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「アンタ今日、綿摘くんと話してたよね?」
学校が終わりスーパーをはしごして厳選した特売品を手に帰宅した俺より、少し遅れて帰ってきた鳴海がスニーカーも脱ぎきらないうちに問い質してきた。
「ん? ああ、そうだな。一方的に向こうからだけどな」
指摘されて綿摘が話しかけてきたことを思い出す。
興味がないせいで完全に記憶から抜け落ちていた。俺にはイケメンに話しかけられてときめく乙女心は備わっていないらしい。
「友達、ってことはないだろうから……、どんな関係なのよ?」
「なんで真っ先に友達って選択肢を除外するんだ。まあ友達じゃねえけど」
「だったらどういう繋がりなわけ?」
「どういうもなにもクラスメイト以上の繋がりなんてねえよ……」
俺の返答がお気に召さないのか、鳴海は憮然とした表情で見据えてくる。
なんなんだこいつら?
陽キャって連中は自分の心情を隠そうって気はないのか?
人狼とかやらせたらバカ丸出しで名乗り出そうな拗らせ方だな。
「あ、そうそう、波瑠ちんとも話してたよね? 陰キャのくせに」
「誰と話したって陰キャかどうかは関係ねえだろ。お前の価値観どうなってんだ?」
鳴海と波瑠は友達なのだと以前、波瑠から聞いたことがあった。
今朝みたいに綿摘が波瑠に頻繁に声をかけるため自然と陽キャグループから仲間として認識されているらしい。
そんな中でも鳴海からは『波瑠ちん』とあだ名で呼ばれるくらいには仲が良いそうだ。
「あ、それから円とも話してたよね? まあ円はオタクに優しいギャルとか似合いそうだから、どんな陰キャにでもほいほい話しかけるか」
「誰にだろうと優しいんだから人を陰キャ扱いして蔑んでるよりよっぽど健全じゃねえか」
「あんな尻軽な態度が陰キャを勘違いさせるのよ。わたしは一線を引いてるだけだし」
考えられないと言わんばかりに首を振りながら鼻の頭に皺を寄せる。
「友達を尻軽呼ばわりかよ、女の友情って儚いな……」
「ぼっちが友情を語らないでくれる? とりあえず円のことはいいわ。それで波瑠ちんとはどんな利害が一致してる関係なのよ?」
「俺と波瑠が普通に知り合いって発想は出てこねえのかよ?」
「えっ、下の名前呼びとかなに? キモ……」
「俺が誰をどう呼ぼうとキモくはねえだろ。ほっとけよ」
「もしかして綿摘くんのことも名前で呼んだりしてるの?」
「呼んでねえよ、友達じゃねえって言ったばっかだろ。……それに綿摘が話しかけたのは波瑠に対してだ。俺はそのついでだよ」
「わかってるわよ、そんなこと」
ほんの牽制球のつもりで投じたボールは気持ちいいほどあっさりと打ち返された。その直球ライナーの場外ホームランくらいの勢いには、さすがに意表を突かれてしまった。
疑う余地さえなく綿摘は波瑠に気がある。
その波瑠が俺の元によくやってくるので、接点を持ちたい綿摘は俺に対する牽制も兼ねて声をかけてくるのだ。
だから俺はあのイケメンをいまいち素直に受け入れられないのだ。友情でもなければ仲間意識すらないのだから。
「綿摘くん、波瑠ちんのどこが良いんだろう……」
「お前マジですげえな、友達に対してその上から目線ってどうなんだよ?」
「別に上から目線なんかじゃないわよ。そう聞こえたアンタがひねくれてるだけでしょ。友達だからこそちゃんと知ってるから言ってるのよ。波瑠ちんはすごくかわいいし性格も良いし勉強も出来る。でも、それならわたしだって変わんないじゃない?」
「お前、性格悪いし馬鹿じゃねえか。かわいいしか当てはまってねえぞ?」
「うっさい! 余計な口挟まないで!」
かわいいって部分だけは認めてやったのに理不尽に怒鳴られる。
それにしても鳴海は、綿摘に対する気持ちを隠そうともせず喋る。
ただ仮に、煮え切らない態度で遠回しな口ぶりだったとしても鳴海の気持ちは察しがついていた。
告白と勘違いされて一方的にフラれて以降、恨みがましく目の端で追っていて気が付いた。綿摘に向ける視線や態度、細かい仕草などが口より顕著に気持ちを物語っていたからだ。
だが俺には関係ないことだ。口を挟むなと言うなら晩ご飯の仕込みを始めることにしよう。
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