未経験まみれ
「あの…なんでこんなことになったんでしたっけ…?」
「私が連れてきたからね」
「…なぜ…?」
相変わらず慣れない保健室と雪先生のノリにただ戸惑う。
私に近づいてくる人は、いつだって強引で説明不足な人ばっかのようだ。
…逆に、そうでもなきゃ私に近づけないのだろうか。
そんなことを考えながら雪先生の返答を待っていたが、どうやら雪先生は答えるつもりはないらしい。
現に、素知らぬ顔で机の片づけをしている。
「…質問に答えてもらえますか?」
と、催促してみたはいいが、まだ黙って机を片付けている。
ここまで思い切り無視をされると怒りが滲んできそうだ。
仕方なく、自分で考えてみることにする。
が、それで答えにありつけるわけもなく、ただ座っているだけの時間を過ごす。
もう、口を開ける空気じゃないような…と思ったところでやっと雪先生が口を開いた。
「…もう少し時間がかかりそうだから、少し手伝いをお願いしてもいいかしら?」
もう少し時間がかかりそう、とは何だろうと思ったけれど、聞いても答えてくれないだろうから諦める。
とりあいず「いいですよ」とだけ答えて、椅子から立ち上がる。
ちょっとの間座っていただけだと思ったけれど、足はしびれていて歩くたびにジンジンした。
このくらいの痛みは我慢しようと思い、雪先生に近づく。
雪先生は何かの資料を広げていた。
よく見ると、それは表になっているようで、クラス、名前、症状と一番上に書かれている。
ということは…。
「保健室に利用しに来た生徒たちに関する記録なのだけど、まとめるのを手伝ってほしいの」
学校の保健室とは、そんな細かい作業があったのかと思いながら頷く。
それからは、雪先生の言う通りにそこにかいてあることを読み上げていく。
…だけだったはずなのだが。
「…」
私は途中で黙りこくっている。
何故かというと、漢字が読めないから。
…症状に関することが、難しい感じが多い。
いや、そもそも学校にあまり着てないせいで勉強不足だからなんだろうけど。
結局そうやって私が読めなくなることが多いため、先生は一人でまとめることに。
それから十分もかからずにまとめていたので最初からこっちのほうが早かったのではとも思った。
代わりに、今ある医療用品の在庫チェックや、整頓などを手伝ったのだけど…。
私は戸惑ってすぐに先生を呼んでしまうため、結局先生一人でやるほうが早くなってしまった。
この時間は何だったのだろうと思ったが、先生は「何事も経験」などと言っている。
そのうち、またやらされそうだと思った。
そうして時間を潰して、夕方になった。
多分、みんな下校すること。
私もかえっていいのでは…と思ったけれど、先生を見てもそんな空気ではないので大人しく待つ。
そこで、初めて先生が今日私は何をするために学校に連れてこられたのかを知る。
「実は、あってほしい人がいるのよ」
はて、と思ったところで、外でカツカツと足音が聞こえて、すぐに扉が開く。
その人が来たのかな、と思って扉のほうを見る。
そして、あぜんとした。
良く、見たことのある顔。
それに、そっくりな顔をした人が、中に入ってきていたから。
「すみません、待たせてしまいましたよね」
そうやって笑う仕草は、やっぱり優也に似ていた。




