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4,軟禁王子 エルシーside 2ー2








「は………?」



 目の前に差し出されたスプーンを持とうとした時、バチンと音がして光る文字が浮かび上がった。シルス兄さんとレイは知っていたのか、ノーリアクションだったが他は絶句していた。そこには衝撃の事実が示されていたのだ。



「これって…」

「薬屋と伯爵だな」

「やっぱりか」

「エリーゼちゃんの予想は当たってたんだね」



 料理に混ぜた人は使用人、指示した人は新興伯爵、遅効性の毒物が微量。服用していた薬は完全に毒薬だった。

「あ………」




 体の震えが止まらなかった。手首の魔道具は僕の料理にしか反応せず、兄達の料理には毒が仕込まれていなかった。


「この料理は回収する。俺の空間魔法で保存するから」

 パトリック兄さんが回収してくれたお陰で毒を口にすることはなかったが、もう何も食べたくなかった。



「ふっ……」

 僕は何を期待したんだろか。もう使用人に何を期待しても無駄なのに。笑うことしかできない。


「もう少し遅ければエルは死んでいた。エリーゼちゃんは毒物の可能性を疑ったんだね」



 気になることの意味がよくわかった。

「なんで…エリーゼは、わかったの………」

 エリーゼは、触れた物が毒物だった場合、自身に微弱な電流が流れるようにしているそうだ。初めて会ったときエスコートしただろ。体に蓄積した毒に反応したらしい」


 レイが解説した。もしあの時彼女の手に触れなかったら、気付かれることもなく原因不明の病気で死んだことにされていたのか。



 普段は髪がぐしゃぐしゃになるくらい強く撫でるパトリック兄さんが優しく背中を撫でてくれた。それだけで涙が溢れて止められなくなった。


「俺達的には罰したいが…」

「無理だろうね。両親は医者の家と新興伯爵に強く言えない。できたとしても2人の婚約解消くらいだ。最悪の場合、現状維持」


 アクア兄さんとシルス兄さんが顔を歪めた。


『はろぉー王子様方』

 気の抜けた調子の声。ぬっと出てきたのは

「子竜…」

 真っ黒な竜。金色の瞳が特徴的。エリーゼと同じだ。


『俺は闇の最上位精霊。エリーゼのお友達だよ。ヨルっての』

「ヨル様ですか。何のご用でしょうか」


『あのね、闇の精霊って人の心を操れるんだよね。で、エリーゼは大事な人を傷つける人間には容赦しない。そのブレスレットって、持ち主に危害を加える人間をどこまでも追って耐え難い苦痛を与える効果が付いてるんだよ。

 精霊達も皆ドン引きするくらいの。あっち側のためにもなると思うんだぁ。あっちが婚約解消を持ち出せば良いじゃん。操ってあげるけどどう?』




 自分の中のエリーゼ・ガーナメントのイメージが少しズレた気がする。精霊を引かせるくらいのことを考えるのか。バッサリしている性格だとは思ったが。

「エル、エリーゼちゃんに大切にされてるんだね」

「そうでしょうか。ただ、婚約者に死なれるのは後味が悪いというだけかもしれません」



 僕は彼女を信じても良いのだろうか。


『む。エリーゼはその魔道具徹夜で作ってた。派閥争いなんかで死んでほしくないって言ってたし天寿全うしてほしいって言ってたもん。

 婚約了承も即決だった。エルシーはエリーゼの大嫌いな王族なのに守ろうと必死だった。その辺の貴族みたいに上辺だけじゃないもん。一回好感持った相手をずっと大事にする。

 それじゃ、操ってくる。エリーゼに喧嘩売ったらどうなるか思いしれば良い』



 そう言ってヨル様は消えていった。


「僕は、彼女にお礼をしなければいけませんね」



 あと、僕は相当単純だね。こんなに一瞬で恋に落ちてしまうなんて。本当に単純。

「エルは、刺繍も得意だったね。するなら道具を用意するよ」


「ありがとうございます。デザインはもう決まりました」


 赤い薔薇を3本入れよう。花言葉は共に「貴方を愛している」。まあ大分遠回しだが気付かれなかったらそれで良い。デザイン的に変でもないから。


 そこからエリーゼが来るまでの数日間、刺繍を続けた。あの日から食事ができなくなったから何かしていないと落ち着かなかった。僕に合わせて兄組が食事を抜いていたと聞いたときは驚いた。

 そこまでするか、と。


「大切な弟が食べたくても食べられない状況に置かれているのにそんな中で目の前でのうのうと食事をする気にはならないね。もし他の弟が同じ状況だったとしても僕はそうする。1人で苦しんでほしくないんだ」


 兄としては良くても第一王子としては周りが黙っていないだろう。その証拠に僕は食事以外での暗殺ターゲットになっていた。


 僕がいなければ兄はまた食事ができるようになると考えたのだろう。瀕死の重傷を負ったのは全てエリーゼのブレスレットに追い回された暗殺者側だったが。本当にエリーゼには助けられてばかり。



「失礼します、エルシー殿下。エリーゼです」

 今日は自室にエリーゼを呼んでいる。暇だと言われていたしいつでも呼んでくださいとも言われていたので。


「ん、入って」

 控えめに顔を出したエリーゼ。いつ見ても愛らしくて頭が熱で沸騰しそうになる。

「ごめんね、まだあまり動けなくてお茶一つ淹れられなくて」


 歩けるときはずっと一緒にお茶を飲んでいたのに最近では食事ができないせいか、ほとんど歩けない。ベッドがお友達状態だ。



「いえ、お茶くらい待てますので。早く治して一緒に飲みましょう」


 エリーゼは僕が言って欲しいことを言ってくれる。エリーゼも僕と一緒にお茶を飲みたいと思ってくれているとわかるだけでも安心できるし早く治したいと思う。僕が幸せを噛み締めているとエリーゼは持参してしていた鞄をゴソゴソと漁り始めた。


「あ、それと渡したいものがあります。この前のは魔道具でしたがこれは純粋に私が贈りたいから用意した物です。受け取っていただけると嬉しいです」


 私が贈りたい物。両親に見放された僕にとって自分のためだけに贈られる物というのはきっと彼女が想像するよりも遥かに嬉しいことだった。


「ありがとう。今、開けてもいいかな」

「はい。感想も聞きたいですから」

 これまた丁寧にしてある包装を解く。入っていたのははハンドメイドの青薔薇が5本。確か「可能性」、5本の薔薇は「貴方に会えて心から嬉しい」という花言葉を持っている。




「5本…」

 顔が熱くなるのが自分でもわかった。そして更に奥の方にもう一つ包みを見つける。入っていたのは緑色のガラスで作られたブローチ。ゴテゴテしすぎない装飾はエリーゼらしさが垣間見える。


「ありがとう、エリーゼ。実は僕も用意したんだ。素人だからあまり上手じゃないけどよければ使って」



「っ……!」


 用意したハンカチを渡すとエリーゼは茹で蛸のように真っ赤になっていた。どうやら花言葉については知っていたらしい。家宝にすると聞いて驚いたがなんとか使ってもらえることになった。


 青い薔薇は花瓶に入れて飾り、ブローチは使う時が来るまでケースに入れてチェストに仕舞うことにした。


 仕舞い終わったところでエリーゼの顔色が良くないことに気づく。この一瞬のうちに何があったのだろうと聞いてみると「社交に出ると婚約者を変えろと言われるかもしれない。婚約者でいたい」ということだった。


 僕は王位継承権こそないがそれでも王族、兄との仲も良好。コネクションの一部として取り込もうとする貴族は出てくるだろう。だが、言っておきたい。



「婚約は絶対に解消しない。社交にも出ない。王に命じられたら出ないとまずいかもだけど茶会にも出ない。学園に入学した後も必要最低限の交流しかしない。エリーゼ以外の女なんて要らない。僕の側にいて欲しいのはエリーゼだけだ。他はどうでもいい。婚約者を変えることはしない。絶対に。だからエリーゼはこれからも僕の側にいてくれたらいいよ」


 ずいっと顔を近づけて早口で捲し立てると、顔が良すぎて命に関わると言われた。確かに僕も顔は悪くないと自負しているが十分美少女な君には言われたくない。



「家族が美形ですから。あ、今何か食べれそうですか?料理勉強してきたので簡単なものだったら作れますよ」


 軽く流された気もするが、これ以上食事を抜けば毒でなくても命に関わる。だが、トラウマが蘇ってしまうのだ。生きるために必要な食事で死にかけるなんて。



「使用人の用意した食材は使わないで。調味料も皿も水も。全部エリーゼが用意してくれるなら食べれそう。正直あれからご飯食べてなくてお腹空いてた。固形物が食べたい」


 もう使用人も誰も信用しない。信用する人は選ばないと。

「想定の範囲内です。魔法使えばキッチンも用意できますし」


 こんな僕の我儘にエリーゼは付き合ってくれた。部屋にある備え付けのキッチンも使えるはずなのに「不安でしょう?」と僕から見える範囲で調理をしてくれた。


 エリーゼが作ってくれたのはおにぎり、生ハムのサラダ、卵焼き、味噌汁だ。主食がパンのこの国ではあまり見慣れないものばかりだったが、とある国では朝食の定番らしい。


「美味しい…!こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてだよ。エリーゼは凄いな。こんなに美味しい料理が作れるんだね」


 魔法のようにできたご飯は今まで食べた中で一番美味しかった。王侯貴族の食事は豪華なので彼らからしたら質素なのだろうが量を食べられないだろうというエリーゼの気遣いがよくわかった。




「ねえねえ、婚約者の兄にもあるよね?エリーゼちゃん」


 婚約者特権だと心の中で兄組にガッツポーズをしていた僕の気分は一気に下がった。シルス兄さんが弟達を連れてエリーゼに欲しいと同じものを強請ったのだ。



「で、あるの?俺達の分」

 双子の兄、レイも便乗し、エリーゼは渋々ながらも作ることになってしまった。


 一口目を食べて、次々に絶賛する兄達。



「エリーゼ、ん」

 嫉妬から強引に僕の手から食べさせたがエリーゼは嫌な顔せずに口を開けてくれた。



「ん…。美味しい」

「適度な甘さが丁度良いね」

 僕も絶賛するとエリーゼはその綺麗な唇に弧を描いた。跳ね上がった心臓と生暖かい視線を向けてくる兄組を無視して僕ら2人の未来について考えた。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(6歳)

・エルシー・ウォルフラン(9歳)

・レイ・ウォルフラン(9歳)

・シルス・ウォルフラン(16歳)

・アクア・ウォルフラン(13歳)

・パトリック・ウォルフラン(14歳)

・ヨル


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