ってくる返事はいつも白紙。
そんな生活をずっと続けてきたある日。妙な噂を聞いた。陛下が、私に隠れて愛人を山ほど作っているらしいのだ。最初は聞き流していた私も、城中の女を皆部屋に連れ込み、追いかけまわしているという話を聞いたときは耳を疑った。
…陛下ともあろう方が女遊びに夢中になるとは。私に押し付けている書類のことはすっかり忘れているらしい。
もはや陛下は仕事をすっかりしておらず、外国の使者へのつかいも、王国行事のスケジュールも、全て私が肩代わりしているような状況となっていた。国としては陛下が仕事を行っているようになっているが。
これを断ったら、私の実家に迷惑がかかる。その一心で何年も耐え続けているけれど。
その続きの言葉は自分の胸の奥に閉じ込めた。どうにもならない。今更。私はきっと死ぬまであいつの手先に使われ続けるんだろう。
**
「分かりました。」
冷静にそう返事を返した。陛下は見るからに冷徹な目をこちらに向けて鼻を鳴らした。
「ふん。お前という女は本当に気味が悪い。一切笑わないし、俺に関心を持とうともしない。」
まともに笑えないほど私を追い込んだのはあなたでしょ?そう思ったけれど、わざわざ口にはしなかった。ようやくこの男から解放されるのだ。下手なことを言って撤回されたら困る。
「私が今までしていたことの引継ぎは必要ですか?」
「お前は仕事などしていなかっただろう。今まで通り俺がこの国を引っ張っていくのだ。」
まあ。なんて馬鹿なのでしょう。私がしていたことを自分の実績のように勘違いするなんて。
私は陛下の隣に立っている女性の方に目を向けた。
リーベスト・ファーナ伯爵令嬢。茶色のくるくるとした髪に、コスモスのような薄いピンク色の瞳が特徴的な女性。ストレートの黒髪で青い瞳の私とは正反対。陛下は私と真反対な人が好みだったのかもしれない。
リーベスト令嬢は、近年聖女として敬われ、国民から歓声をあげられている人物。でも私は知っている。あの魔法とやらが、人を治しているのではなく一時的に魔力を分け与え、生命心を増幅させているだけということを。魔法を施された人物と何度かあったことがあるけれど、数日すればさらに状態が悪化していた。
そのうち、ぼろを出すことになるだろう。
「…リーベスト様。」
「なっ、なんですか…!」
私が声をかけると怯えるように異常なほどに目をウルウルさせ、これ見よがしに陛下にすり寄った。おそらくあれがリーベスト令嬢の得意な「男を落とす技」なのだろう。
「一つだけ忠告しておきます。貴方たちが思っているより、国を傾かせないのは大変な事です。」
「そんなこと、言われなくても分かっていますわ!あなたにはできなかったでしょうけど、私は毎日フリーク陛下を癒して差し上げる所存です!」
「あなたには出来ない」ということを妙に強調してリーベスト令嬢は声を上げた。
陛下は感動したようにリーベスト令嬢を抱き寄せました。
「あぁ、なんと健気なんだ!リーベスト、永遠に君を愛している!」
…そんなイチャイチャを見せつけられるために忠告したわけではなかったのですが…。あと、こちらを見たリーベスト令嬢がゴミを見るような目つきだったことは、私の心の内に秘めておきましょう。
「あなたたちがそれでいいのでしたら、お2人で頑張ってください。私は忠告しましたから。忘れないでくださいね。」
「ふん。お前のことなど思い出す事は無い!とっととここから出ていけ!」
「…それでは失礼致します。陛下、リーベスト様。お幸せに。」
私は皆からの憐れみと蔑みの目から逃げるようにドアを閉めた。
…ドアを閉めるとパーティーの騒がしさは消え、静かな空気が戻る。
「まあ…ひとまずお金を稼ぐ術をえないとね。」
これから旅をするにも、旅費が無ければ馬車にも乗れない。
当たり前だが私が所有していた宝石やお金が手元に戻ってくるはずもないので、何か仕事を探さないといけなかった。
当てはある。幼い頃から少しずつ薬草の勉強はしていた。そのおかげである程度の治療薬などは作れるようになっている。
その薬を売ってみるのはどうだろう。ギルドに行ったら良いかもしれない。
**
数日後、王都で一番大きいギルドに行った。
「すみませーん。」
中に入ると、受付の女の人がこちらを向いた。
「こんにちは、お嬢さん。今日は何のご用かしら?」
「私、ポーションを売りたいんですけど…大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫よ。じゃあここに並べてくれる?」
立派な木で出来ている机に持って来たポーションを並べる。…今思ったけれど、私のポーション売れる程度に効能があるのかな?一応軽い傷とかは治せたけど…
「じゃあ鑑定するわねー」
………………………………………!
その瞬間、見ていた私も驚くくらい女の人は目を見開いた。
「ちょっと、お嬢さん!これは普通のポーションしゃないよ!すごく高級な物よ!」
「そ、そうなんですか…良かったです。」
女の人は棚から大きな袋を取り出して、机の上に置いた。
ドンッ!ガチャッ。
なんかだいぶ重そうな音がしたんですけど…?
「これは相当な価値があるわ。金貨3枚で売ってちょうだい!」
「さ、3枚!?」
私の見立てとしては銅貨5枚ほどかと思っていたのに、まさかそんなに高く売れるとは…
「そんなに私のポーション効果ありました?」
「普通のポーションは軽い擦り傷とかしか治せないのだけど、このポーションは骨折も治せるわ。」
そうなんだ…まさかその辺に咲いていた薬草でつくれるとは…
「これからもギルドに売ってもらえたら、今回と同じ分のお金を渡すわ。」
「分かりました!ありがとうございました。」
扉を開けて帰ろうとすると、女の人が慌てたように呼び止めてきた。
「待って!あなたのお名前は?売る時に無記名だとだめなのよ。」
「…えーと。フィナです。」
貴族のしきたりとして本名を名乗るわけにはいかないし。
「フィナちゃんね。私の名前はリリーよ。よろしくね。」
その後、たびたびポーションを作ってはリリーさんのとこに持っていった。おかげで、お金はだいぶ安定してえられるようになった。そのうち、私のポーションは評判になり、騎士団や療養院などから依頼が届くようになった。
今日はその騎士団に、魔物の討伐で重傷者がいるらしく、ポーションをたくさん作って騎士団のところに向かった。
「大丈夫ですか?このポーションを飲んでください。」
「ありがとうございます…。」
ポーションを飲むと見る見るうちに騎士さんの体から傷がなくなっていった。
「すっかり元気になりました!ありがとうございます聖女様!」
へ?
「せ、聖女様とは…?」
「最近騎士や療養院の者たちの間で評判になっているんです!フィナ様のポーションはどんな怪我でも治ると!いまや地方の聖女様と言われているんですよ。」
あ…そ、そうなんだ。
「嬉しいですけど…王都にはリーベスト様という聖女様がいるのでしょう?私のようなものが聖女と言われていたらダメなんじゃ…」
そういうと、騎士さんは嫌そうな顔になった。
「あのわがまま放題のリーベスト令嬢ですか…確かに数か月前までは聖女と言われていましたが、最近魔法をほどこされた者たちがそろって不調を訴え始めているのです。信憑性が無くなっているのですよ。」
いつかはこうなるだろうと思っていたけれど…意外と早くぼろが出始めたね…
ぼんやりと考え事をしていると、奥の方から声が聞こえてきた。どうやら、私を呼んでいるようだ。
「何事ですか?」
一人の騎士さんを囲んでいた部下らしき人たちが、こちらを向いて声をあげた。
「聖女様!隊長の脈拍が弱くなってきていて…!」
「見せてください。」
その人は、頭から血が流れ腕と足も骨が折れているようだった。ここまでの怪我だと、私が作るポーションのなかでも最上級のものが必要になる。今日も念のため数本持ってきていた。
ポーションのふたを開け、騎士さんの口元に近づける。
「さあ、早く飲んでください。」
が、なかなか騎士さんは飲んでくれない。
「……に、苦いのは…嫌だ…」
「…そんなこと今は言ってられません!早く飲んでください!飲まないなら口に突っ込みますよ!?」
仕方なく少し強めにいうと、しぶしぶと言った体で騎士さんはようやくポーションを飲んでくれた。
騎士さんの体はみるみるまに治った。
「き、傷が治った…!」
騎士さんが起き上がった瞬間、周りにいた人たちが涙を流して騎士さんに抱きつきだした。
とても慕われている人なんだろうな…
「聖女様!ありがとうございました!本当に!本当に!」
その後もたくさんの人からお礼を言われ、私は嬉しいながらも恥ずかしくなり、仕事が終わると即座に家に帰ったのだった。
**
数日後。王国内。
執務室でフリークは頭を抱えていた。
「なぜだ…!なぜ、仕事が進まないのだ!」
当たり前である。
そもそもこの数年間、内政も外政も指示していたのはフィネーラである。彼女がいなくなった今、進むわけがない。
フィネーラがいなくなった翌日。フリークは側近から超重要事実を伝えられた。
「陛下。来月、周辺諸国の王たちと会議が取り行われます。」
「そんなこと聞いていないぞ!」
側近の顔色は悪い。
「とてつもなくやばい状況です。招待状は昨日までに必ず送らなければならなかったのですが…その…フィネーラ様との結婚破棄があったせいで城中が混乱しており…陛下にお伝えすることが出来ませんでした。」
「お前…!私のせいだと言いたいのか!?」
側近は今にも失神しそうな顔色で頭を下げた。
「申し訳ありません!決して、決して陛下を責めるつもりは…!」
だが、落ち着いて考えてみると、確かに昨日のパーティーは午前中で終わる予定だった。だが、自分がフィネーラを追い出したのは事実。その後貴族たちが新しい王妃様にご挨拶をとやって来て、結局夜の八時にようやくお開きになったのだ。
…しかし、そんなことは今どうでもいいのだ。
「まあ良い。それに、あいつが居なくたって俺は自分で政務を進められる。お前もそんなに慌てるな。」
そうだ。さっきは取り乱してしまったが、俺は今までも自分1人でやって来たんだ。
「そ、そうですか…それでは、ひとまず周辺諸国に招待状を届けましょうか。」
「あぁ、そうだな。」
**
招待状を届けてから3日後。諸国から返信が来た。
…此度の招待状、とても1国の王のものとは思えん。我が国に対する侮りがみられる。今回、我が国は参加を控えさせてもらう…
「なっ、何だと!?」
他の王からの返信も似たようなもの。
…今まではとても丁寧な洗練された文章でしたのに…
…前回とは比べものにならん。書く人物を元に戻した方がよかろう…
全て、今回は欠席する、今までとは大幅に違う。読んで不快になった。という返信が届いたのだった。
「そんな…!何がダメだったと言うのだ!要件はちゃんと伝えたぞ!?」
側近は心の内で呟く。
まあ、1国の王があんな手紙を送ってきたらそりゃあ不審がられるだろうな…と。
フリークが諸国に対して送った手紙の内容はこうである。
…来月、我が国で会議が取り行われる。来い。
この1文のみである。ありえないだろう。王からの招待状が1文。もはや驚きより先に呆れが来る。
側近は送る前に確認させてくださいと言っていたのだが、フリークが「問題ないだろう」と送ってしまったのだ。
そんなこんなで会議など取り行えず、フリークは1人立ち尽くすはめになるのだった。
**
“お前に聞かなければならないことがある。早急に城へ戻ってこい”
私は自室で王都からの手紙を受け取った。印は王家のもの。その時点で開けたくなかったが、無視したら烈火の如くキレられるだろう。
そして中を開けてみればこれである。しばらくしたら政務が回らなくなるだろうとは思っていたが、泣きついてくるのが早かった。
その日は治療があったため、ひとまずは部屋に置いていった。
「はあ…」
「どうしたんだ?」
うっかり人の前でため息をついてしまった。あの時の隊長さんである。
…でも、この人なら、周りに漏らす事は無いだろう。
「実は…私、この国の第二王子と結婚していたのですが、あの人が浮気しまして…それで、追い出されてここに来たんですが、今日の朝、手紙で『戻ってこい』と連絡があったのです。」
そう言うと、隊長さんは驚いたように目を見開いた。
「…第2王子の結婚相手ということは、あなたはフィリーネ・ラベルデント公爵令嬢か?あの、12才で陛下と結婚したという。」
「はい。…陛下からは好かれていませんでしたけれど。それで、陛下が他のお方と結婚なさるというので、私はここに来たわけなんですが…。」
「…いや、だがいくら陛下とは言っても、相手とろくに喋ったこともないのによくそんな急に人を追い出すものだな。別に聞かなくてもよいのではないか?」
隊長さんはそう言ってくれたけど、実際行かなければここまで陛下が来るかもしれない。あの人は自分を守る為なら苦労を惜しまない人だ。嫌な意味で。
「…やはり、行こうかと思います。行ったら戻ってこれない可能性もありますが…」
「ならば、私も共に行こう。」
「……え?…でも、隊長さんもこんな見ず知らずの人間と一緒なんて…それに、ここでのお仕事は…?」
すると隊長さんはニコリと笑みを浮かべ、自分の胸を拳で軽くたたいた。
「私には、手ずから育て上げた頼もしい仲間がたくさんいる。私がいなくとも、あいつらはきっと大丈夫だ。」
「で、でも…。」
「まあまあ。大丈夫、何とかなる!」
そのまま隊長さんが付いて来てくれる事に決まったのだった。
**
王都に向かう馬車の中で、私はこっそりと向かいに座る隊長さんを盗み見た。
太陽に輝く金髪の髪に、炎のような赤い瞳。
…陛下とご容姿がそっくり。目の色だけは違うけれど、こんな偶然もあるものなのね…。
「ん?なんだ?」
「い、いえっ。なんでも…。隊長さんは陛下とご容姿が似てるんですね。」
すると隊長さんは苦笑してこちらを向いた。
「その『隊長さん』という呼び方そろそろやめないか?私の名前はライネルだ。ライネルと呼んでくれ。」
「え…ラ、…ライネル…様…?」
**
「久しぶりだな。フィリーネ。」
「お久しぶりでございます。陛下。」
ここはお城の応接室。私の後ろにはライネル様。陛下の隣にはぴたりとリーベスト令嬢がくっついている。
「早速だが本題に入らせてもらう。お前が仕事の引継ぎをしなかったせいで、我が国はすでに緊迫した状態だ!自分の責務くらい果たそうとせんのか!」
さっそく矛盾点。
「陛下。言っておきますが私は『引継ぎは必要ですか』と訪ねました。それをつっぱねたのは陛下ではありませんか。」
陛下は少し言葉に詰まった。が、今度はリーベスト令嬢が話し始めた。
「ですが!フィリーネ様は、地方で聖女の名をかたっているとの噂ではありませんか!聖女は私なのに!」
「その点についても、申し上げたいことがございます。リーベスト様の治癒魔法について、最近王都外でも囁かれている噂を知っていますか?」
そこで私は少し息を吸った。
「リーベスト様の治癒魔法は、偽物だと。」
「なっ…!」
思った通り、リーベスト嬢の顔はみるみるまに赤くなった。
「そんなのデタラメだわ!」
「そうでしょうか。」
すかさず復活した陛下がリーベスト嬢の味方をする。
「お前はどれほど卑劣なんだ!リーベストのことを侮辱することは、決して許さん!」
「卑劣ですか。一体貴方達の卑劣とは何を指すのですか?」
「それはもちろん、真実を言わずに嘘を語るものの事だ!」
陛下に肩を預けたリーベスト嬢は、とてもか弱く優しい女性に見える。
「それでは、私がされたことは卑劣な行為ではないのですか?」
「何を言っている。私たちは真実しか述べていない。お前が勝手に結婚破棄されたことを恨んでいるだけだろう!」
勝手に。そうなんだ。貴方達にとって私へのあの行為は、勝手という言葉で済ませられる程度のことなんだ。
「持ち物を盗まれ、陰口を叩かれ、夜会に出席すれば流行知らずだと笑われる。あまつさえ、結婚相手を奪われる。この行為は、卑劣とは言わないのですか?」
「は?」
訳がわからないというふうに陛下が眉をひそめる。知らなかったのだろう。
私は、陛下に結婚破棄される1年ほど前から、公式の場の陰で笑われていた。リーベスト嬢の手によって。
…もう良いだろう。私がこの数年間、ずっと言いたかった事は伝えられた。
「それでも、陛下は信じて下さらないでしょうが。そろそろ失礼します。」
「おい!まだお前の処分について話していないだろう!」
陛下は慌てたように立ち上がったが、私は止まらなかった。
それでも私が足を止めたのは、第三者による声がかかったからだ。
「少しお待ちいただきたい。」
「…ライネル様?」
貴族以外のものがこの場で口を開く事は不敬罪に値する。聡明な彼がなぜそんなことを、と思ったが、理由はあらかた想像がついた。
ライネル様の瞳は、深い青色に変化していた。
この国で青の瞳を持つものは、王族以外ではあり得ない。
と、陛下が震えた声で言った。
「…あ…兄上…?」
…え?
**
陛下の兄上と言えば、数年前に行方不明になっていた第一王子殿下しかあり得ない。
確かに、以前にもそう思ったようにライネル様は陛下ととても顔が似ていた。ただの偶然だと思っていたけれど…
「久しぶりだな。フリーク。」
「そ、そんな…」
陛下の顔色は真っ青だ。唇は震え、目の焦点もあっていない。
「挨拶は置いておいてだ。先ほどお前が言っていた事は、事実ではないだろう?」
「な、何を言って…私は本当のことを言っただけだ。あいつが、リーベストを虐めるから…」
オロオロと2人を見ていたリーベスト嬢も、手を組んで瞳をウルウルさせ始めた。
「そ、そうなんです…殿下…私、怖かったんです…」
すると、殿下は冷め切った目をリーベスト嬢に向けた。
「リーベスト伯爵令嬢。そなたは、自分が何をしたのかわかっていないようだな。」
「何のことですか?私は、ただ陛下と愛し合っているだけです。」
するとライネル様は、机の上にバサっと書類を置いた。覗き込むと、それは今までのリーベスト嬢の聖女の力というものは、黒魔法によって偽装されていたーという証拠の数々だった。
リーベスト令嬢は書類の一枚を引き裂いて叫ぶ。
「私の力が黒魔法だなんて!嘘ですわ!私の力は純粋なものです!」
すると陛下はポケットから何かを取り出した。それは、半月のような形の容器に、透明な液体が入っている魔道具のようなものだった。
「そう言うだろうと思ってこれを持ってきた。これは、魔力を流し込んだ者が黒魔法を使っていたら液体が黒色に変化すると言う魔道具だ。」
「それを私に使えと言うのですか?」
リーベスト嬢は表面上は笑顔を装っていたが、手が僅かに震えている。
「そうだ。やましいことがないなら別に構わないだろう?さあ。」
「…っ…ご、ごめんなさい!許してください!」
やっぱりそうだった。
「私の、私のせいじゃないです!陛下が!陛下に言われて…!」
陛下は驚いたようにリーベスト嬢を見た。
「何を言っているんだ!リーベスト!君が私との仲を世間に認められたいと言うから…!」
「陛下が私と愛し合う事を認めさせるために聖女を語ればいいと言ったんです!だから…私は黒魔法を使って…!」
「それは君が言い出した事だろう!俺に罪をなすりつけるな!」
あらあら。どっちが言い出しっぺかで喧嘩し始めてしまいました。
するとライネル様は、陛下の肩に手を置きました。
「そしてフリーク。お前がしたことを、忘れたとは言わせないからな?」
「あ、あの…一体、何があったのですか?」
私はさすがに話が分からなくなり、ついに尋ねました。
「フリークは、数年前私を殺そうとしたのだ。」
「…え?ですが、第一王子殿下は魔物に襲われて行方不明になったはずでは…」
「それは嘘だ。あの日、私はフリークと狩りにでていた。そうしたら…フリークが私を崖から突き落としたんだ。」
それは…大罪だ。当時、ライネル様は継承権第一候補者。殺そうとしたと言う事は、相当の罰に値する。
「そ、それは…あれは…」
陛下の顔を見ても本当の事らしい。
「…っ……フィネーラ、結婚破棄の話を無かったことにしてくれ!」
「それは無理です。陛下の王命ですから。」
私はもう二度とあの人と一緒に過ごしたくない。
「その私が取り消すと言っているのだ!」
「絶対の王命は取り消せません。諦めてください。」
ライネル様がため息をついた。
「もう無理だろう。諦めろ、フリーク。」
「いやだ!いやだいやだ…!」
「私は…私は聖女なのよ…!」
ライネル様は問答無用で2人を牢獄へ送った。
「いきなりの事で驚いただろう。すまなかった。」
「ライネル様が謝られることではないでしょう。それに…ある程度予想はついておりました。」
少し気まずくなって視線を逸らした。すると、ライネル様が私の手をとった。
「突然こんな事を言って驚かせてしまうかもしれないが、私と婚約して欲しい。」
「えっ…どうして私と…?」
ライネル様は常になく真剣な瞳でこちらを見つめた。
「君は、私たちが最初に会った時のことを覚えているか?私は騎士団の隊長として、皆から反論されることがなかった。だが、君は私を恐れずに、治療してくれた。その、君の気持ちに惹かれたんだ。」
「…でも、私は結婚を破棄された人間です。私なんかが婚約者になったら…」
「心配ない!どんな相手だろうと、私が君を愛していることには違いない。きっと退けて見せる。」
私はうつむいた。嬉しかった。今まで、私のことを好きだと言ってくれた人はいなかったから。
ライネル様を見て、この人と一緒に過ごしたい。と、そう思った。
「…嬉しいです。お受けいたします、ライネル様。」
ライネル様は輝くような笑顔になり、私を抱きしめた。
「君を幸せにする。絶対に。」
「はい。ライネル様。」
ーEND.
読んでいただきありがとうございました!少し解説…
・リーベストは自分で黒魔法を使った。フリークの結婚相手であるフィネーラより地位を高めるため。
・フリークは、自分より才能があるライネルを憎んでおり、狩に乗じて殺そうとしていた。
・ライネルは死にそうになったが、実は魔法で転移して生き延びていた。
結局2人は何がしたかったの?何でライネルは死ななかったの?と言うことをはっきりと触れておりませんでしたので、ここで説明しました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。面白いと思ってくださったら、いくらでも構いませんので感想、評価お願いします!




