おかしなカギはどこのカギ?
…そこまで考えて、ハッとする私。
カギ…そうだカギ。
カギのことを優也に、伝えなくては。
未だに申し訳なさそうにしている優也に、そっと声をかける。
「その…優也」
「…なに?」
…なんだかしょんぼりした子犬を相手にしている気分だ。
「実は…」
カギのことを切り出そうとする。
も、なんだか言い出しづらさが顔を出して上手く言葉が続かない。
私が言いよどんでいる間も、優也はじっとこちらをみて言葉の続きを待っている。
…これだから人付き合いは苦手だ。
「…カギをみつけて…そのカギ…落としちゃって…棚の下に…」
必要最低限の単語だけ並べた、意味の分かりにくい文章が口から溢れる。
絶対に伝わりにくかったと自覚があったから、伝わっただろうかと心配になる。
その心配は行動に出て、そっと優也の顔を見る――。
その瞬間、息が止まった。
いつからだろうか、こんなに人の表情がわかりやすくなってしまったのは。
いや、優也がわかりやすく表情をだしているのかもしれない。
優也は、驚いたような顔をしていた。
それは、ただの驚いたような顔じゃなくて。
予想外。
理解不能。
そんな言葉が似あうような、心の底から意味が分からないっと訴えるような顔。
そんな顔をしていた。
まず、伝わらなかったのかと思った。
けれど、それもなんか違うと思った。
状況についていけなくて困惑しながら、「ご、ごめん」と慣れない言葉を漏らす。
それでも何一つ動かさない固まったまんまの優也に、私は困惑を重ねただけだった。
しばらく、沈黙が続いた。
どちらも何もできない、すべてが時間に置き去りにされたその空間はしばらく残り続けた。
それを破ったのは、優也の小さなつぶやきだった。
「どうして」
本当に小さなつぶやきだった。
けれどもやけにしっかりと聞こえたそのつぶやきは私の頭の中でループする。
とにかく焦った。
最初は、私が落としたのはなぜかと聞かれたのだと思ったから。
けれど、違った。
はっとするように優也が、止まっていたすべてを引き戻してちゃんと話し出した。
「いや、気にしなくていいよ、もう使わないカギだから」
さっきまでの瞬間が嘘みたいに、すっかりいつもの通りに。
そうやっていった。
確かに、おもちゃみたいなカギだと思った。
だけど、じゃあ、なんで、どうしてってつぶやいた?
まだ混乱が残る私。
必死に、ただ必死に考える。
おもちゃみたいなカギ。
されどカギだ。
家とかの大事なカギじゃなくても、何かにあけるのに使うのでは?
…けど、本当にそれは何なのか、わからない。
ヒントも何もないのだから、仕方のないことだけど。
なぜだか、わからないといけない気がした。
ちらり、と優也を見た。
その優也はいつも通り。
だけど、その瞬間、少しだけ。
その眼には動揺が走っているように見えた。




