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「ちょ、ちょちょちょ!? 手洗いっ!? わたしのブラを!? アンタが!?」

「別に俺がやってもいいが、それくらい自分でやれよ……」

「うっ……、やったこと、ない……」

「マジかよお前、この歳になってまで母親にやってもらってたのか?」

「違うわよ! ママじゃなくて伝説の家政婦の志奈(しな)さんが全部やってくれてたのよ!」

「同じだバカ。その程度のことを伝説の家政婦にやらせんなよ? ブラの手洗いなんかで伝説の1ページに泥を塗ってんじゃねえ」

「家政婦の志奈さんはこんなことで怒ったりしなかったし!」

「仕事なんだから当たり前だろ。……ああ、もうわかった。とりあえず洗い方教えてやるから、まずはさっさと飯食ってブラ脱いで持ってこい」

 大仰な溜息交じりにチラチラと戸棚の置き時計を気にしているので時間が押しているのだろう。しかしそれよりも、さらに聞き捨てならない指示が届けられ自分の耳を疑ってしまう。


「ちょっと待って? ……え、手洗いするのに、脱ぎたてのブラを渡せってこと?」

「当たり前だろ、使ってねえもの洗ってどうすんだ? すぐに洗わないと臭くなるだろ」

「臭くなんてないしっ!?」

「だったら何だよ? ……ああ、なるほど。大丈夫だ、問題ないぞ。お前がどんな地味でババくさいブラを着けてようと一切気にしねえから安心しろ」

「わたしが気にするのよ!? あとババくさくなんてないしっ!?」

「あとあれだ、パッドは取り外せよ? あれ付けたまま洗うと洗剤が残りやすいからな」

「パ、パッドなんてしてないわよバカッ!!」

 あまりの言い草に手元にあったボックスティッシュをぶん投げてやるが、難なく躱されて憤りだけが増してしまう。なんなのよこの男、デリカシーとかどこに置き忘れてきたのよ!


 しかし、だからといって洗濯をしないわけにはいかない。そう多くない選択肢の中で、洗濯をしないという選択が間違っていることだけはさすがにわたしでもわかる。


 洗濯しないわけにはいかないが、言わばこれは乙女の一大事だ。


 あまつさえ下着を見られるだけでも不快なのに、脱ぎたてほやほやを手渡さないといけないだなんて。しかもあろうことか男子からブラの手洗いの教えを請う羽目になる痛恨の失態。

 致命的なのがその男子が同じクラスの陰キャぼっちなのだから目も当てられない。だが、洗い方を知らないわたしに取れる手段など残されてはいない。


 急かされながら朝食を終えて追い立てられるみたいに隣の部屋で着替えを済ませ、唇を噛み締めて恥ずかしさにぶるぶる震えながら洗濯物を差し出した。

 せめてもの抵抗として他の洗濯物の間に挟み込んで手渡したのに、この男は雑に受け取るなり事も無げにブラだけ掴んで引きずり出し、まじまじと顔を近付けて凝視し始める。


「ちょおおおおっ!? 何してんのよバカぁ! 変態っ!!」

 もはや変態から始まる肩書きを増やしてやる余裕もない。


「洗濯マーク確かめてるんだ、邪魔すんな」

「にゃあぁぁ~~~~……っ!!」

 完全に下着泥棒が匂いを嗅ごうとブラに顔を埋めている姿にしか見えないのだが、わたしに出来ることは尻尾を踏まれた猫みたいな呻き声を上げるくらいしかない。


 洗濯マークの確認を終えると、ぬるま湯を溜めた洗面器で洗剤水を作りじつに業務的に手洗いの方法を説明し始める。


「ホックは留めとかないとレースに引っかかるからな。こうやって肩紐の付け根を摘まんで振り洗いするんだ。聞いてんのか?」

「いにゃあぁぁ~~~~……っ!!」

「カップ部分を掴み洗いとかすると形が崩れるからな。っと、パッド外せっつっただろ」

「うにゃあああぁぁ~~~~……っ!!」

 こっちは恥ずかしいやら悔しいやらで顔を上げていられないほどなのに、この男はまったく意に介さずただの作業として淡々と進めていく。

 

 目ざとく気が付いたパッドを抜き取り、丁寧に押し洗いするこの瞬間も顔色一つ変えない。


 いままさにこの男が素手で触れているのは、ほんの少し前までわたしの胸を覆っていた脱ぎたてのブラなのだ。

 もっと恭しく扱えとは言わずとも、女性の下着を目の当たりにしているのだから何かそれなりの反応があってもいいのではないか?


 何かしらの反応があれば気が済むわけではないけど、完全に流れ作業の一環として洗面器の中で振り洗いしているだけなのだ。


 ほんの数分前まで天下の女子高生様が身に着けていたブラなのよ?


 そんなの、目玉くらい飛び出てもおかしくない期間限定SSレアアイテムでしょう?


 少しくらいはドギマギしてみせるとか、気を遣って直視しないようにしても罰は当たらないでしょう? 


 だからといってわたしの口からそんなことを訴えられるはずもなく、盛りの付いた猫みたいに低く唸り続けながら恥ずかしさを堪えるしかないのだった。


 こんなことがあるだろうか。夢や幻だったとしてもここまで酷くはならないと思う。


 ああ神様、明日からは自分のブラは自分で洗濯します。だからどうか、この悪い夢から早く目覚めさせてください。悪夢だったことにしてください……。






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