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23話


_______


「怪盗!……天才テレサ様!誕生、なのです!」


キラキラと輝く目で青と黒が基調の怪盗服らしきものを着てテレサはドヤ顔でポーズを決めていた。そういえば怪盗ルメーヌの服が黒と青だったはず。

そして巻き込まれたわたし達も怪盗の服を着せられ、わたしは黒とピンク、ルオンは黒と赤、アダムは黒と紫という風に別れていた。

眉目秀麗の権化とも言えるルオンは当たり前のように怪盗服を着こなしており、ルオンならその顔面で女の心を専門で奪う怪盗になってそうだ。


「ルオンは何人くらいの女の心を奪えそう?」


「奪うと言うより勝手に入ってこようとするが正解だろう」


「肉食森林じゃないんだ」


「酒池肉林」


「そうそれ!」


スヴェーリェの夜中は道を選んでいるのもあってわたし達以外の人影は全くない。

雪も止みたくさんの星とそれよりずっと大きな満月が暗い夜空を覆う。

向かうのは当然ウプサラの神殿だが、前回来た時とは変わって今度は裏口からだ。


「アダム、アダム、ここを夜に入るのも裏から入るのもはじめてなのです。私、実は結構ドキドキしてるのです」


「俺もまあ〜……刑務所は嫌だなーって思ってたりするよ?」


潜入する為と言ってライトや杖代わりになるアーティファクトを持ちつつ、アダム本人に戦闘能力は本当にないようで不安げに空を仰ぐ。


「大丈夫だよアダム。見つかったらさくっと殺ればいいから」


わたしがそう言ってもアダムは安心せず、ルオンが無言で先にさくさくと進むとアダムはその不安を押し殺して先に進むしかなくなった。

人でごった返していた喧騒から一転、静寂に包まれるウプサラの神殿の門の裏側に着くとルオンは早速といってか手を翳す。

しかし特に変化はなく、ルオンはその手を上に向けるとパチンと鳴らした。


「わっ…!」


瞬間、わたし達四人は転移されウプサラの神殿のロビーに立っていた。

夜の神殿は昼よりもずっと威厳があり、月明かりで透けたステンドグラスの色は独特の神聖な雰囲気を強調させている。


「凄い……綺麗…」


オーロラに興味がなかったわたしもこの神殿の美しさは見逃せず、どうせ忍び込んでいるからとポールが置かれた先の壁にも少し触れてみる。

アダムとテレサも突っ立ったまま圧倒され、言葉を失っている中ルオンは一方向をじっと見つめていた。


「……ふむ」


「あ、……見つかりそうなの?」


「いや、……少々面倒だな」


「面倒?」


ルオンは此方に転移し数秒間わたしのことを見つめたあと、わたしの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「えっ、えっ…?」


「ミア、……お前は楽しく終わるのとつまらなく終わる事、どちらがいい?」


「そりゃ……楽しいこと、だけど…」


「分かった。では行くぞ」


惚けているアダムとテレサに向かってもそう声をかけると、二人は慌てて此方に近付き夜の神殿の探索が始まった。

ルオンは見つけた像に手を翳し魔力を注ぐが特に反応はなく、ルオンもそれに対しての反応は全くしない。


「ミア。僕もお前と同じ気持ちだ」


ある区画に入る前、ルオンは立ち止まると振り返ることも無く話し始める。


「僕だってつまらないより楽しい方がいい。簡単よりも少し難しく、潤滑に進むより少し軋んでいた方が良い。効率だけを求めてただ結果だけを求めるならば、人である意味がないからな」


わたしの視界から見えるのはルオンの大きな背中だけだ。

黒く長い髪が風もなくだらりと垂れ、暗い室内故にそれはまるで純黒のように他のどんな色も通さない。

誰かと居る時も孤独を感じさせるルオンが求めるのは、富でも栄誉でもこの世界の全てでもなく、隣に立ってくれる誰かなのかもしれない。


「ミア、お前もこう思っているだろう?人たるもの、楽しむ事を忘れるなと」


「まあ、わたしに効率とか規則とか求めるの一番お門違いだからね」


「あぁ」


そういえば、ロンフェイが全然話しかけてこない。

近況報告のひとつでも入れてくると思ったのに意外だ。


『ミアちん』


『あ、やっと喋った』


『俺よりルオン様と居る方が楽しいの?』


『え?だからー、ピース集めの為だって言ったでしょー?楽しい楽しくないじゃなくさぁ』


『全然分かってない……、……ルオンの恐ろしさをミアちんはまだ知らないだけだよ』


『はぁ?もうだいぶ知った方だけど…キモイ所とか』


またゆったりと歩き出したルオンを凝視するも、やはり恐ろしさという奴は一切理解出来ない。

ルオンは眠れる獅子に過ぎないし、彼は自分から起きようとすることは全くない。

魔王族でありながら弱く人らしくあることを選んでいるルオンは、怒ったところも悲しんだところも見たことはなく喜怒哀楽の喜と楽だけで出来ているような男であると言った方がまだわかる。


『はぁー……本当にわかってないな。ミアちん、四国戦争ってさすがに分かるよね?』


それは初等部の歴史ですら習うとても簡単で、誰でも知っているような用語だ。

その戦争における四国はサルデーニャ、スヴェーリェ、オスマン、ポルスカを示しており、暦が星歴にかわる直前、1680年頃から始まったとされる戦争だ。

きっかけはオスマンの姫が何者かによって殺されたことだった。

痕跡もなく音もなく、朝侍女が入ると姫がズタズタに裂かれて死んでいたという不審死なのだが当時ポルスカと恐慌状態だったオスマンはこれをポルスカの仕業だと言って宣戦布告をしたのだ。

オスマンは今は亡き国なものの、全盛期は同じく武力に優れる独裁政権国家のラプテンにも引け目を取らないと言われていた。

しかし、その時のオスマンは軍力が衰退しており経済状況が悪化していたのだ。

そんな状態でオスマンが宣戦布告をしたのはポルスカを手に入れることによって国内を建て直すためであり、それに怯えたポルスカはスヴェーリェとサルデーニャを味方につけるがオスマンは周りの国がいくら降伏しろと言っても降伏せず、15年も戦争を続けてしまう。

その結果、オスマンの国内状況は更に悪化し最終的には降伏を認めず戦わせ続けていた将軍が戦いに疲れ果てた兵士によって闇討ちされることによって終幕を迎えた、西暦史上最低の戦争とも呼ばれているものだが、どうしてロンフェイは突然この話題を?


『四国戦争のきっかけは、オスマンの姫が殺されたことだよね。……殺したのはルオンだよ』


『えっ?!……なんで?オスマンを滅ぼしたかったから?』


『そんな事、奴はしない。……気に入らなかったからだよ。勝手に誘拐した上夜伽相手に気に入らなかったから、癇癪を起こして八つ裂きにしたんだ』


『……は?』


『ルオンが起こした癇癪が関係ない人を巻き込んで四国戦争を起こしたんだ。……神王様に責められてもルオンは知らん振り、何も反省せず。……そういう男なんだよ、ルオンは』


ルオンは確かに勝手に夜伽相手を決めて誘拐しそうなのは分かるが、それで気に入らないからと言って癇癪を起こす男なのだろうか?それで、八つ裂きにするような男なのか?

わたしの知っているルオンの範囲内では、ルオンは気に入らなければ逆に女を置いたまま帰りそうな程だけど。

ルオンが理性を失い怒り狂って女を八つ裂きにし四国戦争を引き起こすような者にはとても見えないため、わたしはモヤモヤとロンフェイの言っていることが本当なのか嘘なのか分からなくなった。


『でも、ルオンは……』


「なっ!」


そこで聞き覚えのない声が聞こえ、わたしは体に急ブレーキをかけ立ち止まる。

そこに居たのは真っ黒い服を着た男が十数人。その場所は神殿の宝物を展示するスペースで、今まさにガラスケースからレーヴァテインの本物だか複製品だかが取り出されている所だった。


「えっ、あれって……まさか…」


「ど、ど、泥棒……なのですっ?!」


テレサの余りにも大袈裟に驚く姿に逆にわたしは冷静さを取り戻すと、一つツッコミを入れて呼吸を整える。


「いやわたし達も怪盗だから泥棒みたいなものだよ?」


「ミア、……面白くなりそうだろう?」


「あーあ、分かったよルオン……あんたこれ分かってたのにわざとしらばっくれてたってことでしょ?」


「そうだ。しかし、楽しみはこれからだ」


ルオンはカツンとヒールの高い靴を鳴らし、廊下に音を響かせる。

すると、まるで図ったかのように懐中電灯の明かりがバッと照らされわたし達と泥棒を照らした。

その者の服は前回来た時に見覚えがある、スヴェーリェの国旗とオーディンをイメージしたロゴが胸元に装飾されたものだ。


「何をしている!」


つまり、一言で言うとスタッフだ。


「三つ巴だな、ミア」


「それはさぁ……楽しいじゃなくて大問題なのーーッ!!」



_______前言撤回。確かにルオンなら四国戦争くらい起こしそうだ。

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