第2話わたしの妹
校門を出ると、空にはすでに夕闇が迫っていた。見下ろした腕時計は、普段より30分も遅い時刻を指している。
風が夕食の匂いを包み込み、鼻腔へと流れ込んできた。ポケットの中の鍵に触れながら、足早に家路を急ぐ。
ドアを開けた瞬間、湯気の立つような香りが顔を包んだ。靴を脱ぐ手が一瞬止まる。
「お兄ちゃん、お帰り!」
台所から澄んだ声が響いた。素風未久、私の妹が、私が中学生の時に使っていた青白いエプロンを結んで顔を覗かせ、長い髪がその動きに合わせて揺れている。
彼女の手には、食べかけのスティック状のクラッカーが握られていた。
「またお菓子食べてるのか?」
カバンを玄関にかけ、手を伸ばして彼女の口元のクラッカーを取り上げた。
「胃を痛めるぞ。」
「一本だけだもん!」
未久は口をへの字に曲げたが、大人しく残りの半分を私の手のひらに押し込んだ。
「お兄ちゃん、食べて。」
私はクラッカーを一口かじり、彼女の口元に戻した。「あーんして。」
未久の目がパッと輝いた。毛を撫でられた子猫のように、素直に口を開けた。小さな歯がクラッカーにかぶりつき、カリッと軽やかな音がした。
カバンを玄関棚に置き、コンロの上のフライパンに目をやった。
「まず手洗いだ。すぐご飯にするぞ。今日はどうして料理なんかしてるんだ?」
「だってお兄ちゃん、昨日豚の生姜焼きが食べたいって言ったから!」
未久が横から調味料の瓶を取り、エプロンのポケットからは半分数学の練習問題プリントがはみ出している。
私ははっとした。この子は…。
彼女がヘラを持つ手首はまだ少し震えていた──先月、ジャガイモの千切りをしていて指を切った傷跡が、まだ完全には消えていなかったのだ。
「俺がやる。」
私はヘラを受け取り、彼女を脇に押しやろうとした。だが彼女は引っ込まず、つま先立ちで背後から私の腰に腕を回し、あごを私の鎖骨のくぼみに預けた。
「お兄ちゃん教えてよ。私、お兄ちゃんに作ってあげられるようになりたいんだから。」
香ばしい匂いが漂い、彼女の規則的な吐息が首筋をかすめる。窓の外の蝉時雨が急に遠くなり、台所の換気扇がブーンと唸りながら、二人の影をタイルの壁に映し出した。それは重なり合う小さな塊となった。
「火を弱めろ。」
私は彼女の小さな手を包み、火力を調節した。
「教えるのは明日だ。今日はまずご飯を炊け。俺はトマトでももう一品作る。」
「はーい」
彼女が振り返って米を研ぎに行く時、髪留めが緩み、何束かの前髪が汗ばんだこめかみに張り付いていた。私は手を伸ばして整えてやった。未久が米をすくう手首は軽くひねられ、白い米粒がサラサラと炊飯器に落ちていった。
「お兄ちゃんの今日のお弁当もすごく美味しかったよ!」
「今日の休み時間…小綾たちとお弁当食べてたら、お兄ちゃんに会いたいって言われたんだ。」
私は手を止めずに料理を続けていると、彼女が声を張り上げた。
「お兄ちゃん、話題そらさないで!」
「ん?」
「あのね…あのね、彼女たちに彼氏いるかって聞かれたの。」
未久の声はだんだん小さくなり、耳の先が苺のように赤く染まっていた。
「私ね、『私のお兄ちゃんが世界で一番いい男だから、彼氏なんていらないの』って答えたんだよ。」
炊飯器のチンという音が私のほのかな笑みをかき消した。蓋を開け、私は彼女の制服を指さした。
「で、そのせいでスープを制服にこぼしたのか?」
未久は自分の制服を見た。
「違うよ!…小綾たちが私のお弁当箱を取ろうとして、押し合ってる時にさ…」
「明日、制服直してやるよ。」
「物置にミシンがあるだろ、針箱はお母さんが去年残して行ったやつで、色も合いそうだ。」
「もういいってば!」
未久は慌てて手を振った。
「だって…だって体育の時しか上着は着ないし。お兄ちゃんの作ってくれた味噌汁の方が制服よりずっと大事だもん!」
「まったく…この子は。」
未久は小さな踏み台を持ってきてそばに座り、ほおづえをついて私がトマトを切るのを見ていた。
彼女の指が無意識に髪を絡めながら、突然言った。
「お兄ちゃんが今日トマトを切る様子、昨日とそっくりだね。」
「どういう意味だ?」
切ったトマトをフライパンに入れると、油がジュワッと跳ね、思わず半歩下がる。
未久は笑いながら鍋蓋を差し出し、頭のてっぺんに跳ねた寝癖が揺れた。
「だから似てるんだよ!アニメのくまさんが料理するみたいに。」
私は返事せず、スプーンですくった砂糖を鍋に落とした。すると未久が背後から突然私の腰を抱き、あごを私の肩甲骨の間に乗せた。
「お兄ちゃんのトマト炒め、世界一美味しいよ。お母さんが作るより、もっと甘くて。」
私の手の動きが一瞬止まった。三年前に両親が出張に行ったきちんと帰ってこなくなって、最初の数ヶ月は未久が夜中に泣きながら起きることも多かった。今では彼女も、寂しさを言葉の隙間に隠すことを覚えていた。私は反対の手で彼女の髪をクシャクシャと揉んだ。
彼女を見つめながら、ふと午後に雨憶伶がノートに「どうして同級生と話さないんですか?」と書いて尋ねた時、私も同じように「慣れてるから」という言葉で感情を繭のように包んだことを思い出した。
だが未久の前では、その繭はいつもあっけなく破れてしまう。
食卓には私の大好物のトマト炒めと青菜の炒め物が並び、未久は肉を私の茶碗に全て盛り付け、自分の茶碗にはほんの少しだけだった。
取り戻そうとすると、彼女は急いで箸で押さえた。
「お兄ちゃんはまだ体が大きくなるんだから、お腹すかせちゃダメだよ。」
「バカか、お前だって成長期だろうが。」
私は肉を彼女の茶碗に移した。
「全部食べろ、でないとお兄ちゃんは相手にしないぞ!」
渋々ではあったが、彼女は従って口にした。
彼女のキラキラした瞳を見つめていると、先週の保護者会を思い出した。担任が未久は最近成績、特に数学が急上昇し、クラスの中位からトップ10に入ったと言っていた。
「お兄ちゃん、学校はどうだった?」
「学校か…まあまあだ。」
私は口いっぱいに頬張りながら答えた。
「休み時間は相変わらず寝てるし、話しかけてくる奴なんて誰もいない。」
ご飯をかき込んでいた未久の手が一瞬止まり、目を三日月のように細めた。
「よかったー!」
「は?」
「お兄ちゃんが学校で新しい友達できて、未久のこと放っておかないか心配だったんだもん。」
彼女は茶碗を抱えて近づき、目を輝かせた。
「お兄ちゃんは、私一人で十分だよね?ね?」
私は箸を置き、手を伸ばして彼女の髪をグチャグチャに揉みくちゃにした。
「バカだな、お兄ちゃんはいつでもお前のものさ。」
「じゃあ…新しい友達はできた?」
彼女の箸先が軽く茶碗をカチカチと叩いた。
「転校生の一人にできたな。雨憶伶って名前だ。彼女…あまり話すのが得意じゃないみたいで、ノートで会話してる。」
「わーっ!」
未久の目が大きく見開かれた。
「アニメみたい!?可愛いの?二人ですごく近づいたりした?!」
「してない。」
未久は胸をなでおろした。
「今日彼女の部活の入部届けに記入しただけだ。」
私はうつむいてご飯を口に運んだ。
「彼女、部活に入ったんだが、今日の勧誘で誰も入部してくれなくて、俺が…」
「お兄ちゃん、すっごい!」
未久は突然箸を置き、手を合わせて私の前で振った。
「やっぱりお兄ちゃんって優しいんだ!」
彼女の身振りのせいで目が回りそうになり、彼女の肩を押さえた。
「ちゃんと食べろ。」
「だってお兄ちゃんってほんとにすごいよ!この前私、数学のテストボロクソで部屋で泣いてた時、真夜中まで付き合ってくれて勉強教えてくれた…」
「もういい、もういい。」
私は箸で彼女の茶碗をトントンと叩いた。
「野菜を食べなきゃ、栄養失調になるぞ。」
未久はペロリと舌を出し、青菜を大きく一箸すくって口に放り込んだ。
彼女を見つめながら、ふと昼間に旧校舎の近くをうろついていた時見かけた野良猫を思い出した──自分さえ満足に食べられていないのに、見つけたハムの切れ端をより小さな猫に分け与えようとしていたあの猫を。
もしかすると、俺みたいな性格は、生まれつき「世話をする側」にいるのが向いているのかもしれない。
食後の皿洗いも、未久はどうしても手伝うと言ってきかなかった。彼女はシンクの前に立ち、背伸びをしながら皿を流し、髪の先が蛇口の下に垂れ、水玉を含んだ毛先が灯りにキラリと光った。私はテーブルを拭きながら、彼女が最後の皿を食器棚にしまうのを見た。
「未久、この前新しいスケッチブック欲しいって言ってたよな?」
「え?お兄ちゃん、覚えてくれてたの?」
「ああ。」
「あの…買わなくても大丈夫。古いノートでも描けるし。」
「明日、文房具屋通るから、ついでに買っておくよ。」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「別に。」
私はソファの上にあるリモコンを取り、テレビをつけた。
「少しテレビ見たら、風呂入れ。」
未久は手を拭き、エプロンを脱いだ。ウサギのぬいぐるみを抱えてソファの隅に丸まり、彼女は画面をじっと見つめ、指が無意識にぬいぐるみの長い耳をもつもつと引っ張っていた。
「お兄ちゃん、小さい頃、これ見たことある?」
「ない。」
「その頃…お兄ちゃんも暗いの怖かった?」
「怖かった。」
「じゃあ、お兄ちゃんはどうやって寝たの?」
「羊を数えた」
…
風呂から出てくると、未久はすでにぬいぐるみを抱えたまま布団の中に丸まっていた。彼女が隣のスペースをポンポンと叩く。座ると、彼女はすぐさま子猫のように私の懐に潜り込んだ。
「お兄ちゃん、お話して!」
「いい歳こいてまだ聞くのか。」
仕方なく枕元の童話集を取り出すと、彼女はその本をよけようとした。
「これじゃない。お兄ちゃんが考えたお話が聞きたいの。」
そこで私は、下手ながらも話をでっち上げた:森の中に言葉を話せない小さなウサギがいて、いつも大きな樫の木の下で月を見ていた。ある日、怪我をした小さなキツネに出会い、ウサギは草の葉でその傷を包み、露で水を飲ませてやった。後にキツネは元気になったが、もう決して離れようとせず、毎日ウサギと一緒に月を見るのだった。
「それでどうなったの?」
未久は布団の中で丸まり、目を輝かせていた。
「それで…二人は何度も何度も、月を見続けたんだ。」
私はスタンドを消した。暗闇の中の彼女の輪郭はぼんやりとしていた。正直、かなり出来の悪い話だった。
「月は満ちては欠け、欠けては満ちを繰り返す。でも、彼らはずっとそこにいるんだ。」
「お兄ちゃんの話、すっごく素敵。」
彼女は大きなあくびをし、声は次第にかすれていった。
「絵本の話より素敵だよ。」
私は彼女の頭を撫で、その柔らかな頭頂に触れた。窓の外から差し込む月明かりが、彼女のまつげに粉雪のように降り積もった。
「お兄ちゃん、今日も一緒に寝ていい?」
「今日だけな。」
彼女は嬉しそうに飛び起きた。二人きりでシングルベッドに窮屈に身を寄せ合うと、未久はコアラのように私に抱きついた。私の服から漂う、かすかな洗剤の匂いを嗅ぐと、彼女は突然言った。
「お兄ちゃん、私、将来お兄ちゃんのお嫁さんになるんだからね。」
「子供がそういうこと言っちゃだめだ。」
「子供なんかじゃないもん!」
彼女はムッとして私の胸を小突いた。
「18になったら、ウェディングドレスを着て、お兄ちゃんの手を引いて教会に行くんだから!」
「はいはい。」
私は彼女の汗ばんだ前髪を撫でた。
「その時は、お兄ちゃんもちゃんとお前の結婚式を見るからな。」
「やだよ!」
彼女はくるりと身を翻し、顔を私の胸に埋めた。
「お兄ちゃんが新郎さんになってくれなきゃ。」
「まだ早い!とにかく寝ろ。」
しばらくすると、彼女はすっかり眠りに落ちていた。私は窓の外の月を見つめながら、彼女の規則的な寝息を聞いた。そして、彼女がうわごとのように呟くのが聞こえた。
「お兄ちゃん…雨憶伶さんとは…近づきすぎないでね…」
彼女に布団を掛け直した。夜が深まり、私の意識も闇の中に沈んでいった。私も眠ってしまった。
これで十分だ。これが私の生活なのだ。友人の喧騒もなければ、賑やかな集まりもない。
妹がいればそれでいい。
そう思った。こういう日々の方が、どんな賑やかさよりもずっと心が落ち着くのだ。