永遠に響く声をよそに。
それから、公園で時間を潰して、いつの間にか時間になっていたから、路地裏に行こうとした。向かっていた。
けれども、それは叶わなかった。
「なんで貴方がここにいるの」
「お前は関係ないだろ」
目の前にいる、博之を見て呆れる。なんで、なんでこの道にいるんだろう。
だんだんと呆れもいらだちに変わってきて、もういっそこの場で…と思い始めた頃、博之は声を荒げながらその言葉を放った。
「こんな時間に、こんなところにいるなんて、お前こそなんでなんだよ」
「別に、いいじゃない」
「あ?…もしかして…あの噂は本当だったのか?」
からかうように言う博之に違和感を抱く。噂、とはなんだろうか。
ピンと来ていない私の様子を見たのか、博之は、「うわっ、知らねえのかよ」と言い、少し勿体ぶるようにぐしゃっと顔を歪ませて言った。
「施設の子供を殺したって噂!」
施設の子供…。少し藩王が遅れる私を放って博之はどんどんと言葉を紡ぐ。
「名前は何だったか知らねえけど、お前に話しかけた女がいたんだろ?」
私に話しかけてきた女の子。
ズキッ
「去年の春に不自然な死に方をしたんだろ?血がなかったのに、外傷もなかった!」
去年の春。血がない。外傷もない。
ズキズキッ
「それをお前がやったって言われてるんだよ!なんせお前は——」
はやし立てるように少しづつ早口になっていた博之を突き飛ばして、それ以上の言葉を聞かないようにする。
その場にうずくまり、熱くなる体をなだめようと必死に呼吸を繰り返す。胸のあたりはズキズキと痛み続けて苦しい。
博之が何かを言っている。何を言っているのかはもうわからない。表情が変わっている気がするけど、それがどんな顔なのか判別できないくらい私の視界は霞んでいた。
うるさい。
聞こえないはずの耳から何かが聞こえる。それは懐かしくて、だけれども胸を痛くして、それがあの人の、結菜ちゃんの声だと分かって、もっと痛くなる。苦しくなる。
いつの間にか周りには人が増えていた。博之の取り巻きだとなんとなく理解した。
吸って、吐いて、浅く浅く呼吸をする。
視界に刃物が映った。それはもう数センチの距離まで迫っていると分かったけど、頭は真っ白で避けることも何も考えられなかった。
けれど、ああ、もういいやと思った。
私の体は思いのほか軽くて、動かそうと思えば簡単だった。
目の前にあった刃物は私の手にしっかりと握られていて、それは確かに狙いを定めていた。
周りにいた人たちは視界には映らなかった。
映るのは、
目の前にいる、
驚ろいたような、
そんな顔をしている、
標的だけ。
少しだけ、手は震えた。けれども、もうどうでもよかった。
どうにでもなれ。そう、唇を動かしたつもりになって、私は真っ直ぐ刃物を突き立てた。
ああ、これで、少しだけ、楽になれる。少しだけでも、世界が変わる。
もう一度言おう。
私の大嫌いなこの世界に。
これは全部、お前らが始めたことだ。
お前らが悪い。
私を壊したのも、お前らがやった。
お前らが私を本当のバケモノにしたんだよ。
永遠に響く声をよそに、私は標的を、刺した。




