元伯爵令嬢の一目惚れ〈2〉
第四話です。
楽しんでいただけますよう。
作者自身まだ学生ですので、至らぬ点も多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。
「___っていうことがこないだあってさ」
「へぇ〜」
あれから時は過ぎ去り三日後、あたしはまたミアの家にいた。
あたしの話(主に一目ぼれしたことと彼の魅力について)に、ミアが柔らかい笑みを浮かべながら頷く。ともかくリリスが無事でよかったよ、なんて言うミアは、今日も今日とて大変かわいい。
「ごめんね、貰った野菜とか花とか、持って帰れる分は頑張ったんだけど、ちょっと無駄にしちゃって……」
「いいんだよ〜。リリスの安全が第一!まぁ、リリスが恋するとは思ってなかったけど……」
ミアはコト、とあたしの前にカップを置いた。
「粗茶ですが」
「いえ、お気遣いなく」
こうやって返答してしまうのは、やっぱり貴族だった頃のクセだ。
あたしは、いろんな事情で二回身分を変えてる。
けど、一番期間が長かったのは貴族の生活で、その時の習慣は今でも体に染み付いてる。
「ていうか、カロライン家の後継ぎのお方、もうそんな成長されたんだね」
「知ってるの?」
「うん。私もリリスも、会ったことあるはず。あ、でもその時はお兄様がいらしたか」
「えっ、そうなの?」
もともととは言え同じ家の者だけど、全然知らなかった。
確かにあたしは、もとカロライン家の人間だ。
でも、あたしはあくまで分家の者。
姓にカロラインが入れど、その血は本家から遠く離れたものだから、本家の方はそんな詳しくない。
まぁそれでも、分家の中では力がある方だったけれど。
それに、あたしの両親は本家と最低限の関わりしか持ってなかったし。
「へぇ〜。あの人、お兄様いらしたんだ」
「すでに他界されたそうだけどね。お兄様がまだご存命の頃、彼の十五歳の誕生日にお披露目パーティーがあったでしょ?ほら、私とリリスが知り合った時の」
ミアは目を伏せてお茶を一口すすった。
不意に、記憶の引き出しがパカリと開く。
数少ないあの時の記憶が、脳裏に強くよみがえった。
あたしがまだ幼かった頃、両親に手を引かれて行ったお披露目パーティーで、紹介されていた青年が、確かにいた。
その隣にはいかついおじさん、そしてあたしと同じくらいの小さな子供も、青年の近くに立っていた。
顔も声もおぼろげだし、あの時のあたしはパーティーなんてどうでもよかったけど、確かにあの幼子は彼だったのかもしれない。
あたしはカップに角砂糖を放り込みながら口を開いた。
「あぁ、あれね!あの時お披露目されてた方、もう亡くなられたんだ。知らなかったな」
「時期がちょうど被ってたからね、リリスが大変な時と。あっちも次期当主引き継ぎでバタバタしてたから……」
「ふぅん」
じゃあ、あたしが平民に落ちる時、誰もあたしのことを引き取れなかったのは、そんな一大事が起きてたからなのか。
あの時はあたしも自分のことで精一杯だったけど、本家も本家で忙しかったのだ。
そりゃあ、小娘一人引き取ってるヒマすらないわけだ。
で、後を継ぐはずだったお兄様が亡くなった彼は、次期当主になったと。
「なんか納得した」
「なにが?」
「ううん、こっちのはなし〜」
あたしがカップを口に運んでいると、不意にミアがパンと手を叩いた。
「あのさリリス。リリスはさ、その恋叶えたい?」
「まぁ、できることなら……」
そりゃあ、叶えたいに決まってる。
だけど、今は身分が違う。
せめて、あたしが今も貴族だったらよかったのに。
「私さ、良いこと思いついた!」
ミアが見たこともないような悪い顔で笑う。
あたしは思わず口の端を引き攣らせた。
「あの、ミアさん……?」
ミアは自信満々にいい切った。
「カロライン家のパーティーに、潜入しよう!」
閲覧ありがとうございました。