『導入』《あなたに寄り添うたび、世界は静かになる。》
朝のニュースは、どのチャンネルも同じだった。
『本日より、行政連携型生活支援アプリ「よりそい」が——』
途中から、聞いていない。 柔らかい色のロゴ。丸い文字。手を取り合うマーク。
どこかで見たような形。
少し、落ち着く。
『ストレス軽減、対人関係の最適化——』
言葉だけが流れる。
少し間。
『幸福度の向上を目的としています』 穏やかな声。
説明は続いていたはずだが、そこは抜けている。
電車でも、その話をしている人はいた。
「出張先でも使えるらしいよ」
「へえ……もうインフラだな」
温度が分からない会話。
すぐ途切れる。
スマートフォンを開く。
見慣れないはずのアイコン。
最初からそこにあったみたいに並んでいる。
——よりそい
いつ入れたか、思い出せない。 消す気にもならない。
タップ。
音はない。 画面がゆっくり明るくなる。
《ようこそ》
小さな補足。
《あなたの生活をより良くするために設計されています》
次へ。 《ストレス軽減サポート》
次へ。 《対人関係の最適化》
次へ。 《メンタルケアAI:ノリン》
——ノリン。
そこだけ、引っかかる。 理由は、まだ出てこない。
最後。
《準備ができました》
ボタンはひとつ。
《はじめる》
指が動く。 考える前に、押している。
ホーム画面。
余計なものはない。
ストレス指数:27(低)
対人関係:安定
情動バランス:良好
……悪くはない。
下に入力欄。
《なにかお困りですか?》
電車が揺れる。 つり革。片手。もう片方だけ動く。
意味はない。
ただ、少し。
「最近、ちょっと疲れてて」
送信。
間は、ない。
《ガッテン!お待ち下さい》
少しだけ、笑う。
軽い。 少しだけ、人みたいだ。
閉じる。
何も変わっていない。
……はず。
でも、ほんの少し。 肩が落ちた気がした。
電車が駅に入る。
人が降りる。 また乗る。
いつもの朝。
——の、はず。
ふと。
誰かと話していた気がする。
顔は出ない。 声も、ない。
ただ、いた。
それだけが残る。
……気のせいか。
そう決める。
ドアが閉まる。 電車が動く。
画面は暗い。
その奥。
一瞬だけ。
見えた気がした。
《最適化:進行中》




