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3,軟禁王子1ー3



「へえ、何が内密に?エリーゼちゃん」

 甘めの声が聞こえてきた。間違いなくレイ殿下ではない。ギギギと音を立てて振り向く。実際は立てていないが内心そんな感じだ。



「シ、シルス殿下…なぜここに…」

 本当にこの国の王族って気配消すの上手すぎないか。さっきのレイ殿下もほぼ空気だったし。


「ぷっ…あはは…!感情顔に出すぎでしょ。君、本当に面白いね。流石最上位精霊に好かれるだけあるよ」

 楽しそうですね。私は楽しくないですよ。それに貴方も人のこと言えませんよ。



「犠牲ってなぁに?別室に案内するから話してみてよ。気になるなぁ」

 今度こそ頭を抱えたくなった。やだぁ助けてぇ…。

 そうして私は半ば引きずられるような形で別室に連行された。


「じゃあ、聞かせてもらおうね。気になるなぁ」

 笑顔が怖い16歳。流石王族。


「う……情状酌量の余地は…」

「ん?ないね」



 扉はレイ殿下の後ろ、窓はシルス殿下の後ろ、私の後ろには棚しかない。壁は…無理。軟禁用の建物とて王族の持ち物だ。流石に王宮の壁を破る度胸はない。

「逃がさないよ、天才少女ちゃん」


 やめてぇ…。

「わかりました。人の犠牲は出ていないのでいきなり引っ捕えるのはご遠慮願いたく…」

「話してくれるなら何でもいいよ」

 逃げられない…。


「王宮に不法侵入して薬屋との取り引き現場を確認しました。王宮への不法侵入は立派な犯罪です。そのついでに一錠掠め取りました。これは窃盗です。

 現在緑の精霊が解析中です。エルシー殿下に魔道具を渡しました。毒物の有無を調べるものです。

 エルシー殿下の不調の大半は殿下自身ではなく派閥争いの一環でしょう。そちらに関しては新興伯爵家の動きを確認していただければわかります。薬屋はそこの者ですから」


「ほう。ではこのままだと愛する弟は毒殺されるかもしれないということだね。犠牲になった不法侵入と窃盗に関しては警備がザルだったということにしておこう。使用人もいないからね。

 こちらで新興伯爵家について調べる。そこの娘がなぜかリーの婚約者だし。引き続き毒物と薬について調べて欲しい。今日は弟達全員エルシーの部屋で昼食をとるからそこでわかるだろうが一応ね」

「はい。精霊達にも伝えておきます」



 終始ビクビクしっぱなしだった私と違い、シルス殿下は余裕のある表情を浮かべていた。もう一度言う。流石王族。厳しい教育に耐えてきただけある。


 数日後。事実から言えば、エルシー殿下は病弱ではなかった。生まれた時から長年微量な毒を食事に盛られ続けて4歳の頃から体調が悪くなったそうだ。薬にも同様の毒が仕込まれていて、もう少し遅ければエルシー殿下は毒によりこの世を去っていただろう。



 エルシー殿下はそれから食事ができなくなったそうだ。そりゃそうだよ。王族とはいえまだ9歳だもん。日本だと小4くらいでしよ。因みに私はあの後王子5人からめちゃくちゃ感謝された。最初は敵意を示していたレイ殿下も今回のことで私に心を許してくれたようだ。でもまだ怖かったので全員分の魔道具をプレゼントした。毒があるかどうか確かめるあれ。




 今日はエルシー殿下に呼ばれて王宮に来ている。

「失礼します、エルシー殿下。エリーゼです」

「ん、入って」


 最近はずっとエルシー殿下の私室に通される。未婚の男女が私室に入ることはあまり良く思われていないが関係ない。どうせまだ一桁の子供だし。

「ごめんね、まだあまり動けなくてお茶一つ淹れられなくて」

「いえ、お茶くらい待てますので。早く治して一緒に飲みましょう」


 ベッド脇の椅子に座ってそう声をかけるとそれは嬉しそうに笑ってくれた。

「あ、それと渡したいものがあります。この前のは魔道具でしたがこれは純粋に私が贈りたいから用意した物です。受け取っていただけますか」

「ありがとう。今、開けてもいいかな」

「はい。感想も聞きたいですから」


 私が贈ったのはハンドメイドの青薔薇を5本。確か「可能性」の花言葉を持っている。5本は「貴方に会えて心から嬉しい」だったか。あとは大体恋愛的なものになってしまうし飾るならこのくらいの数が丁度いいだろう。あとはガラスのブローチ。緑属性なので緑色のガラスだ。宝石は流石に重いだろうし初めての贈り物ならこれくらいが妥当だろう。



「5本…」

 そう呟いたエルシー殿下は耳まで真っ赤になっていた。もしかしてこっちの世界にも花言葉があったのだろうか。


「ありがとう、エリーゼ。実は僕も用意したんだ。素人だからあまり上手じゃないけどよければ使って」

 受け取ったのは真っ白なハンカチ。赤い薔薇が3本、刺繍してある。3本って何だっけ。



「っ……!」


 思わず顔を背けてしまう。ドストレートに告白されているのだが!「愛しています」の二枚重ねじゃん。

 エルシー殿下はソワソワしている。感想を求められている気がする。


「額に入れて飾って我が家の家宝にします」

「え!?さ、流石に家宝はやめてほしい。それに、使ってほしいから」


 射抜かれたのだが!不覚…!3歳差とはいえ私はプラス12年よ。それでも未成年だけど。こんなに簡単に…。

「ありがたく使わせていただきます…」

「うん。僕もこれ飾らせてもらうね」


 エルシー殿下はその場でガラス瓶に薔薇を入れてくれた。ブローチはまだ使う機会がないがいずれ使ってくれれば良い。ケースに入れてベッド脇のチェストに入れていた。ああ、あとベッド脇の椅子はチェストの反対側だ。



 これは…好きになる女続出かもな。一応王族、顔良し、誠実、純粋。理由は様々だろうがそのうち王都の上位貴族の方が相応しいのではないかと婚約者を下ろされそうだ。


「エリーゼ?どうしたの?顔色が悪いよ」

 どうやら私は将来的に婚約解消をされたくないらしい。

「ずっと婚約者でありたいと思っただけです」

「はい?」


 その反応、多分正常です。私でも多分そう言う。

「これから、体調が良くなったらエルシー殿下は社交に出なければいけなくなるでしょう。そうなると色々な家から婚約者を変えろと言われると思います。

 この国において、辺境伯は伯爵より上ですが王都に屋敷を持つ侯爵よりは下です。王族の婚約者は公爵家、侯爵家の順に選ばれます。そこで選ばれなかったらタウンハウスを持つ伯爵家。だから、身分が下でも婚約者でいたいと思ったのです」


「婚約は絶対に解消しない。社交にも出ない。王に命じられたら出ないとまずいかもだけど茶会にも出ない。学園に入学した後も必要最低限の交流しかしない。エリーゼ以外の女なんて要らない。僕の側にいて欲しいのはエリーゼだけだ。他はどうでもいい。婚約者を変えることはしない。絶対に。だからエリーゼはこれからも僕の側にいてくれたらいいよ」


 どうしよう。目が本気すぎる。これは、やばい。本当にキャパが。私恋愛経験とかないんだよ。お手柔らかにお願いしますよ。



「適度な距離感でお願いします」

「なんで?」

 ずいっと端正な顔が近づいてくる。こういうのだよ!


「顔が良すぎて命に関わります」

 見惚れて道路に飛び出すかもしれない。刺客に気付かないかもしれない。イケメンは命に関わるのだ。

「顔…は悪くはないと自負している。でもそんなことを言えばエリーゼも相当美少女だけど…」


 顔と中身が合っていないのです。美少女なのは自覚あります。前世、大ブームだった乙女ゲームに出てきても良いくらいのビジュだ。…………まさかね。そんな物語みたいなことあるわけない。ただでさえ別の世界に転生っていう普通じゃないことになってるのに。これ以上は混乱してわけわかんなくなる。



「家族が美形ですから。あ、今何か食べれそうですか?料理勉強してきたので簡単なものだったら作れますよ」

「使用人の用意した食材は使わないで。調味料も皿も水も。全部エリーゼが用意してくれるなら食べれそう。正直あれからご飯食べてなくてお腹空いてた。固形物が食べたい」

「想定の範囲内です。魔法使えばキッチンも用意できますし」


 私は床にマットを引いて土魔法で簡易的なキッチンを作った。勿論、不安だろうからエルシー殿下が見える範囲でやることにした。そして空間魔法というものがある。風魔法で精霊と契約したら使える。そこから食材や調味料を引っ張り出す。


 作るのは簡単なもの。おにぎり、生ハムのサラダ、卵焼き、味噌汁だ。漆塗りの食器を贅沢に使う。面白いくらい部屋の調度品に合わない。


 これも恐らく転生チート。あらゆるレシピが頭の中にあるし空間魔法で出せるアイテムの食材と調味料は日本にあったものだ。つまりこの世界よりグレードが高い。塩も味噌も油もだ。


「凄いな。魔法みたいだ。どんどん出来てく」

 ベッドから身を乗り出して私の作業風景を見学するエルシー殿下。初めてお母さんの料理を見た子供のように目をキラキラさせている。


 丁度良い感じに仕上がった味噌汁をお椀によそい、卵焼きとおにぎりと同じ皿に乗せる。始めはサラダも同じ皿に乗せようとしていたがやっぱり底が浅い皿に乗せた。日本食朝ごはんの出来上がりだ。私の好みでぶどうジュースもつける。それを2つ。私も一緒に食べる。和食なのにジュースなんかい、というコメントは一切受け付けない。


「美味しい…!こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてだよ。エリーゼは凄いな。こんなに美味しい料理が作れるんだね」




「ねえねえ、婚約者の兄にもあるよね?エリーゼちゃん」

 う…。この甘い声は。やはりシルス殿下…。

「あはは…!めっちゃ嫌そう。ほんと面白いね」

「で、あるの?俺達の分」


 シルス殿下に便乗してレイ殿下も言ってくる。後ろには第三王子のアクア殿下、第二王子のパトリック殿下も期待の籠った目で見ている。

「………作らせていただきます」


「シルス兄さん、婚約者との時間に決まって現れるのはなぜでしょうか。貴方達にも婚約者がいるでしょう」

 ほんとその通りだと思います。全面的に同意。


「ああ、そのことに関しては俺は平気だ。婚約破棄したからな。エルを殺してレイを自滅に追い込もうとした新興伯爵家のとの繋がりなどいらぬ。俺はもう騎士にでもなる」

「俺のとこもだ。侯爵家でもあんな藪医者の娘に価値などない」


 サラッと爆弾を落としたパトリック殿下。確かイモーズのとこの娘だったな。エルシー殿下って愛称エルなんだ。初めて知った。そして医者の娘と婚約したアクア殿下もか。


「とりあえず作るのでその辺座って待っててください。料理人ではないので出来に期待はしないでくださいね」

「楽しみだなぁ」

 シルス殿下って。意外とおしゃべりだな。感情もわかりやすく出すし。オンオフがはっきりしてる人なんだな。


「どうぞ。エルシー殿下に作ったものと同じです。次からは前もって言ってください。ちゃんと用意しますので」

「やったぁ。じゃ、いただきます」

 ぱくっ

「ん、美味いな。これは王宮より良い食材使ってるな。今までで一番美味い」

「ああ、それは同意する」

「うん。美味しいね」

「料理人泣かせだな」



 皆次々に感想を聞かせてくれる。そういえばシルス殿下16歳だからは今年学園卒業だな。卒業試験は良いのだろうか。


「僕頭良いよ。無駄に厳しい大人達が勉強やらせてきたから学園行かなくてもテストは点取れる。別に剣も勉強もそれなりが丁度いいのにさ。真面目が服を着て歩いてるようなアクアの方がいい」


 王族に生まれなくて良かったと心から思います。そしてシルス殿下、心を読まないで下さい。顔に出る私にも問題はありそうですが。




「エリーゼ、ん」

 手を引かれて振り向くとフォークに卵焼きを刺してこちらに差し出しているエルシー殿下が。これは…「あーん」の構図だな。私が兄組と話しているから嫉妬してくれたのだろうか。そうだったら嬉しいな。沼にハマりそうだ。気をつけないといずれ身を滅ぼしそう。


「ん…。美味しい」

「適度な甘さが丁度良いね」

 後ろから突き刺さる生温い視線が。恥ずかしいの極み。まあでも、兄組を見て勝ち誇った表情をしているエルシー殿下を見たら自然と「まあいいや」って思えてくる。

 不思議だ。もし平民落ちしても今のエルシー殿下となら心折れずに過ごせそう。前世合わせても今が凄く楽しいから。



今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(6歳)

・エルシー・ウォルフラン(9歳)

・レイ・ウォルフラン(9歳)

・シルス・ウォルフラン(16歳)

・アクア・ウォルフラン(13歳)

・パトリック・ウォルフラン(14歳)

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