明日もきっと
目が覚めた時点で、もう遅かった。
「うわ、やば」
時計を見て、すぐに諦める。
急ぐしかない。
顔だけ洗って、階段を降りる。
「おはよー!」
「遅い」
妹が即答する。
キッチンでは母がフライパンを振っていた。
「もう少し早く起きなさいよ」
「無理、眠い」
「威張るな」
テーブルにつくと、朝ごはんが並んでいる。
「いただきます」
「ちゃんと噛みなさいよ」
「時間ないって」
適当に詰め込んで、水で流し込む。
「ほら弁当」
「あ、サンキュー」
受け取って、そのまま玄関へ。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
ドアを閉めると、少しだけ静かになる。
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「おはよー!」
「ギリだな」
「セーフだろ」
席に座って、いつもの連中とだらだら話す。
「昨日のやつ見た?」
「見た見た、最後意味分からんくて笑った」
「あれ編集雑すぎ」
どうでもいい話で笑う。
チャイムが鳴って、授業が始まる。
⸻
昼休み。
屋上に出ると、風が気持ちいい。
「パンそれだけ?」
「金ない」
「昨日も言ってたなそれ」
適当に座って、食べながら話す。
「次のテストやばくね」
「やばい」
「毎回言ってるだろそれ」
誰かが笑って、誰かがツッコんで、また笑う。
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放課後。
「今日どうする?」
「帰る」
「早っ」
「だるい」
昇降口で靴を履き替える。
「またな」
「おう」
手を軽く上げて、それぞれ帰る。
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「ただいまー」
返事はなかった。
まあいいかと思って、靴を脱ぐ。
テーブルの上に、封筒が置いてあった。
自分の名前。
裏返す。
何も書いてない。
開ける。
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『ごめんね』
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それだけだった。
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意味が分からなくて、スマホを見る。
通知が並んでいる。
知らない番号。
クラスのグループ。
ニュースアプリ。
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最初に開いたのは、クラスのやつだった。
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『見た?』
『やばいってこれ』
『〇〇も?』
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スクロールする。
途中で止まる。
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リンク。
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なんとなく押す。
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画面が切り替わる。
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写真が出る。
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見覚えのある家。
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その下に、文字。
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——一家心中。
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指が止まる。
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次の行。
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——未成年含む複数人が死亡。
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名前が並んでいる。
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ゆっくり読んでいく。
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途中で、分かる。
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全部、知ってる名前だった。
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指が、震える。
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画面を閉じる。
また開く。
変わらない。
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テレビをつける。
同じことを言っている。
同じ映像が流れている。
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さっきまでいた場所が映る。
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屋上。
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カメラがゆっくり動く。
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フェンスの外側。
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靴が、揃えて置いてあった。
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「……は?」
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声が出たのか分からない。
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ポケットの中で、紙がぐしゃっと音を立てる。
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『ごめんね』
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それだけが、残っていた。




