第6話最後の告白リハーサル
昨日の屋上に漂った、あの重く淀んだような静寂が、まだどこかに残っているような気がした。どこか拭いきれない粘り気を帯びて。
鉄のドアを押し開ける時、俺はなぜか無意識に、昨日のあの最後の鋭い問いと疲労に最後の力まで吸い取られ、黙り込むか、あるいは打ちひしがれた日向夏橘の姿を想像していた。
しかし、迎えてくれたのは、軽やかでリズムに乗った鼻歌の断片だった——調子は外れていたが、夏特有の、陰り一つない元気に満ちていた。
夏橘はドアに背を向け、金網の柵に向かって、簡単なストレッチをしていた。彼女は新しいスポーツショーツに着替え、健康的な小麦色に焼けた両足をピンと伸ばし、懸命に足首に手を伸ばそうとしていた。
「あ!北辰くん!」
彼女は振り返って俺を見つけると、顔にキラキラした笑みを浮かべた。昨日の陰鬱な影はまったく見えなかった。
「よかった!昨日の私のヒステリックな様子にびっくりして逃げ出さないか心配だったんだから!」
彼女は背筋を伸ばし、手をパンパンと叩きながら、小鹿のように軽やかに跳ねてこちらに向き直った。その動きはまるでエネルギーに満ち溢れた子鹿のようだった。
昨日の全ては、彼女自ら夏の灼熱の風の中に投げ捨てたかのようだった。あるいは…もっとありそうなのは、心の奥深くに押し込み、ただ「練習続行」という硬い殻だけを表に出しているのかもしれなかった。
「すまん、昨日はあんなこと言って。」
俺はヘアクリップを返した。彼女はそれを受け取り、ちらりと見てから微笑み、ズボンのポケットにしまった。
「もういいよ!今日が最後のレッスンだからね!」
彼女は人差し指を一本立てて、真剣な表情を見せた。
「決めたんだ、今日は何も考えない!テクニックも全部捨てて、『日向夏橘』って人間そのままの姿をぶつけて、言いたいことを叫ぶ!失敗しても、笑われても、とにかく…」
彼女は深く息を吸い込み、大声で叫んだ。
「いくぞーーーっ!!」
声は広々とした屋上に反響し、遠くの手すりに止まっていた数羽のスズメを驚かせて飛び立たせた。
俺はうなずき、昨日と同じ位置に立った。
夏橘は歩き回り始めた。最後の感情爆発の瞬間を醸成しているようだった。彼女の歩幅は大きく、コートをダッシュするようなリズム感があり、口の中でぶつぶつと呟いている。
「位置…オーラ…目線…」
陽射しがまぶしく、彼女は無意識に手をかざした。コンクリートの床を見渡し、理想的な「告白スポット」を探しているようだった。
突然、彼女が左足を前に踏み出した時、靴先がわずかに浮いたコンクリートの端に引っかかった!体全体が一瞬でバランスを失った!
「わあっ——!」
短い悲鳴が上がった。さっきまでの元気は跡形もなかった。翼を強く引っ張られた小鳥のように、彼女は斜め前方に倒れ込んでいった。
全てがあまりにも速く起こった。俺は反射的に彼女の方向に手を伸ばした。指先には彼女の服の裾が風を切る感触さえ感じられたが、何も掴むことはできなかった。
ドスン!鈍い音がした。
夏橘は粗いコンクリートの床に激しく転んだ。左足は不自然な角度にひねられ、右足は伸び、腕も支えようとしてコンクリートにぶつけた。彼女はうつ伏せのまま、微動だにしなかった。
俺は早足で近づき、彼女の横にしゃがみ込んだ。
「おい、大丈夫か?」
声には相変わらず感情の起伏はなかったが、普段より少し早口だった。
短い間が空いた後、彼女は必死に押し殺した、泣き声混じりの息づかいを漏らした。
「うっ…」
それからようやく、ひじで上半身をゆっくりと支え起こした。元気に満ちていた顔は今や歪み、額には一瞬で細かい冷や汗がにじみ、唇を固く結び、目のふちが目に見える速さで赤くなっていた。
彼女は左足を動かそうとしたが、ほんの少し持ち上げただけで、痛みに思わず息を呑んだ。
「ちっ…痛い!」
ついに涙が堪えきれず、いつもは俺を睨みつけるような頑固な目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。熱いコンクリートの床に落ち、濃い色の小さな染みを作った。
しかし、彼女は声を上げて泣くことはなかった。ただ下唇を強く噛みしめ、子猫のような細いすすり泣きを漏らし、肩をわずかに震わせていた。痛みを必死にこらえながら、それでいてひどく悔しそうなこの様子は、哀れでありながらもどこか愛らしく、罠にかかった傷ついた小動物のようだった。
俺は彼女のひねった左足首を一瞥した。すでに明らかに腫れ上がり、不吉な赤みを帯びていた。
何も言わず、俺は自分のショルダーバッグを下ろし、ファスナーを開けた。バッグは大きくないが、中身は驚くほど整然としていた。まるで小さな応急処置倉庫のようだ:個別包装のヨード綿、防水バンドエイド(可愛い模様のものがなぜか混じっている)、小さな巻きの伸縮性包帯、外用スプレー式鎮痛剤、さらには小さな消毒ウェットティッシュのパックまで入っていた。
俺はウェットティッシュを取り出し、一枚抜いて彼女に渡した。
「手を拭け。」
彼女はすすり泣きながら、涙でぼやけた目でそれを受け取り、床を支えた時に汚れた手のひらを慌ててこすった。その動作は不器用で焦りが混じり、かえって顔に灰をこすりつけてしまった。
「顔じゃない。」
「膝と腕だ。」
「あ…」
彼女はようやく気づき、不器用に肘と膝の擦り傷を拭き始めた——実際は軽い擦り傷と赤みで、より深刻に見えたのは足首だった。
しかし、彼女が拭く動作は慎重で、眉をひそめ、時々痛いところに触れて「ちっ」と声を漏らした。長いまつげにはまだ涙の粒がかかっていて、震えていた。
俺は彼女の不器用な動作を見ず、核心の問題の処理に集中した。まずヨード綿で腫れ上がった足首の周囲の皮膚を丁寧に拭いた。ひんやりとした感触に彼女はまた驚いて縮こまった。
「…つめたい…」
彼女は小声で抗議した。
「少し我慢しろ。」
短く答え、手の動きは止めなかった。次にスプレー式鎮痛剤。噴霧剤の匂いが漂った。
夏橘は目を見開いてそれを見つめ、俺がこんなものを持っていることに驚き、泣くのを忘れているようだった。
最後に伸縮性包帯だ。俺は指で腫れの位置と熱さを感じ取り、包帯を適度な圧力で巻きつけて固定した。
彼女の足首は細く、俺の手の中で微かに震えていた。痛みか緊張かはわからない。包帯が何重にも巻かれ、明らかに腫れた部分を締め付けた。
彼女はただうつむいて黙って見ていた。時々鼻をすすりながら、俺の処置に任せきりだった。普段はあふれんばかりの「おてんば」気質は、痛みと依存心に完全に取って代わられ、ただ柔らかく、世話を必要とする幼さだけが残っていた。
「よし、とりあえず固定した。」
俺は言い、立ち上がった。
「あそこに椅子がある。」
俺は隅の日陰にある椅子を指さした。
夏橘は両手で床を押して立ち上がろうとしたが、左足をほんの少し動かしただけで、顔をしかめて痛がり、涙がまた溢れそうになった。
「…だめ…痛い…」
彼女が左足首を抱え、動かしたいのに動かせず、片足で跳ねて立とうとしても転びそうになる、気まずくも愛らしい様子を見て、思わず手を差し伸べた。
「支えるか?」俺は手を差し出した。
彼女は俺の手のひらを見つめ、一瞬ためらい、目を赤くして首を振った。声にはひどい鼻声が混じり、小さく、どこか甘えたような響きがあった。
「支えじゃなくて…抱っこしてほしい…」
この言葉を口にした途端、彼女の顔が「ぱっ」と真っ赤になった。耳の付け根から首筋まで紅潮が広がった。
思わず口に出したこの要求に恥ずかしさと居たたまれなさを感じたのだろうが、足首の激しい痛みが残っていたわずかな羞恥心も押し流し、ただ涙で潤んだ、真っ赤な、悔しさと少しのわがままをたっぷり詰め込んだ目で頑なに俺を見つめていた。まるで「抱っこしてくれなきゃ動かない」と言わんばかりに。
俺は彼女の真っ赤な顔と頑なな目つきを見て、数秒間沈黙した。空気が一瞬止まったようだった。
それから、俺は無言で彼女の前にしゃがみ込んだ。
「乗れ。」
夏橘は俺があっさり承諾したことに驚いたようで、一瞬呆然としたが、すぐに顔にさらに深い紅潮が走った。彼女は体をずらし、そっと両腕を伸ばして俺の首に回した。
とても軽かった。壊れやすいものを壊してしまわないかと恐れているかのように。彼女の汗と太陽の匂いがする体の香りが一瞬で鼻腔を満たした。
俺は片方の腕を彼女の膝の裏に回し(わざと傷ついた足首を避けて)、もう一方の腕で背中を支え、簡単に彼女を横抱きにした。
とても軽かった。羽がまだ生え揃っていないひな鳥を抱き上げるようだった。彼女の体は一瞬硬直したが、その親密な接触に慣れていないようだった。それから徐々に力を抜き、頭をそっと俺の胸に預けた。温かい吐息が首筋をかすめ、くすぐったかった。
その感触は不思議だった。重さと温もりを帯びているのに、同時に信じられないほど脆く、どんな物を抱くのとも違っていた。
ほんの数歩の距離が、異常に静かに感じられた。聞こえるのは俺自身の足音と彼女の微かな息遣いだけだった。彼女は静かに俺の腕の中に丸まり、頭をさらに深くうずめた。日光に照らされたのは、ほんのりピンク色の耳の先だけだった。
椅子のそばまで来ると、俺は慎重に彼女を下ろした。冷たい鉄の椅子の表面に彼女は身震いした。
「待て。」
俺はバッグから、昨日たまたま持ってきて捨て忘れた古新聞の束(なぜ応急バッグに入っているのかは謎)を取り出し、冷たい鉄の椅子の表面に敷いた。
「敷いておけ。」
このごく当たり前の動作と言葉は相変わらず温度を感じさせなかったが、夏橘は一瞬呆然とした。涙の跡がまだ乾かない顔を上げて俺を見つめた。
その泣き腫らした目は今や澄んでいて、子供じみたぼんやりとした好奇心と探求心が混ざっていた。
「ありがとう…」
彼女は小声で言った。彼女を落ち着かせると、俺はまたバッグの外ポケットから二つの物を取り出した:未開封のスポーツドリンク一本と、コンビニの値札が付いたままの、丸々と膨らんだ三角おにぎり。
俺はそれを彼女の手に渡した。ドリンクは常温で、おにぎりも冷たかった。
「喉渇いてるか?それともお腹空いてる?」俺は彼女の前に立ち、彼女を見つめた。
彼女はドリンクとおにぎりを抱え、それらを見下ろし、また俺を見上げた。目にはさらに驚きが濃くなり、まるで目の前の人物を知らないかのようだった。
彼女は口を開けたが、言葉は出てこなかった。ただ無意識にうなずいた。
「はい。もしお腹が空いてたら、少し食べておけ。」
俺の口調は相変わらず平然としていた。
夏橘はそのドリンクとおにぎりを抱えたまま、長い間動かなかった。錆びた金網を通して差し込む陽の光が、彼女の顔にまだらな影を落としていた。
顔には乾いた涙の跡が残り、目の下も赤みが残っていたが、口元は少しずつ、抑えきれずに上向きに曲がり始めた。それは間抜けで、それでいて尽きることのない温かさに満ちた笑みだった。
「ぷっ…」
彼女は突然泣き笑いした。足の擦り傷が引っ張られて「ちっ」と声を漏らしたが、笑みはさらに深まった。さっきまで涙でいっぱいだった目は今やキラキラと輝き、まるで雨上がりの晴れ渡った空のようだった。
「北辰くん…あなたって人…ほんとに…」
彼女は笑いながら首を振り、この大きなギャップを表現する適切な言葉が見つからないようだった。
彼女は慎重におにぎりの包装の端を破り、中から美味しそうなご飯と海苔を覗かせた。
食料を貯めるリスように、彼女はそれを近づけて匂いを嗅ぎ、それから顔を上げた。笑顔は輝き、少し悪戯っぽい狡さと、それでいて純粋な喜びに満ちていた:
「あのさ…北辰くんって、こんなに人を気遣えて、こんなに気が利いて、こんなに優しいんだから…将来の彼女はきっと超——級——幸——せになるよ!」
彼女はわざとらしく声を伸ばし、目を三日月のように細めた。そしてわざとらしく無傷の足をぶらぶらさせた。
「『無愛想だけど心は優しい』って、あなたのことだよね!ね、当たってる?うん?」
俺は「彼女」に関する彼女の冗談には答えず、彼女がおにぎりの包装を開けた後、その魔法のようなバッグからまた一冊の文庫本(いったいどれだけ詰め込んでいるんだ?)を取り出し、待機時間を過ごす準備をした。
背後からは、夏橘がおにぎりを小さくかじるかすかな音と、彼女の満足げで、もごもごとした呟きが聞こえてきた。
「うん…サーモン入り…美味しい…」
陽の光が心地よく、屋上の風もいくぶん優しくなったように感じられた。遠くの喧騒はかすかに聞こえたが、まるで別世界から来ているようだった。
俺はわずかに顔を横に向け、視界の隅でそばをちらりと見た。
その小さな影は、新聞紙を敷いた椅子に大人しく座り、おにぎりを抱えてほおばっていた。両頬が膨らみ、目は細く三日月になり、幸せで少し間抜けに見える満足げな表情を浮かべていた。
陽の光が優しく彼女を包み込んでいた。昨日のすべての困惑、苦闘、疲労は、この陽光と小さな冷たいおにぎりの一片の中で、一時的に癒されたようだった。彼女の足に巻かれた白い包帯は、日光の中でひときわ目立っていた。
これが…いわゆる『可愛い』ってやつか?
俺の指先が無意識に本のページの端を擦り、かすかな「サラ」という音を立てた。
最後の告白練習は、予期せぬ転倒と意外な軽食で、あっさり幕を閉じた。




