私の名前
背も高くて、大人びているから、先生なんだと気づけた。なんで先生がここに…。そう考えても、答えはわからない。
私は、正直、先生も好きではない。施設の大人達よりかはまだましな気がするけれど。
それでもやっぱり、自分勝手なのも、どうせ私を助けてはくれないのも、結局は私をよく思っていないのも。全部全部、みんなみんな変わらない。
今日はこのまま、授業に連れていかれるかもしれない。それは嫌だけれども、私の体はやっぱり動く気配がなくて、諦める。
先生は、そのままこちらに足早に近づいてきてしゃがみ込み、私の顔を覗き込んだ。
先生の顔を見てドキッとした自分がいた。先生が近づいてきて分かったけど、この人の容姿は整っている。
目、鼻、口、バランスが整っていて、髪も透明感のあるさらさらとした髪だった。
なにより、その瞳が。
真摯に向けられた瞳が、綺麗で、それでいて胸が苦しくなるほど締め付けられた。
「どうしたの?大丈夫?」
「…別に」
心配そうな顔を作っているが、どうせ私のことは信じないのだと思い適当に答える。
先生は、一度困ったような顔を浮かべたが、すぐにきりっとした顔をに変え、私に言った。
「…保健室に行くわよ」
「え?」
突然そう言い放たれて私は困惑する。
保健室、そこは確か、一般的に怪我をしたり気分の悪くなった人達が利用する、小さな病院のような場所を言ったはず。私は利用したことがないから分からないけれど。
そう、私は保健室に利用したことがない。不登校であったり、怪我をしてもそのまま放置したりしていたから、保健室に行ったことがない。
何をされるのだろう。少しばかりの恐怖が私を襲う。
そんな私のことなんて気に止めていないのかなんなのか、先生は私の手を取りゆっくりと立ち上がらせた。
「歩けそう?」
「え、あ、はい」
それを聞いた先生は「それならよかったわ」といいゆっくりとどこかへ歩み始める。
保健室に向かっているのかとすぐに分かり、私も大人しくついていくことにした。しかたないだろう、先生が手をとったまんまなんだから。
コツコツと二人分の足跡が響く。こんなに周りが静かなのは、今ごろ授業をしているからだろうか。
保健室まではそこそこ距離があるらしく、お互いに言葉を交わすことのないこの状況がなんだかむずがゆく感じた。
すると、そんな私を見かねたのか、はたまたたまたまなのか、先生が私に話かける。
「…貴方、もしかして不登校の子?」
こんな風に聞かれるとは思ってなくて、「え、あ」と間抜けな声を漏らす。もしかして私のことを知らない先生なのだろうか。私は不登校の生徒として有名だと思っていたから、少し意外だった。
「そう、ですね」
どんな表情をしたらいいのか、どういうのが正解なのか、わからなくて。結局曖昧に笑ってそう答えた。
すると先生は、「やっぱり」と小さく呟いて、こう続けた。
「貴方が安齋先生言っていた坂井春菜さんで間違えないのね」
坂井春菜。それは紛れもない私の名前で。
凄く、久しぶりに聞いた単語だった。




