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 翌日の学校の昼休憩、弁当を食べ終えて日課にしている特売品の吟味を進める。


 来るべき夕方のタイムセールという戦場に向かう前の最終確認だ。


仁井(にい)さん、ちょっといい?」

 スマホに落としていた視線を上げると、いつの間にそこにいたのか波瑠(はる)がそばに立っていた。


「ん、どうした波瑠? また忘れ物か?」

「ううん。今日は違うの」

 くすっと苦笑いを浮かべながら胸の前で小さく手を振る。


「再来週の日曜日に料理部参加の地域交流会が催されるんだけど知ってる?」

「いや、まったく知らん」

「もうっ、部活にちっとも来ないからよ……」

 波瑠が困り顔で諫めてくる。諫めるとは言っても口調が穏やかなので迫力は一切ない。


「そうは言ってもなあ……」

 幽霊部員と化した俺が、恥ずかしながら在籍だけしている部活は料理部だった。


 高校入学当時の俺は今と同様に家事全般で忙しく部活動に勤しむつもりはなかったが、掲示板に張り出された控えめな文字だけの部員募集の張り紙が目に留まった。


 明確に料理部と名乗っていたことと、活動日が月、水、金のみと記載されていたことで迂闊にも食指が動いてしまった。実益を伴いそうな部活があると知って、よせば良いのに好奇心が疼いたのだ。


 部活見学で訪れた調理室で、「わあー! 男の子だー!」と部長を名乗る先輩女子に歓迎され、その穏やかな物腰のわりに押しの強い誘いに抗えず入部届を奪い取られた。

 そして次の活動日に、部員である先輩女子たちが紅茶を淹れて持ち寄ったクッキーを食べつつお喋りを始めたのだ。


 そこで問い質してわかったのだが料理部の活動内容は文化祭の出店や地域交流会などが主で、行事が近付くまで料理の試作を行ったりはしないとのことだった。


 先輩女子たちに紛れてキャッキャウフフと紅茶にクッキーで盛り上がるだけならば、スーパーのタイムセールで特売品をゲットした方が遙かに有意義だ。


 そう思い直すのに時間などかからず、大きな行事以外で部活とは名ばかりのお茶会に参加することはなくなった。


 ちなみに波瑠が料理部に入部してきたのは俺がお茶会への参加を止めてからだった。


 そういったわけでここ最近はまったく部活に顔を出していないのだから、再来週の日曜日に地域交流会が行われる予定など知らなくて当然だった。


「あれ、波瑠ちーん。どうしたのー?」

 波瑠に渋い顔を向けていたところに、間延びした声で鳴海(なるみ)が近付いてきた。


「あ、幸帆(ゆきほ)ちゃん。ちょっと部活の話をね」

「部活? 波瑠ちんとまし――」

 首を傾げながら波瑠から俺に視線を移しつつ、こともあろうか俺の名前を口にしかけて辛うじて堪えた。


 踏まれてもいないのに爆発しようとする地雷がほいほい歩いて近付いてきたかのようだ。


 放っておいたら芸術点の高すぎる墓穴を掘るに違いない。


「お前には関係な――」

 取り繕うために咄嗟に声を上げたのだが、もしかしなくても『お前』呼ばわりは疑いを招いてしまうのではないだろうか。

 

 そんな不安がよぎり無言で鳴海と見つめ合ってしまう。


『ちょっとアンタ! 馴れ馴れしいでしょ!? 波瑠ちんにバレたらどうするのよ!』

『お前が話しかけてきたんだろ! 学校では話しかけんなって自分で言ったの忘れたのか?』

 口以上に饒舌な半眼で睨んでくる鳴海に、腹の内側で毒づきながら睨み返して応戦する。


「それで、部活の話って?」

「あ、再来週の日曜日に生徒会と合同で地域交流会があるのよ」

 不遜に腕組みして鋭く俺を睨み付けたままで鳴海が話を戻し、その凶悪な表情を不思議そうに眺めながら波瑠が改めて説明する。


「え、生徒会と合同ってことは綿摘(わたつみ)くんも参加するの?」

 野生の獣じみた表情をあっさり吹き飛ばして、生徒会というキーワードから瞬間的に綿摘の名前をはじき出す。

 

 綿摘は一年生の頃からサッカー部と生徒会を掛け持ちしていた。二年生になった今は会計を務め、文武両道なイケメンという漫画のキャラみたいな肩書きを得ていた。


「うん、たぶん参加するんじゃないかな? 私はよく知らないけれど」

「生徒会と合同でイベントするなんて料理部って役得なのね!」

「そんなことないよ。地域交流会自体が生徒会主導の催しだから、そこに料理部がお邪魔させてもらってるだけだよ。他には吹奏楽部も参加するし」

「そうなんだ。うーん、吹奏楽は今からは無理っぽいけど、料理部って手があるのかー……」

 顎に指を添えて思案しているが、吹奏楽が今から無理だと認識出来るのに、どうして料理ならワンチャンありそうな口ぶりなんだろう。


 洗い物でさえ一度として手伝ったことないくせに。






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