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「うーん……、波瑠ちんにあって、わたしに無いものってなんなんだろう……」
「そりゃあデカい胸だろ?」
「キモッ! うわキモッ、キッモ! どこ見てんのよ変態っ!?」
うっかり条件反射で口を挟んでしまいキモキモ連呼の餌食となってしまう。
「波瑠にあってお前に無いものって、見た目にはっきりわかるのはそこだろ?」
「うわ、クラスの陰キャが波瑠ちんのおっぱいエロい目で見てるって教えてあげなきゃ」
「比べるまでもない歴然たる事実を率直に答えてやっただけじゃねえか……」
「え、ちょっと待って? わたしのおっぱいもチラチラ見てたってこと? キッモ!」
「いや、お前のはブラ手洗いしたから数値的に知って――」
「あーっ! あーっ! 記憶から消したい出来事なんだから思い出させないでよっ!! ていうか、なんでサイズ盗み見てるのよ!? マジ最悪なんだけど!? 誰かに喋ったら殺すわよっ!!」
耳を塞いで叫び始めたかと思うとすぐさま猛然と怒鳴り散らしてくる。感情の起伏が激しすぎるだろ。その見るからに起伏の少ない胸みたいになだらかな気持ちを保てよ。
そして俺が指摘したとおり、波瑠は大人しそうな見た目にそぐわぬ膨らみを携えていた。多くの男子生徒の視線を釘付けにする山脈は、鳴海の平野では明らかに分が悪いだろう。
「洗濯タグに表示されてんだから好きで見たわけじゃねえ。確かアンダーが――」
「ちょおおぉぉっ、具体的に言うなっ!! 忘れなさいよっ!?」
当たり前だが喋るつもりなんて毛頭ない。
しかし学校での猫をかぶりきった姿しか知らないであろうクラスの連中が、この変貌っぷりを知ったらどんな顔するのか興味は覚えてしまう。
忘れろとしつこく食い下がってくる鳴海を無視して、ガスコンロを点火しフライパンを温める。この貧乳に付き合っているといつまで経っても晩飯の支度が進まない。
「……今日はなに作ってるの?」
直前まで膨れっ面で抗議を続けていたのに、食材の炒められ始めた香ばしい匂いにあっさり懐柔された鳴海が俺の手元をそろりと覗き込んでくる。
「今日はピーマンがたくさん手に入ったからな。ピーマンたっぷり青椒肉絲だ」
「えー……、わたしピーマン苦手なんだけど……」
「好き嫌い言うな」
「……ちょっと待って。ねえ、お肉が見当たらないんだけど?」
「うん? 入ってるだろ、えーと、……ほら、この辺に、ほらっ」
フライパンを傾けて炒められるピーマンの中から肉の欠片を発掘してみせる。
「少なっ!? たったそれだけ!? ほぼピーマンじゃん!? 99割ピーマンじゃん!?」
「99割なんて言葉はないぞ? お前ちゃんと勉強しろよ。正しくは9割9分だ」
「わかってるわよ! それくらいピーマンばっかりだって誇張して言ってんのよ!」
日本の義務教育の限界を目の当たりにしたと本気で心配してしまった。やれやれ。
「ほら! これ見てみなさいよ! これっ!!」
鳴海が手を伸ばして俺の眼前にスマホの画面を示す。青椒肉絲で検索されたサイトには、お手本のように美しく盛り付けられた美味しそうな画像が表示されている。
「見なさい、これが青椒肉絲っていう料理よ! 見るからにお肉たっぷり! どこからどう見ても主役はお肉でしょ? しかも見てほら、青椒肉絲って名前の中に堂々と『肉』って入ってるでしょ! アンタのそれはなに!? これじゃピーマン炒めでしょ!!」
「心配しなくても俺のピーマン炒めは絶品なんだ。大人しく座って待ってろ」
「ピーマン炒めって認めちゃった!? 青椒肉絲どこに消えたのよ!? 何度も言うけどわたしピーマン嫌いなの! なんなのこの嫌がらせ!?」
「嫌がらせじゃねえ。今日帰り際に下の大家さんからピーマンたくさん貰ったんだ」
うちのアパートの一階には大家のお婆さんが一人で住んでいる。
その大家さんがアパートの敷地でわりと本格的な家庭菜園で野菜作りをしていた。以前、俺が声をかけて手伝ったことをきっかけに収穫された野菜の数々を譲ってくれるようになったのだ。
「たくさん貰ったから今度の休みは草むしりでも手伝いに行かないとな。まだまだあるから明日はピーマンの……詰めにするぞ」
「え、なんて? 今ボソッてなに言ったの? ねえ、肉詰めじゃないの!? ピーマンに詰めるものなんて肉しかないわよね!?」
「……畑のお肉を詰める。お前、絹ごしと木綿だったらどっちが好きだ?」
「とうふ!!」
「おお、絹ごしと木綿でよく豆腐ってわかったな。さては豆腐大好物だな?」
「お肉よ! 大好物はっ!!」
今にも床をのたうち回りそうなほど悲壮な声で「肉! 肉ぅ!」と叫ぶ姿にさすがに憐れみを覚えてしまう。ゾンビ映画のモブゾンビでさえもう少しは理知的な気がする。
しかし俺にだって目の前のリアル肉食妹ゾンビを不憫に感じるくらいには情ってものがあるので、出来上がったピーマン炒めに埋もれるわずかな肉を多くよそってやることにした。
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