2,生まれて初めての誕生日パーティーです2
なんということでしょう。たった今、エイ兄さまの魔法で貴族の部屋が水と緑が溢れる温室になったではありませんか。ファンタジーだとエルフとか住んでそう。
『へえ、自然系の精霊が好きそう』
ここで言われる自然系の精霊とは、水、緑、土、風だ。
「エイにいさますごい!」
こういうの凄い好き。幻想的っていうか、ヒーリングオーラが出てる。なぜか家具も自然に溶け込む仕様になってる。小さめのツリーハウスに見えるものはチェスト、大きなお花に見えるのはベッド、ソファーは蔓のハンモック。植物達が淡い光を放ち、電気の代わりに部屋を明るく照らしてくれている。
「よ、喜んでくれたなら良かった」
『おー精霊いっぱいいるな』
「「え!?」」
全員の声が被った。両親含め。
『うんうん。この辺。魔力量が多ければ見えるはずだよ』
「ん〜〜〜〜」
「あ!エイにいさま、ここにいます!」
「本当だ。こんなに小さいんだ。こんなに小さいのに俺よりもずっと力があるんだね」
エイ兄さまが光の玉のような精霊にそっと手を伸ばすと精霊はそれに応えるようにエイ兄さまの手に擦り寄った。エイ兄さまの頬も心なしか緩んでいる気がする。
「わっ」
ワンピースの袖がぐっと引かれて危うくエイ兄さまの作った池に墜落するところだった。危な。
『なまえがほしい。ぼく、いいこにする』
袖を引っ張った子は池にいたから恐らく水の精霊だろう。
「んー。マリンで!」
『マリン!ぼく、マリン!よろしくね!きみのなまえは?』
名前の由来は普通にマリンブルー。名前をつけると姿がはっきり見えるようになるのか。この子はどこからどう見てもイルカだ。
「私、エイーゼ!」
リだってばよ。なんでマリンが呼べて自分の名前言えないん。
「エリーゼだよ、マリン」
『エリーゼ!ぼく、れべるあがるとじょういせいれいからしんかするよ!』
ということは、最上位精霊になると。
「君の名前はカイト。俺の名前はエリオット」
『オレの名前は今日からカイトだ!よろしくな、エリオット!』
いつのまにかエイ兄さまは緑の精霊と契約していた。カイトは蛇だった。小型の、ヒバカリサイズだ(60センチくらい)。
「エリーゼ、エリオット、今日はエリーゼの誕生日パーティーの予定だったけれど急遽変更するわ」
「ああ、そうだな。エリーゼの誕生日と2人の初加護の祝いパーティーだ。エリーゼの部屋をどうするかは後で決めれば良い」
私的にはこれで良いのだが。
『あ、そうだ!このへやにピッタリのエリーゼのおようふくあげる!おたんじょうびなんでしょ!』
『じゃあオレからも』
2人がそう言った瞬間、私は妖精のようなワンピースに、エイ兄さまは前世のピーターなんとかのような服になった。
「あら、流石私達の子供ね。凄く似合っているわ」
「ああ、うちには天使が2人もいるようだ」
天使!早く私に鏡を見せて。早く自分の顔が見たいの。
生まれて一年、まだ自分の顔を見たことがありませんはい。
「おいで、リーゼ。朝ごはんの時間だ。終わったら魔法の訓練をしようね」
「あい!エイにいさま!」
手を繋いで歩くのは覚えている限りこれが初めてだ。歩調を私に合わせてくれている。できた4歳児だ。それとも貴族って皆こうなのか?エイ兄さまだけとか?
まあいいや。ご飯食べよ。
今日のメニューは野菜パウダー入り米粉パン、かき卵のスープ、デザートには苺とヨーグルトだ。ようやく離乳食から解放される。前世、米粉パンは結構高くて食べたことがなかったが今は貴族。望めば米粉パンくらいいくらでも食べられる。今世は米粉パンを満喫しよう。あと苺も。なんだかんだ高かったからね。
朝ごはんを食べ終わったら歯磨きをして魔法の訓練だ。魔法を上手くコントロールする訓練で、精霊達に手伝ってもらう。エイ兄さまが使える魔法は水と緑なので外でやる。私はイーゼ曰く、全属性使えるようだが今は風と水がメインだ。
『ではまず、ここに萎れている花があります。一番の基礎だね。この花を元気にして。あ、他に草を生やしたら失敗だからね。エリオットは制御の練習だ。それじゃ、カイトよろしく』
『任せろ』
エイ兄さまはカイトと一緒に制御の練習に入った。
『エリーゼはこっち。風の扱いは上手だから水の訓練にしよう。まずは実力を見たいんだよね。どの程度できるか見せて』
うーん。どんな風に表現しようか。あ、水車とかどうかな。滝とかも欲しい。高床の家も欲しい。造形か。土魔法、使えるよね?
「こっちいこ」
なるべく開けた場所を選んだ。表門の近くに花壇にもなっていない場所がある。何もない。芝生くらいしかない。
どんなのがいいかな。左には水車のついた高床の家、横向きの川を作って橋をかけよう。その向こう側に池。
「えいやっ!」
ドン、バーン、ドン!
って表現が合ってる気がする。一斉に土魔法が建物を形造り、地面が抉れて水を流す道ができる。その上には橋。池の部分もできた。あーあ。せっかく真っ白な屋敷なのに。全然見えないかも。あ、でもそれが逆に良いかな。あとはじゃあ水を流そう。
「ばしゃっ!」
なんか詠唱とかできたらかっこいいかもしれないけど私にはこれが精一杯です。
『おー。凄いな。アクア、もう出て来れるよ』
『やったー!エリーゼ、すごいね。ぼく、みずあるところしかいけない』
どうやらアクアは水がないと干からびるらしい。イルカって大変だなぁ。
『なあなあ、お前、俺と契約しない?魔力制御とか上手になるよ。どう?』
土魔法で作った橋からにゅっと出てきたのはベージュのイタチ。
『最上位精霊じゃん』
え、そうなん?あ、確かにイーゼは初めから大きかったわ。
「んーー。ガイ!」
『ガイね。それじゃ、これからよろしくな』
ガイは断崖絶壁みたいなかんじで。崖じゃないけど。
『じゃあ4人で訓練するか。2人とも良いだろう?』
ガイの確認に私達は全会一致で頷いたのだった。
「う〜〜〜〜」
3時におやつを食べた後も夜ご飯で呼ばれるまで私はぶっ続けで魔法を使った。それはエイ兄さまも同じだったようだ。2人してソファーでグデっとしていた。貴族が晒して良い格好でないことは確かだ。
両親は完全に呆れている。でも私はいつのまにか魔力回復の能力を手に入れていたようだ。魔力回復はその名の通り、魔力が枯渇しないようにする魔法で光属性だ。まだ光の精霊とは会ったことがないがイーゼ曰く全属性なので魔法自体は使えるのだ。
「エリオット、エリーゼ、こっちにおいで」
「母上」
「母さま」
カタンと扉が開き、母さまが入ってきた。相変わらずの美貌だ。私とエイ兄さまは迷わずその胸に飛び込んだ。エイ兄さまは大人びているが4歳。まだまだ甘えたい盛りなのだ。
コンコンコン
「奥様、お夕食の準備が終わりましたので食堂の方へお越し下さい」
「ありがとう、マーヤ。それじゃあ、行きましょうか」
マーヤとはうちの母さま付き侍女のことだ。魔力は無属性。ゴーレムマスターだ。何度か見たことがあるらしいエイ兄さまは「かわいかった」と言っていた。今度見せてもらおう。
私、母さま、エイ兄さまの配置で広い廊下を進む。カッコつけないで素直に甘えられるエイ兄さま凄いと思う。物語に出てくるような貴族の子息って4歳でも多少紳士ぶったりとカッコつけるよね。珍しいのかな。それともこの世界では普通なのかな。まあいいや。
私は今日誕生日だ。誕生日ケーキがある。人生初の誕生日ケーキ。メインのご飯を食べた後出てきたのは苺をふんだんに使われたショートケーキだった。めっちゃ甘そう。
「リーゼ、お誕生日おめでとう」
「エリーゼ、生まれてきてくれて嬉しいわ」
「私達の自慢の娘だ」
「おめでとうございます、お嬢様」
家族や使用人の皆に囲まれて感極まって泣きそうになったがぐっと堪える。
「あいがとうごじゃいます!」
んぐ…噛んだ。全員が吹き出したのがわかった。「ありがとうございます」で噛んだことなかったから。もう何でこういう時に噛むかなぁ。
「食べて良いよ」
プルプルしてる私を見かねてエイ兄さまがフォローを入れてくれた。
ぱくっ
あれ、あんま甘くない。ああそうか。一歳児って消化機器がまだ出来上がってないのか。それなら生クリームとかは使えないや。
「おいしい」
料理長は胸を撫で下ろし、家族には頭を撫でられる。
「そうだわ、私エリーゼにお誕生日プレゼントを用意したのよ」
ケーキを食べ終わった後、母さまに言われた。
「俺も用意した」
「そんなことを言ったら私もだ」
「わ、私達もお嬢様に…!」
誕生日プレゼントなんて、初めて貰うな。こんなに楽しみなんだ。
母さまからは綺麗な手鏡を貰った。白を基調として緑や金の装飾がされている。後ろにはペガサスの彫刻がしてある。これは、オーダーメイドというやつだろうか。お金かけられてそう。
父さまからは分厚い本。様々な魔法についてのことが記されているが、廃版になっていたものだそう。この世界において紙は貴重なので相当散財しただろう。
そしてエイ兄さま。エイ兄さまからのプレゼントは手作りのスノードームだった。4歳が作ったとは思えないほど綺麗な形だった。使っている材料もそこまで値のはるものではない。
使用人の皆からは新しく毛布を貰った。無地に皆で刺繍をしてくれたようだ。少し歪なところもあるがそれでも嬉しいことに変わりはない。こちらの値段もそこまで高くない。
つまり、私に高額課金しているのは両親だ。エイ兄さまと使用人は微課金といったところか。
初めての誕生日。今日は転生して初めての特別な日だ。
今回の登場人物
・エリーゼ・ガーナメント(1歳)
・エリオット・ガーナメント(4歳)
・両親
・マーヤ
・イーゼ(風の最上位精霊)
・マリン(水の上位精霊)
・ガイ(土の最上位精霊)
・カイト(緑の上位精霊)