第1話高校の最初の友達は美少女です。
放課のチャイムがまだ完全に消えていないうちに、委員長の佐藤が俺の机に駆け寄ってきて、ドン!と手のひらを机に叩きつけた。
鈍い音が教室の注目を集めた。彼は普段きちんと梳かしている前髪が少し乱れて、メガネの奥の目が鋭く俺を刺した。
「おい!そんなこと、やりすぎだろ!」
「先週の放課後、新入生交流会やっただろ、お前なんで参加しなかったんだ?」
俺は最後の一冊をカバンに押し込み、ファスナーを閉めた。金属がかみ合う音が静まり返った教室に鋭く響いた。
顔を上げると──
「みんな、この学校に来たばかりじゃないか!お互い知り合い、クラスの結束を強める大事な場だぞ!みんな行った!みんな行ったんだ!」
「お前一人だけ欠席ってどういうことだ?チームワークの精神がないのか?それとも、みんなを見下してるのか?」
佐藤の視線が机の隅に向かった。そこには、少しシワくちゃになった、可愛い模様が印刷されたカードが横たわっていて、端にはまだ乾ききっていない湿り気が残っていた。
「それだけじゃないぞ!小宮山さんがどれだけ勇気を振り絞ってお前を誘ったか分かっているのか?わざわざカードまで用意したんだぞ!お前は?『用事がある』の一言で片づけて!」
「本当にやることがあったんだ。」
俺の声は感情の波を感じさせなかった。
「同級生は少しずつ仲良くなればいい。そんなに急ぐ必要はない。」
「このクソッタレ!」
佐藤委員長の顔はたちまち真っ赤に染まり、胸を激しく波打たせた。
「こんな自己中で、他人の気持ちをまったく考えない態度、まったくもって理解できない、小宮山さんは──」
「小宮山さん、泣いてたんだぞ。じゃあ、お前が慰めてやればいいじゃん。自分の優しさを見せつけて、自分がいかに気遣い屋かと思わせれば。」
「お前……お前は話が通じない!」
佐藤の非難は機関銃の弾丸のように浴びせかけられた。「冷血」「まったく集団意識がない」「クラスの雰囲気を壊す」というような言葉が静かな教室に反響した。
俺はその場に立ち、彼の一言一句をはっきりと聞いていた。
佐藤の罵詈雑言は続き、彼の理解できない怒りと「和を乱す者」への糾弾が俺に向けて降り注がれた。俺は遮らず、一言も言わなかった。
「お前みたいな身勝手な奴は、一生本当の友達なんかできっこない!」
そう捨て台詞を吐き、佐藤は人差し指で俺の肩を小突き、くるりと背を向けた。そして、教室の皆に深く頭を下げた。
「すまない!驚かせたな。」
「委員長、平気平気。ああいう奴は罵られるべきだよ。」
「そうだそうだ。」
「…………」
俺はもはや彼らの会話を聞いてはいなかった。足を踏み出し、教室を後にした。背後からは、罵声がまだ聞こえるようだったが、俺にはやることがあった。足を止めなかった。
怒りも、他の感情の波もなかった。
翌日、教室に足を踏み入れた瞬間、委員長を筆頭にした一群から向けられる、隠そうとさえしない冷たい視線を感じた。
俺は彼らを無視し、まっすぐ自分の席へ向かった。窓の外のあの空を見つめた。
素風北辰──俺の名前は、教室の片隅に置かれた冷たい石のように、誰にも顧みられずに沈んでいた。
俺にとって高校は、ただ勉強する場所を変えただけで、時間になれば家に帰る場所だ。
いわゆる交流、友情、集団、これらの言葉は、俺にとって窓ガラスに付いた雨滴のように、ぼんやりしていて手が届かないものだ。
先週欠席した新入生交流会?委員長佐藤のあの「団結を壊す」「冷血動物」といった告発?すまない、それらは窓の外を偶然飛んでいく雀や、青空ほどには俺の興味を引かない。
説明は不要だ。言い訳は無意味だ。
気づけば、もうすぐ授業の時間だった。
「皆、静かに。授業の前に連絡するね。」
女性の教師が教室に入ってきた。上条優香という名前だ。背は高くなく、角縁メガネをかけ、黒いカールした髪を頭に乗せている。
「転校生が入ってくるよ!」
彼女がそう言うと、教室はたちまち騒がしくなった。
「男?女?」
「どんな人なの?」
「静かに。詳しいことは私もあまり知らないのね……あら?もう来ているはずなのに……とにかく授業を始めましょう。」
教師がそう言った時、授業開始のチャイムが鳴り、授業が始まった。
彼女の授業は最後のコマで、終われば昼食時間だ。弁当を持ってきた生徒たちは三々五々集まって、おしゃべりしながら食べていた。教室は再び騒がしくなった。
人混みが苦手な俺は、パンを一枚掴み、教室を出た。
屋上、空き教室、旧校舎……きっとどこかに人がいるだろう。仕方ない、歩きながら食べるしかない。
普段はあまり勤勉とは言えないし、休み時間はほとんどボーっとしていたり寝たりしている。なのに、こういう時だけ、なぜか体が動きたくなってしまう。
人が多い場所は嫌いだ。居心地が悪すぎる。人が集まる場所は、空気さえも息苦しいほどの粘り気を帯びている。
学校が大きすぎるせいか?どの建物にも案内図が下がっているが、数日回ってもまだ完全には把握できていない。
天気は良く、校内をうろつく生徒もたくさんいた。ほとんどが二人ずつかそれ以上のグループだ。グラウンドでも多くの生徒がスポーツをしていて、騒音が遠くから聞こえてきた。パンを食べ終え、ゴミ箱に捨てて、教室に戻ることにした。
校舎の下に降りると、案内図の前に立っている女子生徒が見えた。ピンクの髪、小さな体、制服が一回り大きく見えた。うちの学校の制服ではないようだ、他校の?小動物のような印象を受ける。
彼女は案内図の前にしばらく立ち、うんうんと頷いては数歩歩き、戻ってはまた見ている。これを何度か繰り返した後、彼女の体が微かに震え始めた。
特に考えず、足も止めず、俺はそのまま教室に向かって歩いた。すれ違う時に、視界が偶然交差した。宝石のように美しい瞳が、今は涙で霞んでいた。
俺は人助けが得意な人間ではない。頭も良くないし、他人を助ける特別な能力も持っていない。彼女の問題は簡単に解決できそうに思えたが。
「あの……何かお困りですか?」
「すみません!ライトノベルの主人公じゃないけど、できるだけ助けますね!」
「俺より適任者きっといるから、もう少し待ったほうがいいか?」
……そんな考えはまったく浮かばなかった。昼食を終えたらお昼寝の時間だ。俺は振り返らずに階段を上がっていった。
教室に戻ると、丁度先生が出てきたので、俺は簡潔に下にいる女の子の様子を説明した。
「先生、一階ロビー、ピンクの髪、たぶん転校生、案内図見てる、迷子っぽい。」
先生の顔色が変わり、小声で驚いた。
「あら!彼女だわ!」
大急ぎで階下へ駆け下りていった。
自分の席に戻り、食事の後に襲ってくる眠気に襲われ、机に突っ伏して眠りに落ちた。
「こちらは……新しく入ってきた……二人の転校生……」
「私の名前は……優夜日凛です……」
「女の子……綺麗だ……」
「こんなに美人……モデルになれそう……」
「うん……もう一人は喋らないね……」
「まさか……喋れないのかな……」
「静かに……雨憶伶さん……特別な事情があって……人と話すのはあまり得意じゃないの……」
「えっ……その女の子……ノートに何か書いてるよ」
「読めない……多分名前かな……」
「はあ……呆けたまま動かないね……」
「静かに……優夜日凛さん……あなたはあっち……田中さんの後ろに座って……雨憶伶さん……あなたは素風北辰さんの後ろに座ってね……」
周囲のざわめきが大きくなった。はあ?皆何やってんだ、お昼休みを返上して?顔を上げると、あっちに人だかりができていた。
眠い……また寝よう。再び突っ伏し、意識がだんだん薄れ、周囲の雑音も遠ざかっていった。
ん……誰かが背中をつついている。
俺はゆっくりと体を起こし、振り返った。昼間にあったあのピンク髪の少女で、ノートブックを抱えてこっちを見ている。
こっちを向いたのを見て、彼女は手を動かし始めた。手話?さっぱり分からない。俺は彼女のノートを指差し、ペンで字を書く仕草をした。彼女はペンを取り出し、ノートに何かを書き、それを差し出した。
「あなたのお名前は?」
(ノートに書いてある)
「素風北辰。君は?」
俺は自分の名前をノートに書き、彼女に返した。彼女はそれを見て、また書き始めた。
「雨憶伶です。本当に申し訳ありません、休憩の邪魔をして。」
ノートを返すと、彼女は両手を合わせて、申し訳なさそうな表情を見せた。
「大丈夫、俺少し寝てたし。」
「ごめんなさい…私はこうしてしか話せません」
「謝ることないよ。君は何も間違ってないし。」
「こんな風に話して、面倒に感じませんか?」
「書き言葉で話す必要がなかったら、もっと時間が節約できる。」
「もっと好きなことができる。」
「もっと気持ちを楽に表現できる。」
「もっとはっきり思いを伝えられる。」
「もっと多くの人と話せる、もっと多くの友達ができる……」
俺がそう書かれた文章を読んでいる間、彼女はずっとうつむいていた。
「字で話すのも、そんなに悪くないよ。友達いない俺にとって、こんな風に話しかけてくれる人がいてくれるだけでも、十分嬉しいことだから。」
なぜか彼女はペンを握ったまましばらく動かず、ただノートを見つめて呆然としていた。しばらくして、ようやくペンの先が動いた。
「どうして……あの人たちと話さないんですか?」
あの賑やかなグループを見て、俺は首を振った。
「人の多いところが好きじゃないんだ。」
あの騒がしい輪には近づかない方がいい。ああいう雰囲気はさっぱり分からない。何がそんなに楽しいんだ、わざわざ寄っていくのが。
気にせず、自分のことをやればいい。
「お友達になってもらってもいいですか?」
彼女はノートにそう書き、胸の前に掲げたが、頭は依然として下げたままだった。
「もちろんいいよ!」
俺は笑いながら答えた。その言葉を聞いて、彼女はゆっくりと顔を上げ、目を俺に向けた。その美しい目に涙が光っていた……え?泣いてる!?
俺は慌てて手を振った。多分感情を抑え込んでいて久しぶりの笑顔が不気味だったのか?どうしよう……
俺が慌てふためく様子を見て、彼女は急いで涙を拭い、首を振った。彼女が落ち着いたのを見て、ようやく手を止めた。
「これからよろしく。」
彼女はうなずき、お互いが笑った。
こうして、高校で俺は最初の友達ができた。
「北辰さん、どうして毎回休み時間に寝てるんですか?」
雨憶伶がノートにそう書いて聞いた。転校して一週間くらいか、いつの間にか彼女はこう呼ぶようになっていた。
「昨日ゲームやってて遅くまで起きてたんだ。授業中に居眠りしないように、休み時間にちょっと仮眠してる。」
「早く寝ないと体に良くないですよ。」
昨晩はゲームをクリアするために、朝の5時まで起きていた。まあ、普段もこんなもんか。慣れてるからかもしれない、クマはないけど目は乾いてかすんでいる。
「はあ、わかったよ。」
妙な話だが、彼女はクラスの誰ともほとんど話さず、俺とだけノートでやりとりする。まだ環境に馴染めていないのかもしれない。
クラスメートの態度も微妙だ。みんなもう一人の転校生を囲んでいる。
「北辰さん、お昼も一緒に食べませんか?」
「うん、いいよ。」
彼女が転校してきた翌日から、ずっと一緒に昼食を食べている。なんだか奇妙な感じがする。食べながら話す風景で、中学の時に友達とワイワイした日々を思い出す。ああ、戻らない過去だ。
午前中の授業は楽で、それほど眠くもならなかった。お昼休みのチャイムが鳴ると、俺は素早く片づけ、雨憶伶と一緒に教室を出た。
校内で場所を見つけて座り、パンの包装を破って食べ始めた。
「雨憶伶さん、どうしてクラスの人とあまり話さないの?」
「知らない人と話すのは緊張してしまうんです……」
「じゃあなんで、俺とはすぐに話せるの?」
俺はパンをかじりながら、空を見上げて尋ねた。
「だってあなたは特別ですから。」
「は?どういう意味だよ?」
「それは秘密です。いつか話すかもしれません。」
彼女のノートに書かれた文字を見て、肩をすくめ、またパンを口に詰め込んだ。相変わらず彷徨う視線は空を見つめていた。空は本当に青かった。ふわりふわりの白い雲が浮かんでいる。白い雲のある空が一番だ。こんな天気は、見ているだけで心が安らぐ。
「もぐもぐ。」
隣で雨憶伶が小さくお弁当を食べる音がした。正直、本当に小動物みたいだった。
「北辰さん、クラブ活動のこと、聞いてますか?」
「クラブかあ…あんまり詳しくないな、たまに掲示板に貼ってあるポスターは見かけるけど。」
これは本心だ。休み時間は教室で寝ているし、放課後はさっさと家に帰ってスマホいじって小説漫画読む。友達もいないし、学校行事にも無関心だ。
「私、最近クラブに入ったんですよ!数日前に。北辰さんもやってみませんか?」
「うーん、考えとくよ。今はあんまり興味ないし。」
数日前?転校して一週間で既にクラブに入ってるのか?まあ、クラブに入れば仲間は増えるだろう。
「北辰さん、そろそろ戻りませんか?」
俺はうなずき、ゴミをまとめ、彼女もノートと弁当箱を片付けて、一緒に教室に戻った。
待ちに待った仮眠タイム。俺みたいな人間には、お昼寝は必須だ。寝なければ頭がぼんやりしてしまう。
机に突っ伏してすぐに眠りに落ちた。気持ちい。騒音もない、やっとまともに休める。
「皆静かに。午後はクラブ勧誘イベントがあります。多くのクラブがブースを出していますので、興味のある方は見に行ってください。」
九条先生が教室に入ってそう告げると、クラスはまた騒がしくなり、ああ!俺のお昼寝!
「まあいいか、次は耳栓買わなきゃな…今日は我慢して寝るか…」
心の中で呟きながら、羊の数を数え始めた。気がついたら寝ていた。
「ふう──復活。」
背伸びをし、午後のクラブ活動時間も全部寝てしまおうと思った。夜はまた夜更かしするつもりだ。
放課後は、クラブ見学のためにわざわざ時間が取られていた。
ありがたい!もう少し寝て、起きたら直帰しよう。
気づくと、教室にはもう誰もいなかったので、外の様子を見に行くことにした。活動はまだやっている。文芸部、科学部、探検部、美術部、写真部…人が多すぎる、帰ろう。
教室に戻ると全く睡魔が消えていたので、また窓の外の白い雲を眺めてぼんやりしていた。ふと時計を見てびっくりした。とっくに下校時間を過ぎている!慌てて荷物をまとめ帰宅の準備をした。
クラブ勧誘は終わったようで、人影はまばらだ。皆、それぞれの活動に行っているはずだ。
ん?まだ誰かいる?遠くに、ぽつんと一人立っている。帰り道が同じ方向だ。ついでにどうしたのか見てみよう。
近づいてみると、あのピンクのショートヘアに小さな体、大きめの制服。雨憶伶さんだ、なんでまだここに?確かクラブに入ったんだよな。でも勧誘終わったのに、なんでこんなところに立っているんだ?
「まだ帰らないの?」
「今日は…新入部員を入れてくれる人がいなくて……」
彼女はノートを持ち、目尻が赤くなっていた。泣いたようだ。彼女を見ていると、俺にはどうすることもできなかった。確かに、他人のために自分を変えることのできる人間もいる。でも、俺がそういう人間じゃないことはよく分かっている。それでも、彼女には元気になってほしかった。
「俺、入部できないかな?」
「北辰さんが入ってくれます?」
彼女は顔を上げて俺を見た。
「うん、こいつに書けばいいんだろ?」
彼女が持っている入部届を指さした。彼女はそっとうなずいた。俺はカバンからペンを取り出し、素早く用紙に記入した。
「よし、今日はこれで終わりだな?じゃあ先に帰るわ。」
彼女がうなずき返し、俺は手を振って帰路についた。
これでいいんだろうか?ちょっと雑じゃないか──よくわからない。
温かい言葉もかけられないし、人を慰める方法も分からない。これがたぶん俺の精一杯だろう。よし、家に帰るぞ!




