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元伯爵令嬢、リリス・グレイス〈2〉

第二話です。

楽しんでいただけますよう。

作者自身まだ学生ですので、至らぬ点も多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。

「いやー、助かったよーっ!ほんとにありがとね、リリスちゃん!!」

 そう言って、ミアのお母さんが快活に笑った。

 あたしも、それに笑みで返す。

「どうやら私たちの暮らしの分と奉納分引いてもずいぶん残るみたいなんだ。その分は、リリスちゃん持って帰りな」

「いいんですか?ありがとうございます!」

「なぁに、ちょっとしたお礼さ」

 ミアのお母さん、もといリサさんは親指で手押し車を指し示した。

 そこには山盛りの野菜や花々が積んである。

 更に、それが数台分。

 リサさんは上機嫌だ。

 貴族たちが着るようなロングドレスを着ているのにもかかわらず、彼女は裾を紐でたくし上げ大口を開けて笑っている。

 ミアに至っては平民の娘が着るような麻のワンピース姿(もちろん、そんな姿も可愛いよ!)。

 

 フローレス家も、元をたどればカロライン家と同じ階級の貴族。

 だけど、ミアの両親はすこし、いやかなりの変わり者だ。

 少なくとも、貴族たちは自分で畑仕事はしないし、スカートの裾をたくし上げもしない。

 ミアの両親は平民のような素朴な生活が好きで、浴びるほどのお金を持っているのに召使いを雇わず、自分たちで野菜を育てては自給自足生活をしている。

 カロライン家はそんなことなかった(他の貴族家だってないだろうけど)から、単純に珍しい人たちだと思う。

 ミアもそんな生活を気に入っているみたいで、日々慎ましやかな過ごすことに対して苦痛も感じないみたい。

 あたしも元貴族家の出身だけど、豪華絢爛なのはそんな好きなわけじゃない。


 ちょっと話がそれたけど、これがあたしがミアと仲よくなれた最大の理由。

 これまでこんな事言ってきたけど、一応ミアのお母さんたちは貴族として最低限の務めは果たしてる。

 親睦を深めるパーティー、とか他国との交渉、とかね。

 そういうのは、身なりを整えて出かけて行くみたい。

 だから、ミアたちフローレス家とは、カロライン家が主催する立食パーティーで出会った。

 そのパーティーは、なんでもカロラインの本家、現在のトップやその子どもたちが出席すると言うんで、一目会っておきなさい、ってあたしも出させられたんだ。

 そこに着てたのが、ミアと彼女の両親。

 年の近かったミアとあたしは、みるみるうちに仲良くなった。

 その後も、執事やメイドに頼み込んでフローレス家の門を叩いては、ミアと一緒に絵を描いたり野山を駆けずり回ったり(これに関しては執事はいい顔をしなかった)。

 あたしの両親が流行り病で亡くなって、あたしが平民に落とされてからも、庶民派(というより、完全庶民)なフローレス家とは親交が続いたんだ。

 だから、今でもこうやって畑を手伝ったり、反対にあたしが家事を教えてもらったりして仲良くしてる。


「リリスー!お昼できたからおいで!お母様も、その辺にされたらどう?」

 ミアが畑の向こうから手を振った。

「じゃ、行こうか」

 リサさんは頬についた土を拳でぬぐった。



「リリス〜、ほんとうにありがとうね!お父様は今いらっしゃらないのだけど、リリスが来るの楽しみにしていらしたんだよ」

 ミアは今にも鼻歌を歌い出しそうだ。

 外の井戸で手を洗ったリサさんとあたしは、木製の椅子に腰掛けていた。

 もう何回も来たことのある家だけれど、いつ見てもすてきだと思う。

 壁には、リエン(アルテマの街の特産物で、小さくて丸い花が沢山つくんだよ!)のドライフラワーがかけてあって、窓からはサンサンと陽光が差し込んでいて明るい。

 その出窓には、いくつかの瓶が置いてある。

 苔を栽培しているのとか、海水が中に入れてあって、そこで海藻が揺らめいていたりとか。

 ほんとうにおしゃれだ。

 あたしの家(と、いっても数ヶ月前からのだけど)はもっと殺風景だ。


「さぁ、召し上がれ!」

 ミアが両手を広げる。

 机の上には、スープやパン、それに加えて数種類のおかずが並べてあった。

 どれもほかほかと湯気をたてていて、とてもおいしそう。

「今日リリスがくるからってねぇ、はりきっちゃった!遠慮なく食べてってね!」

「「いただきます!」」

 リサさんと声をそろえ、手を合わせる。

 あたしはまず、魚の蒸し焼きにかぶりついた。

 すっごくおいしい。

 数尾分が大皿にのっているけれど、全部食べつくしてしまいたいくらいの味だ。

 だけど、さすがにあたしにも分別というものがあるのでわきまえた。

 ミアは満足げな顔でスープをすすっている。

「やっぱミアの料理は世界一だね!」

「ほんと!?ありがと、リリス」

 ミアが嬉しそうに笑った。

「ゔっ」

 笑顔の破壊力が高すぎて、思わず呻いてしまった。

「大丈夫?」

「大丈夫……」

 そう答えはするけど、内心は大荒れだ。

 ああ、この笑顔を情報として永久保存できたらいいのに!

 けど、そんなものここにはないから、必死で目にその笑顔を焼き付けた。

「やだリリス、変な顔〜」

 ミアがまた楽しげに笑った。あたしもそれにつられて思わず笑みが浮かぶ。


「あ、リリスちゃん、今日は本当にありがと!私ちょっと出かけてくるよ」

 リサさんが裾を上げていた紐を解き、身なりを整えて立ち上がった。

 さっきまで無造作な一本結びだった髪も、軽くウェーブのついた上品なハーフアップに変わっている。

 ブロンドの髪の毛がキラキラ輝いて、実にきれいだ。

 こうやって、リサさんは平民モードと貴族モードを使い分けてるらしい。

「どこか行かれるの、お母様?」

「前々から付き合いのあった家がね、当主お披露目パーティーを開くっていうんで、出なきゃならないんだ。本当はお父様が出るはずだったんだけど、どうやら交渉が長引いてるらしくてね」

「そうなんだ……お気をつけて」

「ありがとね、ミア」

 リサさんは、首にチョーカーを巻いてから立ち上がった。

 大粒の宝石があしらわれた、フローレス家代表の証だ。

「じゃあね」

「いってらっしゃい、お母様」

「リサさん、お気をつけて」

「はいはい」

 リサさんは丘を下った後、その辺で馬車をつかまえて街に出ていった。


「じゃ、あたしもそろそろ帰ろうかな」

「もう帰るの?じゃあ、これ持って帰って!お土産!」

 ミアに手押し車一台分の野菜を指し示される。

「これ本当にいいの?」

「いいのいいの!いっぱいあるんだし、お母様もリリスに持って帰ってもらったら喜ぶよ」

 本当にうれしくって、ありがと、と言ったらミアはえへへと笑った。

「そーぉ?よかった。あとこれと、これもいいよ!」

 お菓子に花、料理がどんどんと手押し車に積み上げられていく。

 てっぺんは危なっかしく揺れていて、ありがたいけど、これを持って帰ることを想像したあたしは思わず息をのんだ。

「えっ……と、これ全部いいの?」

「いいんだよ!」

 結局ミアの勢いに押し切られ、手押し車は二台に増えた。

 が、一台は今度あたしの家にミアが届けてくれるというのであたしが持って帰るのは実質一台分だ。

 それても、高く積み上がった野菜や花束たちは今にも崩れ落ちそうな絶妙なバランスを保っている。

「じゃあね〜」

「うん、ありがとね!」

 荷馬車を押しながら丘を下る。

 街に出たところで、一つの集団が角を曲がってきた。

 数台分の馬車が列を連ね、両脇には鎧で身を固めた護衛たち。

 二台ずつの馬車に挟まれた一台は、ひときわ大きく、警備も厳重だ。

 御者すらも心なしか高価な服を着ている気がする。

 こんな列を作って街を歩くなんて、よっぽどの大貴族だ。

 ロザレイン家か、アクリエータ家か……どこの家かはわからないけれど、いずれにしても血筋の本流を継ぐ者たちが乗っているんだろうな。



 そんなことを考えていたせいだろうか。

 あたしは、横から段々と迫るその集団に気が付かなかった。

「ちょっと嬢ちゃん!」

 御者が焦ったような声をあげる。

 ぱっと反射で顔をあげたあたしは、どんどんと近づく馬車を見て息を呑んだ。

 もうぶつかってしまいそうだ。

 それも、ひときわ豪華絢爛な、多分この集団一の権力者が乗っているであろう馬車。

 どうしよう、こんなのぶつかったらどんな罰を受けることやら。

 でも、今更避けられそうにない。

 あたしも、野菜が山盛りの手押し車を押している。

 ぶつかるっ!!

 あたしは固く目をつむった。

閲覧ありがとうございました。

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