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「じゃ、次はあたしとはるたその関係についてねー」

(まどか)ちゃん待って。それは私が説明するわ」

 まるで名探偵気取りでピンと人差し指を伸ばした円を遮り、波瑠(はる)ちんが半歩進み出る。


 わたしをまっすぐに見つめる波瑠ちんは意を決したように一度頷いてみせると、

仁井(にい)さんと幸帆(ゆきほ)ちゃんが兄妹になった秘密を、無理やり聞き出したとはいえ私だけが知っているのはフェアじゃないから教えるね。――仁井さんと私は兄妹なの。れっきとした血の繋がった兄妹」

 淀みなく口にした言葉は嘘や冗談には聞こえなかった。


 それどころか、そもそも波瑠ちんの口にした言葉の意味がすぐには理解出来なかった。


「……え、は? で、でも苗字が、……え、学年も同じで、あ、双子? ……え?」

 壊れたボイスレコーダーみたいに片言で疑問の切れ端みたいな単語を紡ぐことしか出来なかった。


 そんなわたしの狼狽をきっちり読み取った波瑠ちんは、

(みなと)はお母さんの旧姓なの。離婚の際に、仁井さんはお父さんに、私はお母さんに引き取られたから。あと私たちは双子じゃないわ。仁井さんは4月5日生まれで私は翌2月27日生まれだから、誕生日は違うけれど学年は同じになるのよ」

 やっぱり言い淀むこともなく、さらりとわたしの疑問に的確な返答を寄越してくれた。


 これまでに何度も同じ説明を繰り返してきたような熟れた雰囲気が滲んで見えた。


 誕生日は違うけれど学年上は同級生の兄妹だなんて。


 それがどれくらいの確率として起こり得るのかなんてさっぱりわからないけれど、二人が実の兄妹だと教えられて別の疑問が浮かび上がってきた。


「え、でも……、妹さんって、亡くなったんじゃ……」

「……え? 仁井さん、そんなこと言ったの?」

 わたしの疑問を受けて波瑠ちんが真潮に訝しそうな視線を送り、真潮は真潮でわたしの発言に困惑しきった表情のまま首を横に振って否定する。


「……言って、ない」

 そうだ、真潮は『亡くなった』なんてそんなことは言っていない。


 実の妹がいたって話を聞いた時に、てっきりその思わせぶりな言い回しから亡くなってしまったのだろうとわたしが勝手に勘違いしたのだ。


 なんだ、妹さんはちゃんと生きているじゃない。良かった。


 いやいや、良いとか悪いとかの問題ではない。


 しかもその妹さんが友達の波瑠ちんだったとは。


 そんな大事なことを秘密にしたまま、あんな口調で昔語りをされては勘違いくらいしたって仕方ないじゃない。


「……もう、仁井さんはいつも説明不足なのよ。けど、それこそ普通に双子だったら説明も簡単なんだけれど、双子じゃない同学年の兄妹ってややこしいでしょう? それでいちいち説明が面倒だから黙っておこうって仁井さんが言い始めて、聞かれないかぎり言わなかったの」

 それが失礼なのかどうかもよくわからないけれど、正直なところ真潮と波瑠ちんはあまり似ているとは思わない。


 両親の離婚で苗字も違っているそんな二人が、実は兄妹だなんて本人たちが口にしない限り誰も気が付いたりしないだろう。現にわたしも一度として思い浮かべさえしなかった。


「ただ私は隠していたつもりはないのよ。だってずっと幸帆ちゃんの前でも『()()()』って呼んでいたでしょう?」

 まったく悪びれた様子もなく波瑠ちんは首を傾けて言ってのけた。


 仁井谷(にいや)だから愛称で『仁井さん』と呼んでいるのだろうと思っていたのに、まさか堂々と『兄さん』と呼んでいただなんて。


 確かに真潮もずっと波瑠と呼び捨てにしていた。離れて暮らしていようと実の兄妹だからこその親しみが滲んでいる気がした。


 説明を終えてすっきりしたのか、波瑠ちんは大きく伸びをするみたいに深呼吸をする。


 背中を反らせると自然に強調される波瑠ちんの大きな胸が視界に飛び込み、なるほど確かにこのサイズだったら小学校に上がる前からブラくらい身に着けていたかもしれないと、ブラの扱いに慣れすぎている真潮への違和感がすとんと解消された。


 真潮も意に介する様子さえなく波瑠ちんのデカい胸とはっきり言っていた。

 実の妹だったからおかしな意識など最初からなかったのだ。それはそれでデリカシーに欠けるとは思うけれど。


「じゃあ、離ればなれになる直前に、聞いてあげられなかった妹のお願いって……?」

「……兄さん、そんなことまで話しておきながら私と兄妹って伝えてなかったの?」

 妹さんは亡くなったわけでもなく身近にいるのに、真潮が後悔していた妹のお願いとは何なのだろうか。


 口をついて溢れた疑問を受けて、波瑠ちんが呆れ果てた視線を真潮に突き付ける。


「あのね幸帆ちゃん、もうわざわざ言うまでもないと思うけど、兄さんはいつだって妹のために一生懸命なの」

 わたしたちから視線を逸らして黙っていた真潮がぴくりと身動ぎする。


 実の妹からそんなことを言われてしまって、さすがにこそばゆい感覚なのだろうか。


「ずっと子供の頃から、いつだって私のことを気にかけてくれて、いつだって守ってくれていたわ。……けど、離ればなれになる直前に、私のわがままのせいで兄さんを困らせちゃって、きっとそれが原因で兄さんは『妹のお願い』に執着することになったの。離ればなれになるってわかった時の私のお願いであり無茶なわがまま――」


 それはあの日、真潮が自ら言っていた、叶えられなかった妹のお願い。






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