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2、失恋ソングしか歌わないカップル 前編

ー麻衣視点ー


3月11日。今日から正式に春休みだ。

麻衣は郁斗とカラオケに行くための荷造りをしていた。


「…よいしょと」


白のパーカーを身につけて、髪の毛を後ろで結ぶ。


ピロンと通知音がする。


ベッドの上に置いてあるスマホが光り、その画面を覗き込む。


「ん?あ、郁斗だ」


急に声色が高くなる麻衣。

両手でスマホを掴み、勢いよくベッドにダイブ。


そのメールの内容。

「待ち合わせの場所に五分遅れてに行っていい?ごめん待った?って言いたい。今来たところって言ってくれない?」

だそうだ。


「なーるほどね…」


そうだった、郁斗ってたまにこういうことするやつだった。

いつもの、発作的な症状だ。


今回はなんだろ、寝る前に少女漫画でも読んだのだろうか。


まぁ、いいや。

私もそれしてみたいし。


この前、郁斗に勧めた可愛い動物のスタンプの、オッケー!と言っているやつを押してメール画面を閉じる。


そのままベッドに、結んだ髪留めが外れないように綺麗に転がる。


現在8時33分。

待ち合わせ場所まで、大体歩いて5分弱。


53分ぐらいに出ようかな。


スマホを持ち直し、しばらくぼーっとする。


「あそうだ」


不意に、スマホの画面を切り替える。


そこはメモだ。

題名は「郁斗と一ヶ月でしたいこと」


その大まかな内容をここに記入する。


・手を繋ぐ

・頭撫でてもらう

・ハグする

・ハグされる

・頬にkiss

・口にkiss

・深い kiss


この後も色々書かれてるが過激なので無記入とする。


昨日の夜に深夜テンションで作ったのでなんか後半が特にうるさい。


上から順に難易度が低いと言う感じになっている。


「…手は繋ぎたいなぁ」


普通の手繋ぎなら小学生の頃した事を朧げに覚えている。きっかけは覚えてないが。


私がしたいのは恋人繋ぎだ。


郁斗は少し汗っかきだから、緊張して湿っている左手を握りしめたい。


郁斗の赤くなった顔を見たい。

…ハグもしたいし、されたいな。


後ろからハグされたら、多分めっちゃドキドキするんだろうな。


「…んふふ」


妄想して赤い顔をしながらベッドの上をゴロゴロしているといつの間にか55分になっていた。


「あ、そろそろだ」


自分の部屋の扉の近くにかけられている黒のコートを身に纏い、部屋を出る。


玄関で靴を履きながら、誰もいない我が家に別れを告げる。


片足でステップしながら、扉を開こうと頭で頑張ってドアノブを突く。


結局失敗して空いた片手でドアノブを下す。


「行ってきまーす」


玄関の扉を出て、待ち合わせの場所に方向転換する。


「ふぅー…」


早春の、少し冷たい風が拭く。


片手をコートのポッケに入れながら、もう片手でスマホの時間を確認する。


58分。


「…ちょっと急ぐか」


遅刻を待つために急ぐなんて、意味のわからない事だ。

まぁこれも面白そうだから、いいか。


「よし、着いた」


待ち合わせ場所に着いた。

ぴったし9時だ。


もうちょっとで、郁斗と会えるんだ。

えー、めっちゃ嬉しい。

春休みなのに、二人で遊びに行けるんだ。


目印の電柱にもたれかかりながら、少しの間色々妄想しながら待つ。


約5分後、自分と反対方向の道から郁斗が出てきた。


「あ、きた」


服装は、白のパーカーを着てる。

意図せずに、ペアルックになってしまった。


まぁ、そんな事はいいや。


なぜか、なんでかわからないけど半笑いの郁斗が自分に話しかける。


「…ごめん、待った?」

「いやぁ?全然?今来たとこ」


ー郁斗視点ー


俺らの家からカラオケ屋までは大体30分で着く。

そこまでの道のりを二人は歩いていた。


麻衣が唐突に話しかけてくる。


「てか、同じ格好だね、パーカー」

「え、本当だ」

「ペアルックだね」


麻衣の首の後ろあたりにある、白くはみ出したフードがチラッと見えた。


ペアルックってだけでめっちゃはしゃいでいる麻衣を見てると、なんかこっちもめっちゃ嬉しくて、もどかしくなった。


俺はパーカーの下にたくさん着てきたから、コートは要らないけどこんな事なら完全にペアルックにするために自分用の黒コート持ってくんだった。


ちょっと後悔。


そこから先は他愛もない話をしながら歩いた。

中学校の思い出とか、結構遡った小学校の頃の担任の話とか、高校の話、高校の。


高校かぁ。

いやだなー、別れたくないなー。


なんで俺、あそこの高校を選んだんだろ。

進学に強いからってこともある。


だけど、そんなん少しレベルを下げればここらにたくさんある。


じゃあ、なんでそこ入ろうとしたんだろ。


いや、楽しい時に暗いこと考えんのは良くない。

受験頑張った自分を否定したくない。


「…好きだよ、麻衣」

「…んえ、あ、うん、私も。はい」


不意打ち成功。

めちゃくちゃ動揺してる。


なんで俺、そんなネガティブなこと考えてたんだろ。

なんか、笑えてきた。


「っふふ…」

「あちょっと、人を笑うなよ」


麻衣が軽く肘で小突く。


そんなイチャイチャをしていると、カラオケ屋に着いた。


カウンター前で店員と会話をする。


「ドリンクバーは、つけますか?」

「はい、お願いしまーす」


二人が案内された部屋は割と小さめの個室。

まぁ、二人だからこれぐらいがちょうどいい。

あまり広すぎるのもアレだし。アレ。


曲選択のパネルを前に、麻衣に話しかける。


「よーし、先どうする?」

「あちょっと待って」


麻衣が自分と俺の分のドリンクバー用のコップを両手に持って扉の前に立つ。


「私これ入れてくる。何欲しい?」

「ありがと、じゃあオレンジジュース」

「おっけ色々混ぜてくる」

「話聞けよ」


にひひ、笑いながら麻衣はコップを重ねて片手で扉を開く。


可愛い。


扉の閉まり際にポツリと、先に曲決めててと言われた。


「りょうかーい」


ギリギリそれを聞き取れたので、パネルを構えて曲を選び始める。


「えどうしよ」


こういう場面において、1番最初の曲のハードルはバカみたいに高い。


テンション高い曲で行くと気分は上がるけどカップルって感じはない。

そして暗すぎる曲だとテンションが逆に下がってしまう。


ここは、いい感じに明るくてテンションが低い曲。一択だ。


それを探すのに時間はかからなかった。


扉が開かれる。

麻衣だ。


「持ってきたよー」

「ありがとー、…それ飲めるやつ?」

「多分」


麻衣が俺の目の前のテーブル置いたのは、なんかキモい色をした炭酸水だった。

炭酸水の時点でオレンジジュースの線は消えている。


麻衣が俺の隣に座り込み、身をこちらに乗り出す。


「曲決まった?」

「うん、はいこれ」

「ほい」


選んだ曲の予約を押して、麻衣の膝の上に曲を選ぶパネルを置く。


マイクを手に持つ俺に問いかける麻衣。


「なんの曲?」

「聞けばわかるよ」


イントロが流れ出す。


「…あー、これどっかで…」


なんとなく、耳馴染みのあるそのメロディに麻衣は耳を傾ける。


二人の目の前にあるでっかいモニターに、曲名が表示される。

それと同時に、麻衣が叫ぶ。


「あ、思い出した!」


そう、この少し暗いイントロは、失恋ソングだった。

CMソングで、少し有名なやつ。


小学生の頃からこの曲が好きだったので、よく麻衣に勧めていたのを思い出した。


めっちゃ辛いって感じじゃなくて、次の恋探そ!って感じの暗すぎない曲である。


曲が始まる二小節前に、ポツリと麻衣が呟く。


「…カップルで来て失恋ソング歌うの?」

「…確かに」


カップルが少し詰まった麻衣と、同時に一音目を歌い始めた。


後編に続く。

カラオケでドリンクバーつけないと部屋の中で干からびて死んじゃうと思ってる。

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