第58回 現在のAIはコペルニクスやニュートンを超えられるかについて、面白い論文を紹介してみた。
まえがきは割愛させていただきます。
本編が短いので、本編のみでお楽しみください。
●’25/8/25(月)
以前、このコラムでも是非読んで(見て)欲しいと紹介した「チ。-地球の運動について-」。
天動説が当たり前だった中世時代で、地動説を証明しようとする知の探求者たちの話である。
15世紀ではキリスト教が天動説を支持。
そのため、地動説は異端とされ、これを研究していることが明るみとなると拷問に掛けられる。
それでも、探求者たちは命を掛けて地動説を完成させようとする。
その姿がアツいのである。
探求者たちは星の動きを懸命に観察し、その座標から新しい理論を打ち立て、軌道計算式を求めようとするのだ。
そして、実際の世界でもガリレオ・ガリレイが金星などの満ち欠けにより天動説を否定し、コペルニクスが地動説の軌道計算を求め、ケプラーが楕円軌道であることを突き止め、そしてニュートンがついに万有引力を発見した。
あの時代、インターネットは当たり前に存在せず、電気もなく、本もほとんどなく(途中からやっと活版印刷が出始める)、先生や周囲がみんな天動説が正しいという時代にいたなら、私は間違いなく天動説を信じて、地動説とかいうヤバイ思想は信じられなかっただろうと思う。
そこから考えると、上記の人たちは本当にとんでもない偉人たちである。
そして、現在。
インターネットには星の情報が溢れ、数学も15世紀に比べると驚くほど進歩している。
そして、ついにある意味では人を超えたAIが出てきている。
それに対して、7月9日、ある論文が報告された。
”What has a Foundation Model Found? Using Inductive Bias to Probe for World Models”
(基礎モデルが何を探しだしたか?帰納的バイアスを用いた世界モデルの評価)
これはハーバード大学とMITのAI研究チームによる論文である。
研究の内容は”AIは本当の意味で世界を理解できているのか?”というもの。
で、この研究は具体的に何をしているかというと、上記偉人たちと同じように、各惑星の動きに関するデータをAIに与え、惑星の軌道計算式やそこから導きだすことのできる力学式をAIに作らせ、AIが正しく世界を理解しているかを判断するというものである。
帰納的バイアスプローブというのは、この研究チームが開発した”本当の意味で世界のルールを理解したか?”を評価するための枠組みだが、説明がかなり難しいので、今回はちょっと割愛する。
結果としては、惑星の動きを与えられたAIは、惑星の軌道予測に関して、99.99%以上の精度で、未来の位置予測が出来たとのこと。
ところが、そこから求められた力学の式は、言葉通り、全く理にかなっていないものとなったと報告されている。
以下の図が現在の力学で示される力 (ベクトル)とAIによる予測された力 (ベクトル)の図と力学式である。
<地球にかかる力(左 : 現在の力学、右 : AIにより予測された力)>
<地球にかかる力学式(上 : 現在の力学、下 : AIにより予測された力学式)>
これを見ると”世界のルールを本当の意味で理解しているか?”という点において、難しい帰納的バイアスプローブを使わずとも理解できると思う。
答えは否である。
というか、このAIが導きだした力学式で99.99%が出せるのか?ちょっと疑問ではある。
ただ、与えたデータの詳細がなかったため、今回はそこを検証することができなかったので、そこはとりあえず置いておくとする。
ここからは私の勝手な解釈であるが、(この結果が本当なら)これで分かるのは、人間の脳は、細かく、恐ろしいほど非常に多くのパターン解析だけを行っている訳ではなさそうだ、ということである。
頭の中の思考方法を考えると、むしろパターン解析はそこそこに、ある事象とある事象で探し出せるルールを構築。
これを別の事象にも当てはめて、そのルールが正しいか検証。
さらに別の事象同士でのルール構築。その検証。
そして、ルール同士の統合。
様々な事象を結びつけ、1つのルールを見つけ出すという機能。
AIにはどうもこのルールの統合という観点が抜けているような気がする。
そして、もう1つ。シンプルさを求める点。
と、まあ、言葉では簡単だが、このシンプルさの追求には、実は以前書いた欲求関数が隠れているようにも思う。
「チ。-地球の運動について-」にもあるが、”この理論を美しいと思ってしまう!”というやつだ。
それを考えると、やはり現状のAIの先にAGIは出来ない理由にも見える。
AIやGPUの会社の上層部はもう今年や来年にもAGIが出来ると言っているが、なかなかまだまだ難しそう、先のことだなとこの論文を読んで思った次第である。
だが、よくよく考えるとこうも思えてくる。
”実はこのAIの答えが正しくて、今の世界は間違っていたりして。。。”
これも私の中に眠る破壊欲求なのだろうか?(笑)
ただ、残念ながら、これだけの精度でいろんなことが理解されている世の中において、全てが嘘でした!はないんだろうなと思う。
そして、この思考の構造を考えると、実は現在のGPU、つまり小さいコアが集積して、パターン解析を恐ろしい速度で行うシステムではAGIはできないのかもしれないとも思ったりもする。
とにもかくにも、個人的には核融合技術とこのAI技術が完成して、はやくベーシックインカム時代が来て欲しいなと思っているが、皆さんはどうであろうか。
あとがきは割愛させていただきます。
読んでいただき、誠にありがとうございました。