夕焼けの蜜柑
放課後、優凛が両手を合わせた。
「ごめんね!北辰くん、午後は買い物に行くんだ、予約してあるから」
夏橘はペンギンのぬいぐるみを抱えて言った。
「私も、午後は試合の約束があるんだ」
伶もノートを取り、素早く書いた。
『午後…伶は…おばあちゃんと一緒に…(・ω・`)、おばあちゃん…めったに来ないから』
咲幽は顔を上げ、静かに付け加えた。
「母の仕事を手伝いに行く」
優凛はみんなを見て言った。
「でも…これは生徒会の正式な招待だよ…直接断るのはちょっと…」
彼女は助けを求めるように僕を見た。
「北辰くん…あなた…」
僕はすぐに彼女の意図を理解し、口を開き、断りの言葉がほとんど出かかった。
でも考えてみると、妹たちは美咲お姉さんが好きだから、もう少し長くいても大丈夫だろう。
「…わかった」
僕は最終的にため息をつき、疲労と少しの諦めを込めた声で言った。
「僕が行くよ」
優凛の目が一瞬輝いた。
「本当?北辰くん!ありがとう!助かったよ!」
彼女は興奮して僕の手を握りしめて揺らした。
夏橘はすぐに歓声を上げた。
「やった!北辰くん万歳!」
伶も安堵の笑みを浮かべ、ノートに書いた。
『ありがとう、北辰くん!(≧▽≦)』
咲幽は軽くうなずいた。
「…お疲れ様」
僕は苦笑いしながらうなずいた。どうやら…今日も遅刻しそうだ。スマホを取り出し、美咲お姉さんに素早くメッセージを送った。
『美咲お姉さん、ごめん!今日学校で急用ができて、迎えに行くのが遅れるよ。もう少し見ていてくれる?本当に申し訳ない!』
すぐに、美咲お姉さんからの返信が来た。
『OK!安心して行って!小さな子たちはここで楽しく遊んでるよ!気をつけてね!(^_^)』
返信を見て少し安心したが、心の奥の不安は完全には消えなかった。総合棟三階の大活動室へ直行した。
重厚な活動室のドアを押し開けると、中にはもうかなりの人が座っていた。腕章を見ると、生徒会のメンバーや他の部活の代表、20人ほど。活動室の前方には、臨時の小さな演台が設けられていた。演台の後ろに、一人の姿が立っていた。
その瞬間、すべての光が彼女に集まっているように感じられた。
「白鳥遥」
「現生徒会長、高一ながら圧倒的な実力と気迫で当選し、創立以来最年少の『伝説の会長』と呼ばれる」
彼女は標準的な女子制服——濃紺のブレザー、白いブラウス、赤い格子のリボン、膝丈の濃紺プリーツスカートを着ていた。
なぜか座った途端、隣の生徒がそう言い出した。
「ブレザーは彼女の細くも引き締まったウエストを描き出し、白いブラウスの襟は一番上のボタンまでしっかりと留められ、プリーツスカートの下には、黒タイツに包まれた真っ直ぐで長い脚が伸びていた」
「…」
まあ、最後まで聞いてみよう。
「しかし最も目を引くのは、彼女の同年代をはるかに超え、大人をも唸らせるほどの驚異的なプロポーションだった」
「豊満な胸はブラウスを驚くべき曲線で持ち上げ、ブレザーの上からでもその張りつめた膨らみを感じ取れた。それは熟した桃のようで、致命的な魅力を放っていた」
「演台下では、多くの男子が目を見張り、隠しきれない驚嘆の眼差しを向けていた」
「どう?彼女に魅了されたか?」
隣の生徒が突然僕に尋ねた。
「いいえ」
「何だ、じゃあ話にならないな」
そう言うと、彼は他の人と話し始めた。
「うわ…これ…Hカップ?スイカみたいだな…」
「しっ!静かに!会長に聞こえたら大変だ!」
「しかし、この衝撃的なプロポーションとは対照的に、彼女の顔は冷艶な美しさを放っていた。白磁のような肌、精巧に彫られた磁器のような端正な顔立ち」
「瞳は深い墨色で、今は冷静に壇下を見渡し、鋭く落ち着いた眼差しは年齢を超えた威厳と距離感を漂わせていた。高い鼻梁の下には淡いピンクの薄い唇が、今はきつく結ばれていた」
「彼女はそこに立つと、雪の中で咲く寒梅のようだった。美しく、孤高で、凛として犯しがたい。強力なオーラが瞬時に活動室のささやきを鎮めた」
彼らは皆、同じものを見ていない。
場所を変えた。そこはうるさすぎた。
「皆さん、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
白鳥会長の声が響いた。
「今日お集まりいただいたのは、私の文化祭開会式スピーチの模擬練習を行い、皆さんに貴重なご意見やアドバイスをいただきたいからです。練習後、フィードバックシートをお配りしますので、ぜひ真剣に記入してください」
彼女はスピーチを始めた。内容は文化祭の意義、展望、そして全校生徒への激励について。
壇下の聴衆は、当初は彼女の美貌と気品に息を呑んでいたが、次第に注意が散漫になった。
こっそりスマホをいじる者、隣の人と小声で話す者、あくびをする者、視線が泳ぐ者…
真剣に聞いている者は、ごくわずかだった。
白鳥会長の視線が壇下を一掃した。彼女の声は相変わらず力強く、表情に変化はなかった。
スピーチは約15分続いた。
突然、白鳥会長の声が途切れた。彼女の話すスピードが明らかに遅くなり、澄んだ力強い声に少しのかすれと震えが混じった。
明るい照明の下で、彼女の顔はさらに青ざめ、額に細かい汗がにじんでいた。彼女が原稿を握る指の関節は力の入れすぎで白くなり、わずかに震えていた。
「文化祭は…ただの…お祭りではなく…」
彼女の声は途切れ途切れだった。
「私たち…団結を…示す…」
彼女の息遣いは荒くなり、体がかすかに揺れた。
壇下のざわめきが少し静まった。誰もが彼女の異常に気づいた。
「会長?」
「白鳥会長?」
「大丈夫ですか?」
佐藤さんがすぐに脇から駆け寄り、心配そうな表情で尋ねた。
「会長?大丈夫ですか?」
白鳥会長は力強く首を振り、体勢を立て直そうとした。深く息を吸い込み、続けようとした。
「…青春を…見せる…」
しかし声はかすれた。彼女は突然手を上げて演台の端を支えたが、体は揺れ続けた。
「会長!」
「早く!支えて!」
活動室は一瞬で混乱に包まれた。前列の生徒会役員数人と近くにいた男子がすぐに駆け寄り、彼女のぐらつく体を支えた。
「私…大丈夫…」
白鳥会長は必死にまっすぐ立とうとしたが、声は弱々しかった。
「ただ…少し疲れただけ…休めば…」
「会長!顔色がすごく悪いよ!」
「じゃあ次回にしよう!まず休んで!」
「そうそう!体が大事!」
「スピーチは次回にしよう!」
佐藤さんが口を開いた。
「会長、今日の練習はここまで!私が保健室に送ります!」
彼は他の役員と一緒に白鳥会長を支え、演壇から降りた。
「すみません…皆さんの時間を無駄にして…」
白鳥会長はうつむいた。彼女は支えを振りほどこうとしたが、体に力が入らなかった。
「大丈夫大丈夫!会長、ゆっくり休んで!」
「体が大事!」
「私たちは行くね!」
「会長、お大事に!」
人々が潮のように去っていった。生徒たちは次々に立ち上がり、ひそひそ話し、様々な表情を浮かべていた——心配、同情、安堵、無関心…
しかし例外なく、全員が活動室を素早く去り、フィードバックシートのことは誰も言及しなかった。
あっという間に、広い活動室はがらんどうになった。残ったのは演壇前で生徒会役員に支えられている白鳥会長と…後列の隅に座っていた僕だけだった。
佐藤さんと他の役員が小声で相談していた。
「佐藤、会長は私たちに任せて、君は先に行ってくれ!」
「わかった!じゃあ会長を保健室に送るの頼む!」
佐藤さんはうなずき、白鳥会長を一瞥した。
「会長、まず休んで、他のことは心配しないで」
そう言うと、彼も急いで去った。
活動室には、二人の生徒会役員(女子)が慎重に白鳥会長を支えているだけだった。そして…僕。
白鳥会長は少し体力が回復したようで、支えている腕をそっと振りほどいた。
「私…自分で…」
「会長…」
二人の女子は心配そうだった。
「行って…ください」
白鳥会長はうつむいた。
「少し…ここに…いたい…」
「でも…」
「行って」
二人の女子は顔を見合わせ、少し躊躇したが、最終的にうなずいた。
「それでは…会長、ゆっくり休んでください」
彼女たちも活動室を去った。
「カチッ」
活動室の重いドアがそっと閉まった。
広大な空間に、僕と彼女だけが残された。
白鳥会長はまだうつむいていたが、微かに震える肩が必死に耐える弱さを露呈していた。彼女は動かなかった。
時間が刻一刻と過ぎていく。
突然——
「うっ…」
かすかな嗚咽が、彼女の固く結ばれた唇の間から漏れた。
続いて、彼女はよろめきながら後退し、背中が冷たい演壇の端にぶつかり、鈍い音を立てた。
彼女はもう支えきれず、体が演壇の端に沿って滑り落ち、最後には無力に冷たい床に座り込んだ。
彼女はそこに丸まり、墨色の長い髪が乱れて顔を覆った。両肩が激しく震え、抑えきれなかった、砕けたような泣き声がついにこらえきれなくなった。
「うっ…うう…」
「うっ…うっ…」
泣き声は大きくはなかった。彼女は膝をぎゅっと抱きしめ、顔を腕に深く埋め込んだ。その細い背中が広い活動室の中で、とても小さく、無力に見えた。
僕は後列の隅に座ったまま、動かなかった。
慰めにも近づかず、ティッシュを渡すこともなく、何も言わなかった。
ただ静かに見つめていた。彼女が冷たい床に丸まっているのを。肩が無力に震えるのを。
抑えた、砕けた泣き声が広い部屋に響くのを聞いていた。
哀れみ?
いいえ。
哀れみは上から目線の弱さだ。たとえ善意からでも、
他人に哀れみを表現するとき、立場が変わる。
少なくとも僕はそう思う。強者が弱者を見下すことだ。
僕は彼女を哀れむ必要はないし、彼女も僕の哀れみを必要としていない。
彼女は白鳥遥だ。この高校で最も若い生徒会長だ。皆の目に輝かしく、万能の「伝説」だ。
彼女がその立場を選び、その重さを背負うことを選んだ以上、それに伴うプレッシャー、孤独、崩壊さえも引き受けなければならない。
これは彼女の選択であり、彼女の戦いだ。
転んでも、泣いても、それは彼女の戦いの一部だ。
僕は彼女の選択を尊重する。
今の弱さは、本物だ。すべての仮面を外した後、16歳の少女の最も本物の疲れと悔しさだ。
この本物さは、僕の慰めで汚される必要はない。
だから、僕はただ見ている。彼女を慰めない。いつか彼女のそばにいて支える人が現れるだろう。
時間が抑えた泣き声の中でゆっくりと流れた。
どれくらい経っただろうか、その悲痛な泣き声は次第に途切れ途切れのすすり泣きになり、ついに消えた。
彼女はまだ丸まったまま、動かなかった。しばらくして。
彼女はついにすべての力を出し尽くしたようで、泣く力さえ残っていなかった。彼女はゆっくりと、非常にゆっくりと顔を上げた。
墨色の長い髪が青白い頬に乱れて貼りついていた。涙が流れた跡がはっきり見えた。
いつも鋭く澄んだその目は、今は赤く腫れ、虚ろでぼんやりしていた。彼女の唇は自分で噛んで青白くなり、血がにじんでいた。全体が嵐に打たれ、散りそうな花のようだった。
彼女はぼんやりと人気のない活動室を見回し、目は虚ろだった。それから彼女の視線が、突然僕に注がれた。
彼女の瞳が一瞬縮んだ。ここにまだ別の人がいることに気づいたようだった。
彼女は無意識に顔を背け、自分のみすぼらしい姿を隠そうとしたが、体は硬直して動かなかった。
「あなた…」
彼女の声はかすれ、鼻声がひどかった。
「…なぜ…まだここにいるの?」
彼女の目には混乱、疑問、怒りが満ちていた。彼女は皆が去ったと思っていたのだろう。
僕は静かに彼女を見つめ、彼女の慌てた質問の眼差しに応え、声に一切の抑揚はなかった。
「依頼です。応援部が依頼を受けました」
依頼を受けた以上、何があってもやり遂げなければならない。そうしなければ妹たち(迎えに行けなかった)に申し訳ない。
白鳥会長は呆然とした。彼女はその答えを全く予想していなかったようだ。彼女は僕を見つめ、赤く腫れた目に困惑と理解不能が満ちていた。
彼女は口を開け、何か言いたそうだったが、結局何も言わなかった。ただ非常に複雑な眼差しで僕を見つめた。
沈黙が再び包み込んだ。
僕は立ち上がり、机の上のフィードバックシート(空白)を取り、演壇の前に歩み寄り、椅子に座り、ペンを手に取り、静かに彼女を見つめた。
「会長、もし続けられるなら、最後まで聞きます」
白鳥会長は完全に呆然とした。彼女は僕を見、それから演壇の上のフィードバックシートを見た。青白い顔に一瞬血の気が上り、すぐにうつむき、両手でスカートをぎゅっと握りしめ、体が再び微かに震え始めた。
ついに、彼女は顔を上げた。赤く腫れ、涙の跡が残ったその目は、僕をじっと見つめていた。
彼女は冷たい演壇の端に手をかけ、少しずつ、床から体を起こした。
彼女の動きは遅く、体はまだ微かに震えていたが、彼女は立ち上がった。
深く息を吸い込んだ。その息は激しく震えていた。彼女は演壇上の原稿を取り、指が力の入れすぎで関節が白くなった。
彼女は顔を上げ、視線は僕ではなく、僕の頭の上を越えて、活動室後方の空席に向けられた。まるでそこに聴衆が座っているかのように。
彼女の声が響いた。かすれ、砕け、ひどい鼻声と抑えきれない震えが混じっていた。彼女は何度も練習した。
最後の一節が終わった時、彼女はすべての力を抜かれたようで、体ががくっと揺れ、再び演壇に寄りかかり、激しく息をしていた。
スピーチは終わった。
聴衆が僕一人だけのスピーチ。
僕はペンを取り、フィードバックシートに素早く書き込んだ。できるだけ詳細に、具体的に、僕の観察と提案を書いた。書き終え、もう一度見直し、漏れがないことを確認した。
それからペンを置き、書き上げたフィードバックシートを取り、演壇の前に歩み寄り、彼女の前の演壇にそっと置いた。
彼女は僕を見ず、まだうつむき、激しく息をしていた。肩が微かに上下していた。
僕は彼女を見つめた。
青白い肌の下に、青い血管が微かに脈打っているのが見えた。
赤く腫れた目はうつむき、長いまつげに小さな涙の粒がかかり、照明の下で微かに光っていた。
壇下に戻り、他の人のフィードバックシートを集め、彼女に渡した後。僕は黙ってカバンを置き、ファスナーを開けた。中を探り、あるもの——丸くてオレンジ色のミカンを取り出した。
今朝ついでに持ってきたもので、元気がない時に食べるものだ。
僕はそのミカンをそっと彼女の前の演壇に、フィードバックシートの隣に置いた。
「会長、甘いです。食べると気分が良くなり、元気も出ます」
そう言うと、彼女を振り返らず、彼女の反応も待たなかった。
僕は背を向け、カバンを持ち、活動室のドアへまっすぐ歩いた。
重いドアを押し開け、外に出た。
「カチッ」
ドアが僕の後ろでそっと閉まった。
廊下は明るかった。深く息を吸い込んだ。
スマホを取り出し、美咲お姉さんからの返信を見た:「大丈夫だよ、小辰!安心して行って!小さな子たちはここで楽しく遊んでるよ!待ってるね!」
僕は足を速め、校門へ向かって走った。
夕焼けの光が廊下に差し込み、僕の影を長く伸ばした。
活動室の中。
白鳥遥はまだその姿勢を保ち、冷たい演壇の端に寄りかかっていた。
彼女の視線が、ゆっくりと、非常にゆっくりと、演壇の上のオレンジ色のミカンに向けられた。
小さくて、丸くて、かすかに爽やかな果実の香りを放っている。
その隣には、びっしりと書き込まれたフィードバックシートがあった。
彼女は震える、冷たい指を伸ばし、非常に慎重に、そのミカンの皮に触れた。
冷たく、粒状の感触が、指先から伝わる微弱な電流のようだった。
彼女はそのミカンをぎゅっと握りしめた。
小さなミカンが、彼女の長い指に包まれた。すぐにはむかなかった。ただうつむき、手のひらのミカンを見つめ、長いまつげが目に湧く感情を隠した。
しばらくして、一滴の熱い涙が、ミカンの滑らかな皮に音もなく落ち、小さな濃い染みを作った。
そして、また一滴。
彼女はそのミカンをぎゅっと握りしめ、顔を上げず、何も言わなかった。
ただ、ぎゅっと握りしめていた。




