第3話 少女は告白に行きたい
昨日は雨憶伶さんに部活加入を承諾してしまったものの、まさか今日の放課後から活動が始まるとは思ってもみなかった。放課後、彼女に連れられるまま、部室へと向かった。
「部長、行きます。」
「どうぞ~」
雨憶伶さんがドアを開け、俺はその後ろから中へ入った。ソファの上に、夏服姿の少女がだらりと寝そべっていた。ポニーテールに丸メガネをかけた彼女は、我々が入ってくるのを見て起き上がった。
「ついに来たか!」
「はい、部長。こちらが新入部員です。」
「素風北辰です。」
「ははは!ようやく新入りが入った!俺は夜滝 優凛だ!よろしくな!」
部長を名乗る夜滝 優凛は大声で笑いながら言った。
「部長、笑ってないで。彼に部活の説明を。」
「うん!了解。では私が詳細にご説明いたしましょう!」
彼女は喉を軽く鳴らし、表情を引き締め、両手を腿の上で組み、背を少し丸めた。レンズが一瞬キラリと光る。
「我々の部活動は、実に重大なのだ。」
彼女はメガネを押し上げ、再び両手を組んだ。
「人々に希望を与え、生きる情熱を再び燃え上がらせること。」
「絶望から救い出し、新たな目標を見つけさせること。」
「それで…えーと、その先が出てこない。とにかく重要極まりない!」
「だから…結局何をするんですか?」
部長は重大な秘密を発表するかのように、わざと間を置いて言った。
「それはね…応援だよ。人を助けること。」
「困ったことがあったら、いつでもおいで!見返りは求めない。登録用紙に記入してもらうだけでいいんだ。」
そう言うと、彼女は背筋をピンと伸ばし、腰に手を当て、やや顎を上げ、嬉しそうな眼差しで俺を見つめた。
どうして誰も入らないのか、だいたい分かった。しかし入部した以上、文句を言っても始まらない。
「部長、この部活の名前は?」
「『応援部』さ!なかなか素敵な部名でしょ?」
「えっと…部長、これまで来た人はいましたか?」
俺の言葉を聞いた瞬間、部長はまるで石化したように固まった。しばらくして、ロボットのように動き出し、
「ま、まあ…そのうち来るさ、きっと。」
そう言われても、これ以上詮索はできなかった。俺はソファに背をもたせかけ、天井を見上げた。本当に漫画みたいな変な部活が存在するんだな。マジで助けを求める人が来るものなのか?
「…以上が部活動の概要です。」
部長の説明が終わり、部室に静寂が戻った。誰も口を開かなかった。
「依頼者が来るまでは、部室で自由に過ごしてもいいんだぜ!」
そう言って、部長は漫画を読み始め、雨憶伶さんも本を開いた。俺は依然としてぼんやりと天井を見つめていた。頭の中を空っぽにして、ただリラックスしているうちに、また眠気が襲ってきた。目を閉じた。
トントン「すみません、いらっしゃいますか?」
ノックの音で目を開けた。部長と雨憶伶さんも手にしていた本を置いた。
「どうぞ~!」
ドアが開き、女子生徒が一人入ってきた。
「あの…ここが応援部ですか?お願いしたいことがあるんですけど…」
へえ、マジで来る人がいるんだな!
「こんにちは!ひなた夏橘です。」
「はじめまして、夜滝優凛です。」
「雨憶伶。」
「素風北辰。」
自己紹介をした少女は黒いショートヘアで、肌は小麦色、半袖シャツにショートパンツを履いていた。
「どんなお悩みでしょう?」
「実は…私、好きな人ができてしまって。」
「彼はとてもイケメンで、高校に入学した時、一目で好きになりました。」
「遠くからそっと見つめています。」
「すれ違う時、つい視線を追ってしまいます。」
「声を優しく、可愛らしく響かせています。」
「耳元の髪を整えたり、所作に気をつけたり。化粧も始めて、スカートもはくようになりました。」
「私を見てほしい…」
「でも、彼は一度も私を見てくれません。」
彼女は自嘲気味の笑みを浮かべた。部室は静まり返った。
「私はスポーツが好きだし、肌も白くないし、ショートヘアにショートパンツ。友達には男っぽいって言われます。彼の目には、きっと女らしく映ってないんでしょうね。」
「分かってます。彼の周りには可愛い子がたくさんいて、私みたいな者にチャンスはないって。」
「でも…告白したいんです。」
「失敗するのは分かってます。でも、後悔はしたくない。」
「もう遠くから見ているだけなんて嫌なんです。」
部長と雨憶伶は黙っていた。俺は首をかしげた。つまり、彼女の依頼内容って具体的に何なんだ?
「あの…お願いがあるんですが…」
「言ってくれ、ひなたさん!全面バックアップするよ!」
部長はひなたさんの手をギュッと握りしめ、目に涙を光らせている。雨憶伶さんもこくんと頷いた。
俺は何も言わず、ただ三人を見ていた。
「北辰さんに…告白の練習に付き合ってもらいたいです。その後に…本番で彼に告白します。」
「は?俺が?」
「北辰…」
「部長、言わなくていい。分かってるよ。」
はあ、入部した以上、文句を言っても仕方ない。俺はため息をつき、承諾した。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
「いえいえ。」
部長は手を振り、気にしなくていいと合図した。
「じゃあ、明日の放課後、屋上でお願いします!」
「ああ。」
「本当にありがとうございます、北辰さん。じゃあ、明日!」
彼女は再び礼を言い、手を振って去って行った。部長が俺の肩をポンポンと叩いた。
「頑張れよ、北辰!これが我が応援部の第一号仕事だぞ!」
俺はただ頷くのみだった。ソファにもたれながら窓の外を見やる。空には一片の雲もなかった。