新たな妹が現れた
「ああ、気持ちいい！」
深く息を吸い込むと、空気には青草の汁のような清涼な香りが漂っている。周囲を見渡すと、見渡す限りの草原が広がっていた。良い場所を見つけて横になる。見上げるのは純粋な青空。雲がゆっくりと流れていく。
風がそっと吹き抜け、頬を撫で、青草が揺れる。心地よく、安らかで、全ての悩みが風と共に吹き飛んでいったかのようだ。
その時、視界の端に、小さな薄茶色の、ふわふわとした影が飛び込んできた。
子牛のようだ。生まれて間もないらしく、歩き方にはまだよろめくような拙さがある。
濡れた大きな黒い瞳をぱっちり開け、好奇心とよろめきを交えながら、こちらの方へ近づいてくる。
「モー？」
用心深い鳴き声をあげ、僕のそばまで来ると、その丸っこい小さな頭で、そっと僕の腕をこすりつけた。温かい鼻息が皮膚にかかり、少しくすぐったい。
「お前、迷子か？」
手を伸ばし、その柔らかく温かい産毛に触れようとした。
しかし、指先が触れようとしたまさにその瞬間――
あの小さくて愛らしい子牛が、何の前触れもなく、膨れ上がった！まるで急速に膨らませられた風船のように、瞬く間に巨大な白黒の斑模様の乳牛へと変貌した。
その巨体が空を覆い、重い影がどんと押し寄せた。漂う匂いは青草の香りではなく、濃厚で息が詰まるような、畜舎の臭いと甘ったるい乳臭さが混ざり合ったものに変わっていた。
「モオオオオオオオオオオオーーーーーーッ！！！」
耳をつんざくような咆哮が、先ほどの幼い呼び声に取って代わった。
無形の圧力に僕はその場に釘付けにされ、胸が押しつぶされ、ほとんど息ができなかった。
巨大な乳牛の頭が垂れ下がる。かつては澄んでいたであろう、今は濁って巨大な眼球がじっと僕を睨みつける。湿り気があってざらざらした黒い鼻先が、僕の顔にますます近づいてくる……温かく、草の腐ったような酸っぱい匂いが鼻を突く。
巨大な、唾液で光るピンクがかった黒い舌が、僕の顔に貼りつこうと迫ってくる！
「やめて！だれか助けて！」
強い吐き気と窒息感が襲い、僕は必死にもがいた。
「あっ！」
その瞬間、目が覚めた。背中は冷や汗でびっしょり、心臓は胸の中で狂ったように暴れている。
「はあ、夢か…」
目の前には広大な草原ではなく、見慣れた薄暗い寝室の天井。耳には耳をつんざく咆哮ではなく、自分の荒い息遣いと…
「お兄ちゃん！起きた？」
濃厚な眠気の中にも元気いっぱいの声が、僕の真上から響いた。
首を固まったようにぎこちなく動かす。
未久が僕のお腹の上にまたがっていた。彼女の顔には寝起きの紅潮が残り、髪は少しぼさぼさで、数本の寝癖が跳ねている。僕を見下ろし、大きな目にはからかいの笑みと、目覚め特有のぼんやりした光が揺れていた。
「お兄ちゃん、さっきうめいてたよ？悪い夢でも見たの？」
彼女の小さな手が僕の胸を押さえ、全身の重みが惜しみなく僕の腹部にかかっている。妹は小柄とはいえ、この実質的な圧迫感はなかなか辛い。
彼女はこの姿勢に何の問題も感じていないようで、むしろさらに身を乗り出し、僕の顔に近づいてきた。
温かく柔らかい吐息が鼻先をかすめる。そして、僕が答える間もなく、彼女はそっと僕の頬に「ちゅっ」とキスをした。
「悪い夢、飛んでいけー！未久のちゅーは魔法なんだからね！」
彼女は顔を上げて、笑った。
「次からはやめろ、辛い。」
「わかったよ！」
未久は満足げに、僕が一瞬固まり少し呆けた表情を眺めると、すっと僕のお腹から降り、ひざまずくようにしてベッドに座り、両手を差し伸べた。
「さあ！未久を抱っこして降ろして！」
僕は無言でため息をつき、腕を伸ばして彼女の肩と腰を抱き、少し力を入れてベッドから降ろし、冷たい床板の上に下ろした。
足が床につくと同時に、未久は大きく伸びをした。目をこすり、小さなあくびをして、ぼそっと呟く。
「眠い……おにいちゃん、歯磨き行ってくるね……」
「行っておいで。」
身支度を整え、階下で夕食の支度を始める。リビングは静まり返り、窓の外から時折聞こえる鳥の鳴き声だけが響く。
キッチンに入り、冷蔵庫を開ける。卵、牛乳、食パンを取り出す。
フライパンがコンロの上で温まり、かすかなじゅうじゅうという音を立てる。慣れた手つきで卵を割り、卵液が鍋に滑り落ちると、瞬時に黄金色の円形に固まり、縁に細かい油の泡が立つ。香りが漂う。
その時、玄関で鍵が錠を回す音がした。
カチッ。
ドアが開いた。
「ただいま！」
旅の疲れと、かすかな焦りを帯びた、聞き慣れた女性の声。
「お邪魔します！」
続く低い男声。
父と母だ。来週帰ると言ってたはずでは？少し驚き、フライ返しを置き、火を止め、キッチンから出る。
玄関で、両親は靴を履き替えようと腰を折っていたが、僕が一瞬で眉をひそめたのは、彼らの突然の帰宅ではなく、彼らの後ろに連れられている…小さな影、四つだった。
四人の女の子。五、六歳くらいに見える。色とりどりだが、どれも精巧で可愛らしい小さなワンピースを着て、玄関の狭いスペースにびくびくと固まっている。
小さな顔はみんな冷えて赤く染まり、大きな目には長旅の後の混乱と一抹の不安が浮かび、この見知らぬ環境を好奇心と怖さ入り混じった目で見つめている。
「北辰、起きてたか？」
母が僕を見つけ、疲れた笑顔を浮かべる。
「ちょうど良かった。妹たちを紹介するわ。」
「え？妹？お父さん、お母さん、どうしてこんなに子供を…？」
父も背筋を伸ばし、眉間を揉みながら、濃い倦怠感を帯びた声で言った。
「北辰、何を言ってるんだ！これは…まあ、話せば長くなる。とにかく中に入れ、外は寒い。」
四人の女の子は両親に半ば押し出されるようにして、温かいリビングに連れ込まれた。リビングの広さと明るさに驚いたようで、大きな目がきょろきょろと動き、小さな手はお互いの裾をぎゅっと握りしめている。
母がしゃがみ込み、声をできるだけ優しくしようと努める。
「子どもたち、怖がらないで。ここはお兄ちゃんの家よ。これから…ここに住むのよ。」
声の端にかすかな嗚咽が混じっていた。
父はため息をつき、言葉を引き継いだ。声は重く、諦めに満ちている。
「北辰、こいつらは…お前の叔父たちの娘だ。」
深紫色のワンピースに黒い上着を羽織り、精巧なツインテールをした女の子を指さす。髪は深い紫色で、毛先が少しカールしている。
「二叔父の娘、素風凛音。」
小さな顔はこわばり、顎をわずかに上げ、きつく結んだ唇と微かに震える小さな手が彼女の緊張を露わにしていた。
僕を一瞥すると、すぐに顔を背け、軽く「ふん」と鼻を鳴らしたが、目尻の端でこっそりと僕を盗み見ている。
「三叔父の娘、素風静羽。」
次に指さされたのは、水色のリネンワンピースを着て、耳にかかるショートヘアの女の子。
髪は柔らかな亜麻色。眼差しは異様に静かだ。彼女は静かに立ち、両手を前で組み、小さな顔には表情もなく、ただ静かに僕を見つめている。
「四叔父の娘、素風星奈。」
今度は、淡い黄色のレース縁ワンピースを着て、ふわふわとした二つのお団子ヘアの女の子。髪は淡い金色。
彼女は非常に臆病そうで、ほとんどピンクのワンピースを着た女の子の後ろに縮こまり、驚いた子鹿のような潤んだ大きな目だけをこっそりと覗かせ、僕を怯えたように見つめている。小さな手は前の女の子のスカートの裾をぎゅっと握り、体は微かに震えている。
「五叔父の娘、素風陽葵。」
父が最後に指さしたのは、ピンクのふわふわスカートを着て、乱れていながらも異常に可愛らしい茶色の小さな巻き毛を頭に乗せた女の子。
小さな顔は赤く染まり、彼女は全く人見知りしないようで、大きな目はきらきらと輝き、好奇心と活気に満ちあふれ、背伸びをしてリビング全体を見渡そうとしていた。
これはおかしい！
「一体どうしたんだ？」
「彼女たちの両親は…」
母の声は低く沈み、深い諦めを帯びていた。
「…とても遠く、遠くの場所で仕事をすることになって…多分、とても長い間…祖父母は年を取っていて、田舎では面倒を見るのが難しい…私たちも…突然の知らせで…どうしようもなくて…」
そう言いながら、目尻がうっすら赤くなった。
「何せ…お父さんが…長男だからな…」
「仕方なく…まずはここに住まわせるしか…北辰、お前は兄だ…ちゃんと…」
後の言葉は言い切らなかったが、意図は明らかだった。五、六歳の四人の女の子が、突然両親から離れ、見知らぬ場所に送られ、ほとんど知らない兄に託されるのだ。
そしてその兄、つまり僕は――実の妹の感情さえしばしば理解できず、一人でいることに慣れ、むしろ冷淡な高校生だ。
目の前の、壊れやすい陶器のように繊細で不安を帯びた小さな影たちを見つめ、眉を強くひそめた。
巨大な、当惑、諦め、苛立ち、そして一抹の重い責任感が入り混じった感情が、一瞬で心の上にのしかかった。
未久一人の世話でも十分面倒なのに、今度は四人も増える？しかもこんなに小さな子供たち？僕が？ダメな兄が？僕に何ができる？ご飯を作り、家事をして、それから？他には…ないようだ…
リビングには重い沈黙が流れた。両親の顔には疲労と申し訳なさが刻まれ、僕を見る目には懇願の色が浮かんでいた。
四人の女の子もこの重い空気を感じ取ったようで、ますます不安そうになった。星奈はほとんど全身を陽葵の後ろに隠そうとし、大きな目にはすぐに涙が溜まった。
凛音も小さな顔をこわばらせ、顎をさらに高く上げたが、目尻はこっそりと赤くなっていた。静羽は相変わらず静かに僕を見つめ、その目にはかすかな心配の色が浮かんでいた。
陽葵は小さな首をかしげ、両親と僕を交互に見つめ、何が起こっているのか理解できないようだった。
この息が詰まるような沈黙の中、陽葵が突然動いた。
彼女は何かをようやく確認したかのように、大きな目をぱっと輝かせ、星奈を握っていた手を離すと、小さな足を踏み出し、迷いなく、まっすぐに僕に向かって走ってきた。
「お兄ちゃーーーん！！！」
僕が反応する間もなく、小さくて温かい体が僕の足元にぶつかり、二本の小さな腕が僕の脚をぎゅっと抱きしめた。
「お兄ちゃん！お兄ちゃん！陽葵、お兄ちゃん見つけたよ！」
小さな顔を上げ、茶色の巻き毛はぼさぼさだ。
「陽葵、お兄ちゃん好き！お兄ちゃん、抱っこ！」
この突然の抱擁と熱意あふれる宣言に、僕はその場に凍りついた。
続いて、星奈もおずおずと、一歩一歩近づいてきた。
大きな目にはまだ涙が浮かんでいる。小さな手を伸ばし、慎重に、そっと僕のズボンの裾をつかむと、顔を上げて、小さな声で、泣き声を帯びて言った。
「お兄ちゃん…抱っこ…星奈…怖い…」
その小さな声は、まるでハンマーのように、心臓を軽く叩いた。
そして凛音。彼女はまだ葛藤しているようで、小さな顔はこわばり、腕を組み、「抱っこなんて必要ない」という態度を必死に保とうとしている。
しかし、陽葵と星奈が僕のそばにいるのを見て、その目には一瞬、羨望と悔しさが走った。
彼女は下唇を噛みしめ、ついに決心したかのように、小さな足取りで近づいてきた。
陽葵や星奈のように抱きつくことはせず、僕の目の前、一歩離れたところに立ち、小さな顔を上げ、その美しい紫色の大きな目で僕を睨みつけ、少し捻くれた強がりな口調で言った。
「ふん！凛音…凛音は抱っこなんて欲しくないんだから！ただ…ただ立ってるの疲れただけ！お兄ちゃん…凛音をソファまで抱っこして！」
そう言いながら、小さな指でソファを指さしたが、微かに赤くなった耳の先と泳ぐ視線が彼女の本心を露呈していた。
最後に静羽。彼女は相変わらず最も静かで、ただ黙って僕のそばまで歩いてきて、小さな手を伸ばし、そっと僕の脇に垂れた手を握った。
彼女の手は小さく、柔らかく、少し冷たかった。顔を上げ、静かな水のような目で僕を見つめ、声は落ち着いてはっきりとしていた。
「お兄ちゃん、静羽も抱っこしてほしい。」
四人の女の子が瞬時に僕を取り囲んだ。
陽葵が僕の脚をぎゅっと抱きしめ、小さな顔を体にこすりつける。
星奈が僕のズボンをぎゅっと握りしめ、目には涙がいっぱい。
凛音が僕の前に立ち、小さな顔を上げ、頑固で期待に満ちた目つき。
静羽が僕の手を握り、静かでありながら疑いの余地のない要求を込めた眼差し。
両親はそばに立ち、この光景を見て、安堵と深い申し訳なさが入り混じった複雑な表情を浮かべた。
僕は深く息を吸った。空気には卵焼きの香りと、子供たち特有の清潔な匂いが漂っている。
「まず二人だけ。四人は危ない！いいか？」
彼女たちは一緒にうなずいた。そして、僕は腰をかがめた。
まず、両腕を伸ばし、僕の脚にしがみつく、コアラのような陽葵をそっと抱き上げた。
小さな体は軽く、温かいぬくもりと柔らかな感触がある。彼女はすぐに嬉しそうにケタケタ笑い、小さな手で僕の首を抱きしめ、小さな頭を僕の肩に預け、満足そうにすり寄った。
「お兄ちゃん抱っこ！陽葵、お兄ちゃん大好き！」
続いて、片手を空け、まだ僕のズボンの裾をぎゅっと握りしめ、涙目になっている星奈も抱き上げた。彼女の体は微かに震えていた。
抱き上げられると、すぐに小さな顔を僕の首筋に埋め、小さな手で僕の襟をぎゅっと握りしめ、安心感に満ちた細い嗚咽を漏らした。
「お兄ちゃん…」
まず彼女たち二人をソファまで抱いていく。それから、僕の前に立つ凛音を見た。小さな顔はまだこわばっているが、目は期待でいっぱいだった。手を伸ばし、彼女を腰抱きで抱き上げた。
小さな体が一瞬硬直したが、すぐに緩み、小さな腕も僕の首に回した。しかし小さな顔は拗ねて横を向き、小さな声でぶつぶつ言った。
「ふん…お兄ちゃんが勝手に抱っこしたんだからね…凛音はお願いしてないんだから…」
最後に、ずっと静かに僕の手を握っていた静羽を見た。彼女は小さな顔を上げ、静かな目で僕を見つめている。
僕は少ししゃがみ込み、もう一方の腕で彼女をしっかりと抱き上げた。彼女の小さな手は自然に僕の肩に置かれ、小さな顔は僕の腕の中に寄りかかり、目は相変わらず静かだったが、口元はかすかに上向きに緩んだ。髪の毛が僕の頬や首筋に触れ、くすぐったい。
両親はこの光景を見つめ、母の目尻はさらに赤くなり、口を押さえ、声を詰まらせた。
「北辰…ありがとう…ごめんね…迷惑かけて…」
父も重々しく僕の肩を叩き、声を低くして言った。
「悪いな、北辰。彼女たち…頼んだぞ。」
「そういえば、お前は小さい頃から子供に好かれるんだよな！」
「ああ。」
僕は応えた。声は平然としていたが、そこには無言の誓いが込められていた。
ソファの上の陽葵が顔を上げ、大きな目をきらきらさせて僕を見つめる。
「お兄ちゃん！陽葵、お腹すいた！」
星奈もおずおずと顔を上げ、小さな声で言う。
「星奈…も…お腹すいた…」
凛音は軽く鼻を鳴らす。
「お兄ちゃん…早く用意して…」
静羽は静かに付け加える。
「お兄ちゃん、朝ごはん。」
僕は彼女たちを見下ろし、キッチンに入る。彼女たちも僕についてくる。冷蔵庫を開ける。
「わかった、何が食べたい？」
「たまご！」
陽葵がすぐに手を挙げる。
「ぎゅうにゅう…」
星奈が小さな声で。
「凛音…いちごたべる！」
凛音が冷蔵庫の中のいちごを指さす。
「パン。」
僕は卵、牛乳、いちご、食パンを取り出す。陽葵が好奇心でいちごに手を伸ばし、星奈が僕の脚にしがみついて離れず、凛音が「お兄ちゃん、あれ取って！」と捻くれて指示し、静羽は僕の動作を静かに見つめている。
「よし！リビングで遊んでて、お兄ちゃんが朝ごはん作るから！」
「はーい！」
「お兄ちゃん…だっこ～」
「ふん、早く作ってよ。」
「はい、お兄ちゃん。」
彼女たちをまたリビングに抱いていき、朝食の支度を始める。卵焼きの香りが再び漂い、温めた牛乳の甘い香りといちごの爽やかな香りが混ざり合う。
はあ、筋トレしなきゃな。
