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7話

そうして扉が開き、全員が後ろを向くと……悲鳴が重なる。

黄色い悲鳴、アドラーと。

絶叫の、フランシミアことわたしだ。


「イケメンktkrーーー!!!!」


「てめえええええ??!!!!!」


わたしの叫びに何?とロンフェイとユングは変な目で見てくる。

揺れる黒い髪に、赤い瞳。ぴょんと大きめの猫耳に、髪と同じく揺れるしっぽ。

前とは違って王冠は付けていないが、教師のような硬い格好をして、教壇にソレは登った。


「僕はルオン。彼の言った通り、今日から無属性学科の非常勤講師をやらせてもらう。創造魔法も次元魔法も、……なんなら全属性……、コホン、まあ、……強いて言えば次元魔法だ」


「あ、あ、……あんたっ!!」


「……あぁ、……僕のミア。どうしてそんなに、怒っているんだ?」


指を指せば、教師だと名乗るルオンはニタリといやらしい笑みを浮かべてこちらを見る。


「あんなことされて怒らないと思ってるの?!わたしを散々愚弄した上逃げたくせにっ!」


「愚弄?楽しい戯れだったじゃないか。それに、逃げたのではなく……満足したから帰った。ただ、それだけだ」


「えっ、えっ……ミアたん?まさかこの超絶イケメンとお尻…じゃなかった。お知り合い?」


困惑する全員の気持ちをアドラーが代弁する。

わたしはおもわず声を上げた。


「どこが超絶イケメンだって?!このゴミクズ最低カス野郎に!!」


「ミア……」


ルオンはあのいやらしい笑みのまま近づいてきて、席に座るわたしを見下ろす。

2メートル超えの、デカい男が。

鞭のように見えてしまう小型の杖をわたしの顎に突きつけ、面を上げさせる。


「僕に対してそのような口は、中々面白いものだ。……しかし、そのような狼藉を働いたからには、少々罰を与える必要があろう」


罰、という言葉に場が凍るとわたしはルオンに引っ張られて無理やり壇上に上がらされる。


「手慣らしだ。お前の魔法を見せてみろ。お前の切り札となる、強い魔法を…だ」


「ミアちん、……俺、要る?」


わたしにとっての強い技と言えば、ロンフェイを使った魔法が多い。雷龍の力を元に、得意属性である雷属性の魔法のポテンシャルを大幅に上昇し、発動する高難易度の雷魔法だ。

繊細なコントロールを行い糸状に張り巡らされた電線と、空気中に電磁波を放つことによって形成する魔法領域によって行われる要塞"バチバチパニックラビリンス"が、実質的なわたしの切り札だ。

しかし。


「何他の男と浮気しようとしている?お前一人で出せ。協力など、この僕の前では許さん」


「ええーーっ?!ロンフェイがいないと切り札出せないのに!」


「そりゃそうだ、フランシミアとロンフェイのバディは本当に強いからな。2人の命名センスがアレでさえ無ければ」


「"バチバチパニックラビリンス"も……"地震雷火事おバチ"もネーミングセンス最悪なんだよ…」


「へへへ〜、アドちん評論家が言うキングオブネーミングは"ライトニングイナズマサンダース"ですねぇ〜、頭痛が痛くてペインくらいキラっててアドちんは好きですよお」


ルオンに否定された挙句何故か周りからめちゃくちゃ貶されている気がする。


「ちょっと!ミアちんと俺の名前をバカにしないでよ!かっこいいじゃん"ライトニングイナズマサンダース"も!俺のお気に入りは"春雷・暁ノ太刀"だけど」


「それ言わなかったの、多分そこら辺は比較的マシな方だったからだと思うぞ」


「比較的マシって何?!あんた達には分からないでしょわたしの感性が!!」


そういってぎゃあぎゃあ争っているとローウェンから制止の声が入る。


「フランシミア!ルオン先生はお前の実力を測ろうとしているんだ。言い争いをしていないでさっさと出せ!」


それで辺りはしんと静かになり、仕方なくわたしはJtoBを取り出そうとすると……辞めた。

ルオンはJtoBを使うわたしを見ているはず。つまり、それを出そうが彼にとっては嘲笑ものに過ぎないだろうから。

ただし他の魔法を出せるアーティファクトは全部家だ。

つまるところ……。


わたしは素手で構える。

魔法とは、体内の生命エネルギーである魔力を使い、無から有を生み出すことである。

魔法には2種類有り、イメージによりその魔法の形を操作できる無属性魔法と、自然の摂理、ルールを魔法式として法則化し発動させる有属性魔法がある。

その無属性の中でも事象改変や時空に干渉できる実体のない魔法が次元魔法であり、イメージも形も法則も、何もかも一から作り出して行うのが創造魔法だ。

だからJtoBは創造魔法に値するアーティファクトだし、JtoBで生み出す魔法には有属性魔法のようなものも含まれる。

だから無属性魔法は"稀"であり"特別"なのだ。

……同時に、無属性魔法は世界の摂理に反するといって、反対する団体もあったりするのだが。

そして魔法はもうひとつルールが存在する。それは、基本的に魔法は杖か魔法書を使うということだ。

魔法書は詠唱を破棄する代わりに書に書かれた魔法のみが発動でき、杖は詠唱する代わりに様々な種類の魔法を発動でき、そして杖や魔法書は魔力の増幅機構が搭載されているため体内のみで発揮する魔法より増幅される。

素手で魔法を発動することは、剣を持つ相手に木の棒で挑むのと同じこと。

魔法書無しに無詠唱で発動することも、素手で杖や魔法書と同等の、いやそれ以上の魔法を使うことは神の領域にしか不可能だ。


しかし、わたしが敢えて素手を出したのは……杖や魔法書だと制御しきれないからだ。

天使に力に借りているフォルフォニアが、人の器には見合わない力が使えることを伏せるために杖のように見えるただの棒を使ってるのと同じように、わたしのこの魔法もまだ練習、構築段階で下手すると"やばい"ことになるからあえて素手を選んだ。

有属性魔法とは違って、無属性…とくに創造魔法にはあるべきルールや規則が存在しない。

詠唱も全て考え、自分でルールを決めていかなければならないのだ。

イメージが偏るため1回きりなんてことも、しばしばありうる。だからこそ、安定して魔法を発動させるため無属性学科の授業のうち創造魔法に値する授業は魔法を制作し発動テスト、安定化と効率化のためブラッシュアップを行うのだ。


「来たれ黎明の詩。死の狩人は闇より深く、黒より黒く。」


創造魔法を使うわたしは、不思議と次元魔法もそれなりに出来た。

故に、わたしは創造魔法をもって次元魔法を操作し制御する、融合魔法を探っていたのだ。

その魔法のひとつが、これになる。


「聖なる宇宙に光は在るが、闇は蔓延り、破壊と再生は繰り返される。その歴史を今現像し、我ら脆弱なる人の身に宿そう……"ゼロ・コスモ"!」


詠唱が完了した瞬間、景色がぐにゃりと歪む。

宇宙に銀河が連なり、星のような惑星たちは生まれ育ち爆発を繰り返し、宇宙は膨張していく。

そこから生み出されしダークエネルギーは、ブラックホールとなって現れた。


「ミアちん成功!さすが、伊達に殺ること殺ってるだけあるねぇ。こりゃ将来も安泰…って言いたいんだけど素性がね…」


「まだだよロンフェイ…!重ねに重ねて、ぶちかますんだから!」


そうして生み出されたダークエネルギーを掴み、わたしは再び詠唱を始めた。


「世界は薄い紙のように重なり、幾つもの可能性と、幾つもの並行されし次元が存在する」


その言葉に、ルオンは目を見開いてわたしを見た。

並行世界は、人類の数学ではまだ未定のままだが、創造を元にする魔法の中では本当にあろうがなかろうが、明確にイメージ出来ればそれでいいのだ。

彼はどちら派なのかわからないが…おそらくその辺になにかこだわりがあるのだろう。


「果てなき宇宙もプログラムのひとつに過ぎず、0と1の傲慢が我らの世界を意のままに操る」


こんなことをだらだら言ってると、思想の強いやつにはっ倒されそうだ。はっ倒される前に殺すけど。


「なればその力、扱うに値するだろう!"アンチノミー・プロトコル"!!」


ダークエネルギーは変容し、教室内を大きく包み込む。

この地下空間にはあらゆる事象改変を外に漏らさない強い結界が貼られているため、素手という縛りをつけて出したに過ぎないわたしの魔法も外には影響しない。そうして生み出されたのは…目の前に大きく浮かぶ、モニターだ。


「……これは……」


誤字・脱字の指摘は何時でも受け付けております。大体の回が成人向け本編からそのまま引っ張っている都合上こっちで誤字を治すと向こうでも誤字が治るので二倍お得です。つまり達成感が二倍です。

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