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「ほんとにごめんなさい! ぜんぜんタイプじゃないし、今まで口も聞いたことないんだから無理だよ。それにわたし好きな人いるから、ごめんなさい!」

「お、おい、待て。なに言って――」

「あー、うん、わかるよ。だったら片想いでいてもいい? とか言うつもりでしょ? それもごめんなさい! 変に期待させちゃうのってわたしも辛いんだよ」

 

 まるで事前に用意されていた断り文句をなぞるように、俺に言い返す隙さえ与えず迷いもなくハキハキとごめんなさいを連呼しやがる。

 

 そして良くも悪くも圧倒的な美少女様な鳴海(なるみ)は、俺が声をかけてからこの瞬間に至るまで欠片も声のトーンを落とすことなく会話を続けていた。


 おかげで、さすがにクラス中が俺たちのやりとりに気が付きざわつき始め、

「……ええ、なに? 告ったの? ここで?」

「うそでしょ、ありえなくない……?」

「あいつ誰? どこのクラスだっけ……?」


 教室内のいたるところから訝しむ視線が遠慮もなく突き刺さり瞬く間に騒然となる。


 なんだこれは? 用があって声をかけただけなのになんでこんなことになったんだ? あと、どこのクラスって言ったやつ誰だ? 俺はずっとこのクラスにいるぞ。


 それにしたって陽キャって人種はもっと、クラスのみんなに均一に優しく接する属性じゃないのかよ? もしかして俺、知らないうちにめちゃくちゃ嫌われてるのか?


 そんな無益なことを思い浮かべている今も、教室内のクラスメイトたちが鳴海のことを心配そうに眺めている。悠長なことは言ってられないのだが、これは日を改めるしかないだろう。


 渋々そう結論付けた矢先に、

「どうしたの鳴海さん? なにかあった? 誰こいつ?」

「おい、お前、どこの陰キャだよ? 鳴海さん嫌がってるじゃねえか、なにしてんだよ」

 クラスのカースト最上位グループに属する豊原(とよはら)玉野(たまの)が声をかけてきた。


 普段から教室内の定位置に陣取って談笑している陽キャ男子の一員だ。ご丁寧に俺のことを押しのけるように身体を寄せながら鳴海を背に隠す。


「あ、豊原くんに玉野くん。ただの告白だから平気だよ。……ちょっとこんな場所でいきなりだったからびっくりしちゃったけどね」

 心配そうに覗き込んでくる二人に向かって鳴海は手のひらを振って苦笑を浮かべる。


 口調はともかく鳴海はここまでずっと笑顔だったこともあり、俺たち二人にいざこざが起こっているようには見えていなかったはずだ。にもかかわらず、下心丸出しな二人が乱入してきたおかげで俺はあまりにも理不尽に窮地に立たされてしまった。


 俺は大事な用があるから、他人に聞かれないために教室から誘い出そうとしただけなのだ。しかも他人に聞かれないためにと気を遣ったのは、鳴海の立場を思っての配慮だ。


 それなのに勝手に告白と勘違いされて一方的にフラれた挙げ句に、しつこく食い下がって引き際を見誤った陰キャの烙印を押されているのだ。きちんと否定して誤解を解かないと今後の学校生活に支障を来してしまう。


「いや、待て待て! そうじゃなくてだな――」

 慌てふためきながら弁解しつつ、鳴海に向かってほんの一歩だけ踏み出した俺に、

「なあ? フラれて悔しい気持ちはわかるが諦めろ。高嶺の花にもほどがあるぞ?」

「そら、わかったら大人しく自分の教室に帰れよ?」

 豊原と玉野ががっちりと立ち塞がって鳴海を背に隠してしまう。


 ここぞとばかりに頼りになる男子アピールをして、じつにやましい魂胆が露骨に透けて見える。しかし当の鳴海はそんなことに気が付いていないのか二人の背後からてへっと首を傾げて、

「二人とも乱暴はダメだよー。えーと……、この彼だって勇気を振り絞って告白してきたんだからさ。ちょっぴりだけ場所とタイミングを考えてほしかったけど……」

 などと余計でしかない一言を付け加えやがった。


「ちょっ、待てっ、誤解だ――」

「鳴海さんがおおらかな天使の優しさの持ち主で良かったな。ほんとにこの辺にしとけよ」

 まるで弁解の余地も与えられないまま豊原と玉野に両腕を掴まれ、教室入り口まで引き摺られた挙げ句に無理やり廊下に放り出されて扉を締められてしまった。


 いやだから告白なんかしてねえよ!? しかも俺はここのクラスメイトなんだが!?


 固く閉ざされた扉越しに邪魔者が消え去ったことで安心したのか、教室内で鳴海を心配して周りに群がっているのであろう話し声が漏れ響いてきた。


 俺は自分の教室の扉を見上げ、途方に暮れてため息を零すことしか出来なかった。


 こうして俺は、学年一、二を争う美少女の鳴海幸帆(ゆきほ)に告白してフラれた身の程知らずとして、不名誉極まりない時の人として祭り上げられてしまった。


 これが、これから兄妹となる俺と鳴海の最初の交流であり、最悪の幕開けだった。






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