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著者:普遍物人「ネリケシ」

 ネリケシ、をご存知だろうか。消しカス、というのは一般には鉛筆で書いたものを消しゴムで消したあとに出てくるゴミのことだが、ネリケシというのはその消しカスを丸めて作る、あの塊のことである。小学生なら、余程の品行方正な生徒でない限り一度はネリケシを作ったことがあるだろう。少なくとも、あれに一生懸命な生徒を見たことがあるに違いない。


 あのなんともいえない手触り。鉛筆の炭素を含んだ途端、あそこまで硬かった消しゴムが指で捏ねられる柔らかさにまで退化していく様子は、小学生の私にとってとても不思議だった。

「俺、こんなに大きく出来た」


 ある日の休み時間に、ある男の子が大きなネリケシを掲げて自慢げにそう言った。それをみた別の男の子はまん丸のネリケシを掲げる。

「俺の方が綺麗だろ。お前のはでかいだけ」

 まん丸のネリケシを掲げた男の子は大きなネリケシを持っている男の子のネリケシを指差して笑った。

「なんだ、お前」

 ちょっと不機嫌そうな顔をその男の子はした。もう一方の男の子は続ける。


「別に大きなネリケシなんて、たくさん消して丸めるだけで出来るだろ」

「大きなネリケシって思ったよりも作るの大変だぞ」


 そして突然、こちらを振り返る。

「お前はどっちがいいと思う?」

 ぼうっとその様子を見つめていただけなのに、その喧嘩に突然巻き込まれ私は困惑した。私が使っている消しゴムではネリケシは作れない。ネリケシを作るには、元となる消しゴムにある程度の粘度が必要だ。しかし私の消しゴムは消しやすい、使いやすいという目的の下でその粘度は失われている。そんな私にとってネリケシというもの自体が既に憧れであり、その精度など考えたことすらなかった。

「どっちもいいと思う」


 そう言うと男の子二人は見つめあい、そして息をフンと鳴らして嘲笑った。

「つまんねえの」

「どっちか決めろよ」

 そう言うとまた、彼らは喧嘩へと戻っていった。


 私は酷く傷ついた。自分がつまらない人間だと言われるのが、非常に大きな侮辱だと、その時はそう感じたのだ。家に帰って私は自分の消しゴムを見る。そしてそれをゴミ箱に放った。


「ママ、消しゴム無くした」

 そう母に言って、私は母と消しゴムを買いに行く。様々な文房具が種類別で売られている中、消しゴムコーナーでは大量生産によって作られたなんの変哲も無い様々な種類の消しゴムが積み木のように並んでいる。私は消しゴムコーナーを見つけるや否や、ある一つの消しゴムに向かって一目散に走り出した。そして、なんの変哲もない消しゴムを大事そうに手のひらで包んで母にその消しゴムをせがんだ。


「そんな安いのでいいの?もっと使いやすいのでもいいのよ?」

 教育熱心な母が放った言葉はそれだった。

「うん、これでいいの」

 不思議そうな顔で母はその消しゴムを見つめ、それを買い物かごの中へと入れた。その時の高揚感といったら計り知れない。


 家に帰り、早速その消しゴムの封を開ける。触ると少しベタつくような消しゴムは、ネリケシを作ることができる立派な証だ。自由帳を取り出して開き、鉛筆を片手にその自由帳を塗りつぶしていく。少しして、新しい消しゴムでそれを消す。それを幾度も繰り返せばたくさんゴミが出て、それを集めて丸めれば小さなネリケシのカケラが誕生する。それをもっともっと繰り返せば、そのカケラは成長して立派なネリケシとなっていくのだ。


 次の日、前の日に勉強もせず意気揚々と作ったネリケシを筆箱に入れて、私は学校へと向かった。あの2人の男の子はどんな顔をするだろうか。綺麗で立派なネリケシを見て感動するだろうか。


「ねえ、見てよ。このネリケシ」

 仲が良さそうに談笑している昨日の男の子二人を呼んでそう言った。昨日、綺麗なネリケシを掲げた男の子はこう言った。

「きったねー、お前。ネリケシって手垢がたくさんついているんだぜ」

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