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10,辺境伯を継ぐ者として


 エリーゼ・ガーナメント、10歳。ただ今ピンチです。


 剣が大分上達したので騎士団に連れて行かれ、丁度良いところにいたとパトリック様と手合わせをすることになりましたはい。無理です。怖い。怖すぎる。



 いや可愛いところもあるよ。あるけども!剣の実力を知っているから怖いのよ。エイ兄さまの剣が吹っ飛ばされるのを目の前で見たから!


 冷や汗ダラダラの私と、今日は好きな人がいるそうで上機嫌のパトリック様。私達の身長差は軽く50はあるだろう。



「好きな人には良いところ見せたいから。手加減はしないぞ」

「は、はいぃ」



 スイッチ入ってるなこれ。今日レイ様、エルシー、エイ兄さまの3人は学園。アクア様は仕事、シルス様は立太するそうなのでその準備。私がどんな醜態を晒しても、見るのはパトリック様だけだ。よし、覚悟を決めよう。



 パトリック様が訓練場の真ん中まで行くと周りで訓練していた人達は一斉に掃けた。パトリック様の目力で。

 え、今18だよね。こんな怖がられてるの?

 でもパトリック様なら「怖がらせてるのではない。彼方が勝手に怖がっているんだ」とか言いそう。そういうところちょっと天然入ってる気がする。


「「よろしくおねがいします」」


 礼をして剣を構える。

 最近では剣を構えた瞬間、相手の粗がよく見えるようになった。剣を振る時に弱点になりがちな部分だ。


 しかし全然見えない。いや、あるにはあるがそこを狙いにいくと恐らく返り討ちに遭うので却下で。


 自我は邪魔なので私の中にあるスイッチをポチっとする。少女エリーゼとしての自我を一時的に忘れる代わり、戦闘員としての本当の力を発揮する。自我がなくなるから少し危険、かな。


 地面を蹴る音がよく聞こえる。仕掛けてくる攻撃は重いけど受け止められない程ではない。そして今の体は羽が生えているのではないかと錯覚するくらい軽い。



 パトリック様もフワフワする敵と戦ったことはないのか普段より息が切れるのが早い。それでも私に攻撃は当てられるから凄い。だが、今の私には感覚がないので疲れも感じないし痛みも感じない。まあそれが1番便利で危険なのだが。


 体力的には感覚のない私の方が有利だった。でも、勝てなかった。数時間戦い続けてついに地面にねじ伏せられた。




「負けたぁ〜!」

「お前これで10歳かよ」

「私スイッチ入るとちょっと強くなるタイプなんです」



 強くなる、ではない。ちょっと強くなる、だ。強くなったなら負けるはずない。

「エリーゼ、今度ピザな」

「はい、私が負けたのですからこのくらい作りますよ」


 今度は小麦粉で。トッピングは何にしよう。やっぱり定番でいくか。攻めたの出して気に入らなかったらそれは無駄になっちゃうから。


 お肉乗せとかチーズに蜂蜜とか定番のマルゲリとか。考えるだけでもうお腹空いてくる。


「何でお前が食うみたいな流れになってんだよ」

「わかってますよ。パトリック様個人宛のお昼ご飯にでも入れますから。そのうち食べたいなぁって思っただけですから」


「なら良い。あと騎士団長は強いから怪我には気を付けろよ」

「善処します」

「後先考えずに突っ込むと負けるからな」

「はい」



 この国は精霊と竜がいる限り人間同士の戦争は起きないのになぜ辺境伯=戦闘員みたいになるんだろ。心理的にいた方が安心できるってのもまあわからんでもないけど。


 騎士団は魔物と戦うことが多かったが今はほぼそういうのは冒険者がやっているので戦闘員というより警察だな。


 それなら辺境伯だってと思ったりもするがそういうものでもないのだろう。



「リーゼ」

「エルシー!どうしてここに?」

「エリに聞いたんだ。本人は引き継いだばかりの領地のことがあって来てないけどね」



 ああ…エイ兄さまも大変そう。今度差し入れ持って行こ。

「あ、今日のお弁当も美味しかったよ。ありがとう」

「良かった。初めて作るものだったからちょっと心配してたの」


 今回炒飯と一緒に入れた春巻きなどまだ作ったことなかった。ぶっつけ本番。


「そうだったんだね。凄く美味しかったよ。レイのエビフライと1つずつ交換したんだ。レイも美味しいって言ってたよ」



 双子で交換…見てみたかったな。これからも2つずつ入れよう。あとはレイ様のお弁当は毎回色々な味でゼリーを入れていてエルシーのに入れているパウンドケーキとあわせて2人で食べている、と。

 可愛いかよ。私も何か食べたい。今すぐ。お腹空いた。



「豚汁食べたい…」

「とん…え?何それ」


 エルシーの言葉で漸く私は願望が丸出しだったと気付いた。今日は大分頑張ったから。

「美味しいよ。明日の夜のお弁当に作るね」

「ありがと。楽しみにしてる」


 もう季節は夏だが豚汁はいつ食べても美味しいから問題なし。

「リーゼはもう帰るの?」

「うん。アクア様のところに行ってシルス様分の夜ご飯まで預けたら帰ろうと思ってるよ。あとはエイ兄さまのところにも行かないと」



「じゃあ一緒に行っても良い?帰りは送るよ」

 ありがとう。じゃあ行こ。パトリック様、今日はありがとうございました。次はあと1時間は粘ります」

「え、一生負けたくないんだけど」


 私の宣誓に顔を顰めたパトリック様。その後ろから線の細い男性が顔を見せた。


 パトリック様は18歳と若いが彼も大分若そうだ。私の瞳より少し暗い金色の髪にホワイトダイヤモンドのような透き通る白い瞳。美形に囲まれて暮らして来た私でもわかる美貌を持っている。


 私の視線に気付いたのだろう。彼は丁寧に、私に挨拶をしてくれた。

「初めまして、エリーゼ様。イヴァン・アルスフィールドと申します。アルスフィールド侯爵家の三男でパトリック様と同じく第2騎士団の副団長をしています」


 副団長は基本1つの団に2人いるがそれがこの2人か。副団長カップル。


「初めまして、イヴァン様。ガーナメント辺境伯長女のエリーゼ・ガーナメントです」

 なぜ私の名前を知っていたかなど言うまでもなくパトリック様だろう。別に嫌な気はせんが。


 私達は握手を交わし、そこで別れた。

 明日の昼ご飯はカツ丼かな。



 剣術訓練のことはまあ忘れよう。今だけは。また明日真面目にやるから。



今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(10歳)

・パトリック・ウォルフラン(18歳)

・エルシー・ウォルフラン(13歳)

・イヴァン・アルスフィールド(20歳)

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