騙し合い
今回は、とってもとっても珍しい雪先生視点でお話が進みます。
どうやら、騙しているのは一人だけじゃないみたいで。
静かになった部屋で、私は安齋先生に問いかける。
「あれでよかったんですか?」
「よかったんだよ」
安齋先生は、そういいながら何かを資料にまとめていた。
あれ、とは先ほど春菜さんと話したことである。
元々、我々教師陣としては、学校に来てほしいのが本音。
だから、少しでも話をしようと半ば無理矢理連れ込んできた。
彼女をだますみたいな形になってしまったけれど、そういうつもりで連れてきたのだ。
それで、話した内容があれなのだから、不安にもなる。
「最初から彼女の嫌な話をするより、少しでも彼女に興味を引くような話をする方がずっといい」
そう穏やかに語るこの人の思考は、底なし沼のようで全く掴めない。
彼女、とは春菜さんのことだろうが、彼女にとって興味のある話があれだというのだろうか。
そうだとしたら、春菜さんもまた思考が読めない人間なんだと思う。
そんな私の見解に気づいたのか、「ちなみに」と補足を始める安齋先生。
「あの話も、僕にとって知りたかったことだというのは変わりがないよ」
それを聞いて、やっと理解する。
連絡がつかない…みたいな話は本当だったらしい。
あの心配も、全てとまではいかなくても、ある程度が本当のことだったのだろう。
「…本当に不思議な人です、貴方は」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
変わらずすんなりと返されて、一つため息をつく。
その様子を横目で見ていたらしい安齋先生は、ふと資料をまとめる手を止めた。
「それと…もしかしたらその僕の弟なんだけど…」
そこまで、言いかけたところで。
「…やっぱなんでもない」
そう、寸止めを食らう。
「なんなんですか?」
「僕は不思議な人だから、こんなことがあっても不思議じゃないでしょう?」
そうまたまた上手く言いくるめられる。
ムカッと来たところはあったが、もう何を言っても無駄なのだ、と自分を落ち着かせる。
それより、その言葉の続きは何だったのだろうかと、気になって仕方がない。
その安齋先生の双子の弟が、いったいどうしたというのだろう。
自分で考えてみようとも思ったけれど、いいや無理だろうとすぐに悟って諦める。
その間も、呑気に安齋先生はお茶を飲みながら休憩を楽しんでいる。
「またいつかいうよ、確信にたどり着いたわけじゃないからね」
「そのいつかはいったいいつになるんでしょうね」
珍しく私が一本取ったようで、安齋先生は黙って動かなくなる。
よし、と心の中でガッツポーズしたのは内緒。
そんなことに私が気を取られている中、安齋先生は虚空に向かって、
「優也が、犯罪に手を染めている可能性があるとはまだ信じたくないからね」
そんなことを小さく呟いていたのは、まだ誰も知らない話――。
いつだってこの話には嘘が隠れている。
一見ただの明るい話でも、その裏に何が隠れているかなんて、よくある話。
だから、いつだって考えるべきは、全ての登場人物の心情である。
それが、きっとこの話に隠された真実を明かしてくれるだろうから。




