表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/29

迷子の子兎は狼に狙われる

 そうしてしばらく歩いていたのだけど、一向に道が見えてこない。

 同じ景色がずっと続いているあの感覚だけが私を付きまとっている。

 本当に大丈夫かと今更ながらに心配になるけれど、今この人に声をかける勇気は持ち合わせていない。

 そんななか、相手の方から話を持ち出される。


「貴方はこっちの方に住んでいる方じゃないのですね」


 突然だったから少し驚いたけれど、とりあいず返しておく。


「そうですね、このあたりについては良く知らなくて」

「そうなのですか。じゃあこっちでよく言われる話も聞いたことないのでしょうね」


 こっちでよく言われる話…とはなんだろう。

 噂話のようなものだろうか…と考えていると、その話について教えてくれる。


「ここらにはものすごいお金持ちの人がいるんです」

「お金持ち…ですか」

「丁度あそこのあたりに大きな屋敷が見えるでしょう?あれを別荘にしているんですよ」


 そう指をさした方向には、それはもうそこら辺の家じゃ比べ物にならない程の豪税な屋敷だった。

 あれを別荘……とは、いったい本家の家はどんな大きさをしているのだろう。


「そこに住む一人息子は、昼間()とっても優しく、愛想がいいんですよ」

「昼間…は?」


 優しく愛想がいいのが昼間“だけ”とでもいうような言い草だ。

 私はそこがどうも気になって、聞き返していた。

 それに対して、ニコリとほほ笑んでこちらを見ているこの人に何処か違和感を覚える。


「はい、昼間はそんな人物なんですよ。ですけれど、夜の間は違うんです」


 なんだろう、なんだかすごく嫌な感じがする。


「…人を簡単に殺せてしまうような、とってもおかしな人になっちゃうんですよ」


 そんなことを、微笑みを崩さず口にしている。

 今日は満月で、暗闇の中で神々しく輝いて私たちを照らしている。

 そうして、その満月を背にして笑っているこの人への違和感は膨らんでいる。


「子供に早く帰らせるための戯言ではないですよ?本当の話ですから」


 笑顔がいつかのときのように酷く歪んで見える。


「その一人息子…殺人の証拠は一切残さないので、警察も行き詰っているそうなんですよ」


 心の何処かで、恐怖心が顔を出す。


「当たり前だけどね、証拠を残す馬鹿が何処にいるかって話なんだけど」


 突然外れた敬語にはもう違和感を感じない。

 それ以上に、私の頭は「逃げろ」と告げていた。


 私は馬鹿だ、大馬鹿だ。

 いつから人を簡単に信用していいと思っていた。

 あの時、もう人のことを絶対に信用しないと誓ったんじゃないのか。

 その誓いはどうしたんだ。

 そもそも、私はこの人について何も知らなかったじゃないか。

 他の人たちとは違うじゃないか、此処は知らない場所だったじゃないのか。


 まるで走馬灯とでもいうように、私の脳内で数々の記憶の断片が溢れる。

 そのなかには、どうしてもあの時の、あの日の、“あの人”の姿が顔を出す。


 動かなくちゃいけないけど、もうぐちゃぐちゃの私じゃそんなことできるわけもない。

 例え動いても、逃げられるのだろうか。


 もう嫌だ、と自然にも思う。

 散々な日々も嫌だったけど、それ以上のことが起きていいはずもない。


 前を見た。


 月に照らされているその人は、その瞳をギラギラと光らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
良いなぁ...。私にはよく分かんない三人称しかこういう物語書けないので...。やっぱり面白いですよ。読みやすいですし。私には書けないです。本当に世界観が良い!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ