お兄ちゃんは私だけのもの
黄金色の炒飯の香りが次第に遠のき、リビングには食事と笑いの余韻が残っていた。窓から差し込む陽光が床に落ちている。
夏橘がお腹をさすりながら、満足そうにソファにへたり込んだ。
「ああ……生き返った……想像以上にめっちゃ美味しかったよ!」
優凛も珍しく反論せず、食器を片付けている僕に向かって真剣にうなずいた。
「うん、本当にご馳走様でした。お疲れ様」
伶は肌身離さず持ち歩くノートを閉じて、僕に甘えるような笑みを浮かべ、無音でこう言った。
『ごちそうさま、とても美味しかったです!』
咲幽は静かに未久が洗い場へグラスを運ぶのを手伝いながら、簡潔に僕に言った。
「…お疲れ様」
そのそばで、未久の顔にはまだ紅潮が残り、瞳はキラキラと輝いていた。
「お兄ちゃん」
未久が僕の裾をひょいと引っ張った。
「優凛お姉ちゃんたち、一緒にお家まで送っていこうよ?」
「ああ」
僕は応えた。皿洗いを終え、何人の少女たちを家の玄関まで見送る。そして手を振って別れを告げた。
家に帰る道のりで、未久は普段に増して静かだったが、足取りはとても軽やかだ。空を見上げたり、チラリと僕を盗み見たりしながら、口元にはどこか甘く、そして小さな得意げな笑みが絶えず浮かんでいた。
「未久」
僕は未久に疑問を投げかけた。
「どうして四人だって分かったんだ?」
「これね!」
「ヒ・ミ・ツ♡」
未久はくるっと向きを変え、僕に向かって舌をぺろりと出した。僕は肩をすくめ、それ以上は詮索しなかった。
午後も相変わらず僕は自分の部屋にこもり、スマホをいじり、疲れたら寝転び、目が覚めると姿勢を変えて、また見続けた。
そして夕食を作り、風呂に入る。夜の帳が下り、部屋に灯った明かりが柔らかな光の輪を放っていた。
いつも通り遅くまで起きようと自分の布団を敷き終えたところで、未久がふんわりとしたウサギのぬいぐるみを抱えて、「トントントン」と勢いよく部屋に駆け込んできた。僕のベッドの脇に立ち、小さな顔を上げ、大きな瞳にこれまでにない確固たる光を揺らめかせながら。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「今日から」
彼女は断言した。その口調に疑いの余地はなかった。
「お兄ちゃんと一緒に寝る!」
僕はぽかんとした。あまりに突然の要求だ。
「…なんで?」
未久は小さな顔をしかめ、両手を腰に当て、胸を張った。
「もちろん、監視するからだよ!お兄ちゃん!」
彼女は二歩近づき、背伸びして僕の腕(実は胸を狙っていたが身長が届かない)をトントンとつついた。
「優凛お姉ちゃんも、夏橘お姉ちゃんも言ってたよ。学校じゃいつも寝てたりぼーっとしてたり、部活もそうだって」
「だから?」
僕は眉をひそめた。
「だからだよ!」
未久の目はくりくりと見開かれた。
「夜更かししすぎなんだよ!体を壊したらどうするの!これからは未久が見張るから!毎晩!絶対に!時間通りに寝るの!夜更かしは禁止!」
彼女は言うほどに熱が入り、小さな拳をギュッと握りしめた。
「体が一番大事!お兄ちゃんの健康は、今から未久が守る!」
「…わかったよ」
僕は彼女の髪をくしゃくしゃと揉んだ。彼女はすぐに得意げに小さな顎を上げ、ウサギのぬいぐるみを抱えたまま「すぅっ」と僕がちょうど敷いた布団に潜り込み、さっさと壁側の奥のスペースを占拠した。
身の回りを整え、天井の大きなライトを消し、スタンドライトだけを残す。部屋には穏やかな静寂が漂う。
しかし未久は寝る気配は微塵もなく、元気いっぱいだ。彼女はゴロンと横を向き、僕の方を向いた。大きな瞳が仄暗い光の下できらりと光った。
「お兄ちゃん、お話の時間だよ!」
「お話?」
僕は彼女を見た。
「もうこの歳でお話聞くの?」
「構わないんだもん!」
彼女は甘えるように僕のそばにすり寄り、上半身を起こし、ベッドサイドテーブルの上の小説を手に取った。表紙の箔押しタイトルが小さな照明に微かに光る―『恋愛禁止条例下のドキドキ大作戦』。
「お兄ちゃん」
「はいはい、ちょっとだけ読んだら寝るんだよ?」
彼女は僕のそばで姿勢を整え、それから真剣な面持ちでその分厚いライトノベルを揃えた膝の上に置き、両手でそっと表紙を押さえた。
彼女は顔を上げ、大きな瞳に期待の光をいっぱいに輝かせながら、
「お兄ちゃん、今夜はこれを読むの!最新刊よ!この巻、めっちゃ面白いって聞いたんだから!」
僕は彼女のその張り切った様子を見て、一抹の呆れが心をよぎった。
この小説……昨日まで未だに「主人公が鈍感すぎる」とか「ヒロインが優柔不断すぎる」って愚痴ってたのに。
「うん」
僕は応えて、その重たい本を受け取った。表紙の男女主人公が笑顔で輝き、背景には満開の桜が咲いている。
僕は扉を開き、紙がかすかにサラサラと音を立てる。未久の肩が僕の腕にピッタリと寄り添い、彼女は少し首をかしげて、髪の毛が僕の腕にかすかなくすぐったさを感じさせた。
「ここから…えっと…78ページから!」
彼女は細い指を伸ばし、正確にページを指さした。爪は丸く丁寧に切られ、健康的なピンク色の艶がほんのり光っていた。
僕は彼女の指さし通りにそのページを開く。目に飛び込んできたのはこんな会話だった:
『「おい、お前……」山崎先輩が突然足を止めて、振り返った。夕焼けの余韻が彼の背の高い影を長く引き伸ばし、角張った横顔を暖かい金色の輝きで縁取っていた。彼はわずかに眉をひそめ、鋭い目つきで、後ろをついてくる、うつむいた早川を見つめた。』
『「せ…先輩?」早川の声は蚊の鳴くほど小さく、指は不安そうにスカートの裾をもじもじとねじり、心臓は胸の中で狂ったように鼓動を打ち、飛び出しそうだった。』
『「お前……」山崎先輩は少しイライラしているように後ろ頭をかきむしり、その黒髪は乱れた。彼は深く息を吸い込み、まるで何かを決意したかのように、突然一歩踏み出し、もともと離れていなかった二人の間の距離を詰めた。早川には先輩のさわやかな石けんの香りさえ感じられるほど近かった。』
『「お前……もしかして……」山崎先輩の声は低く重くなり、、早川が慌ててそらす瞳をしっかりと捉えたまま、「…俺のことが…好きなのか?」』
僕の声が静かな部屋に響き、ページ上の文字を穏やかに読んでいく。
未久は黙って聞いていたが、体はほんのりと前のめりになり、彼女の吐息が優しく僕の首筋を撫で、温かい気配を運んできた。
山崎先輩の「好きなのか?」という台詞を読んだ時、僕の腕に寄り添っていた彼女の体が一瞬、わずかに硬くなったのを感じた。息さえも一瞬止まったようだった。
『…早川の頭は一瞬真っ白になった。夕焼けも、そよ風も、先輩のいい匂いも……全てが消え去った。残ったのはあの言葉だけが、耳の中で無限に拡大され、反響するばかりだった。彼女の頬は熱く、耳の付け根まで真っ赤に染まった。口を開けようとしたが、声は一つも出てこず、ただ呆然と、至近距離にある山崎先輩の、緊張と期待に満ちた顔を見つめるしかなかった…』
僕の声が続き、ヒロインの内なる動揺を描写する。未久はひどく集中して聞いており、長いまつげが展開されるストーリーの波に合わせて微かに震えていた。
「お兄ちゃん」
彼女が突然、小さな声で割って入った。声は興奮と好奇心に満ちている。
「ねぇ…早川、どう答えると思う?認めるかな?」
僕は間を置き、ページ上に描かれた早川の内面の葛藤を一瞥した。
「多分…躊躇うんじゃないか。だって彼女、結構内向的で恥ずかしがり屋だし」
「うん…」
未久は思案したようにうなずき、すぐに鼻をしかめた。
「でも、私思うんだけど、彼女もっと勇気を出した方がいいと思う!好きなら言うべきだよ!だって先輩、他の人に取られちゃうかもしれないしね!」
僕はそのまま読み進める。展開は案の定、早川は緊張と恥ずかしさのあまり、ついに「好き」という言葉を言い出せず、代わりにあわてて否定してしまい、慌てて走り去ってしまう。置き去りにされた山崎先輩は表情を曇らせて一人その場に立ち尽くす。
「お兄ちゃん」
彼女がまた口を開いた。今度は声が少し低かった。
「あのね…もしもし…仮にだけどね…」
彼女は一瞬言葉を詰まらせた。
「もし…一人の女の子がいて、彼女が誰か一人のことを本当にすごく好きで好きでたまらないけど、それでもすごく怖いの…言ったら断られちゃうんじゃないかって怖いの。それか…それかその人の心の中に、もう別の人がいるんじゃないかって…」
「彼女はどうしたらいいと思う?」
声はだんだん小さくなり、視線も定まらず、僕を直視できないまま、ただページに印刷された文字を見つめていた。布団の上に置いた彼女の手は無意識にシーツの端をつまんでおり、指の関節は力が入って白っぽくなっていた。
僕は数秒間沈黙し、彼女のほんのりと赤らんだ耳の先や、緊張で丸まった指を一瞥した。
「知らないよ」
正直にそう答えた。読書だけで十分疲れる、そんなこと考える余裕などない。
「そっか…やっぱりそれもお兄ちゃんだもんね」
未久はうなずいた。時間がページをめくるサラサラという音とともに流れていく。
続く内容は青春特有の勘違いや、ときめく思い、やや大げさな部活の描写などにすぎない。
「そして…彼女はついに勇気を振り絞った…」
僕の声はとても小さくなった。すごく疲れた。
暖かい布団、一日のうちに積み重なった疲労、そばにいる妹が放つほのかなボディシャンプーの香り、そして本の中の平穏で温かい日常の一節…
声はどんどん小さくなり、言葉も不明瞭になっていった。
「…先輩の…袖を…つかんだ…」
最後の一音が消え去る前に、意識は完全に途絶えた。ページが静かに指の間から滑り落ちる。
未久は続きを期待していたが、お兄ちゃんの声がぱったりと途絶えたことに気づいた。
「お兄ちゃん?」
小さな声で呼んでみる。
答えたのは安定した長い呼吸音だった。微かな光の下で、お兄ちゃんの眉間がほぐれているのが見える。
「うう…こんなに早く寝ちゃったんだ…」
未久は小さく呟いた。その声には不平はなく、むしろ策が成功したような狡さが混ざっていた。
「やっぱり監視は必要だったんだね!」
彼女は全身の力を込めて、お兄ちゃんが横になるのを慎重に助け、布団をかけた。
彼女は横向きに寝て、小さな手で頬杖をつき、お兄ちゃんの眠りについた顔をじっくりと見つめた。そして、一つの大胆な考えが彼女の可愛い小さな頭にひらめいた。
彼女は慎重に、できるだけ何の音も立てないように体を起こした。まず手を伸ばし、試すようにお兄ちゃんの腕の筋肉をトントンとつついた。引き締まって滑らかだった。
「やっぱり…」
口を結んで笑うと、次に彼女はもっと「常識外れな」行動に出た。
まずこっそりと自分のパジャマのボタンを外し、小さく繊細な鎖骨がのぞいた。
まだ中学生ではあったが、未久の体つきはすでに少女の初々しい輪郭を帯びており、曲線は優美にたわんでいて、ふっくらとした胸は薄いガールズブラジャーを美しい膨らみで持ち上げていた。
彼女はそっと上着をずらし、レース飾りの白い下着姿だけが残った。仄暗い光の中では純真さが際立っており、そして少し無自覚な誘惑も漂っていた。
彼女は身を乗り出し、素早く、しかしゆっくりと、お兄ちゃんのゆったりとした上着の裾をひょいとめくり上げた。
腹筋のラインが陰影の中で浮かび上がった。夏橘お姉ちゃんは大げさに言っていなかった。そのラインは流れるようで締まっており、リラックスした状態でもはっきりと力強さを刻んでいた。
未久は息をのんで、細くて白い指を伸ばし、羽毛が撫でるようにそっと、その硬くて温かい感触に触れた。指先から伝わる感覚に彼女の鼓動が少し速くなる。
「本当…夏橘お姉ちゃんが言ってた通りだった…」
満足そうに小声で独り言を言い、その無防備に眠る顔を見て、胸にこみ上げる幸福感を抑えきれなかった。独占欲を満たすような甘さが混ざっている。
彼女は慎重にまた横になった。今度はただ並んで寝ているだけでは満足しなかった。そっと姿勢を調整し、柔らかく温かい体温をたたえた自分の体をきっちりと、隙間もなく、お兄ちゃんの脇にピタリと寄り添わせた。
滑らかで柔らかな肌が、服の下の皮膚に直接触れ、少女特有の温もりと微かな匂いをまとっている。
彼女は小さな手を伸ばして、お兄ちゃんの腰を回し、そっと胸に乗せた。一番居心地のいい姿勢を見つけた。
小さな頭をお兄ちゃんの肩にのせ、未久は満ち足りたため息をついた。顔を上げ、眠るお兄ちゃんの顔を見つめ、その目には濃く溶け切れない慕情と依存が満たされていた。
「お姉ちゃんたち、ありがとう…」
極めて小さな声で言った。
「…今日はお兄ちゃんのいろんな面を知らせてくれて…本当にすごく、すごく嬉しかった…」
声はさらに小さくなり、揺るぎない所有欲に満ちながら、眠っているお兄ちゃんに―むしろ自分自身に言い聞かせるように:
「…でもね」
彼女はわずかに顎を持ち上げ、さらに近づいた。桜色で柔らかな唇が、お兄ちゃんの頬に音もなく、しかし明瞭なキスをぽんっと押し当てた。
「お兄ちゃんは永遠に私だけのもの」
そう言い終えると、心ゆくまでお兄ちゃんを抱きしめる腕をぎゅっと引き寄せ、この安心感に満ちた腕の中に、より深く埋もれていった。馴染み深くて安らぎを覚えるその気配を嗅ぎながら。
「…おやすみ、お兄ちゃん」
かすかな声が温かい空気の中に消え、スイッチを押すと明かりが消えた。彼女は甘ったるい笑みを浮かべ、自分だけの夢の世界へと深く落ちていった。
部屋の中に残されたのは、絡み合う二つの安定した呼吸音だけだった。




