表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

【第1章:誰かの声がした】


〈……誰かが聞いてくれると思ってた。私の声が、残ってる限りは。〉


スピーカーから流れ出すその声は、どこか幽霊のようだった。

地中深くに隔離された部屋の空気が、ほんのわずか震える。秋津凛は椅子の背に寄りかかることもせず、まっすぐに座ったまま、呼吸を止めるようにして聞き入っていた。


少女とも女性ともつかない、その声。

透明で、そしてどこか必死に語りかけるような、しかし記録されたものであるがゆえの“届かなさ”を孕んでいた。


――似ている。

そう思った瞬間、凛の胸に微かな寒気が走った。似ている。というより、まるで自分自身が何かを話しているような、そんな感覚。


「私の……声?」

独り言のように呟いた瞬間、背後の自動ドアが開いた。


「やはり、再生してしまったか。」


男の声だった。低く、硬質だが、どこか優しさの滲む声。

振り返ると、そこには南条睦――ステーション副所長が立っていた。白いユニフォームにくっきりと影を落とす逆光の中で、その姿は幻影のようでもあった。


「この声……私に似てますよね?」

凛の問いに、南条はわずかに目を細めた。


「そうだな。初めて君が基地に来たときから思っていた。君の声には、彼女の残響がある。」


「彼女……?」


「昔、ここにいた通信技師だ。名前を記録から抹消したいと言った最後の人間だった。……もう、この世にはいない。」


その言葉の後、沈黙が落ちた。部屋の空調音が妙に大きく感じられる。


(凛の思考)

「私は今、誰かの声を聞いているのか。それとも、自分の過去が別の形で私に語りかけているのか。わからない。ただ、確かなのは、この“声”が私を動揺させるほどに、私の一部に入り込んでいるということ。」


南条はゆっくりと部屋に入り、コンソールの操作画面に目をやった。

「“再生ログNo.27”。アクセス権限はすでに閉じていたはずだったのに……こんなふうに、開くこともあるんだな。」


「どうして……消してしまわなかったんですか?」


凛の問いに、南条は答えなかった。だが、その沈黙こそが、彼の内側にある“答えたくなかった過去”を語っているように感じられた。


(凛のモノローグ)

「誰かが遺した声。それを再生することで、私は過去の誰かと繋がるのか? それとも、そこには別の目的――記録ではない、何かの“転送”があるのだろうか……」


「副所長……この声は、本当に“彼女”のもので間違いないんですか?」


南条はゆっくりと頷いた。

「正確には……彼女の“記憶を音声化したもの”だ。肉声ではない。だが、彼女が最後に望んだ形だ。」


凛は目を閉じた。

耳の奥で、あの震える声が繰り返されている気がした。


〈……誰かに覚えていてほしい。ただそれだけだったの。〉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ