6話
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「ちょっとミアちん〜、それ俺のパイナップルでしょ?!」
「え?知らない〜、あ、このトマトあげる」
「嫌いだからって俺に押し付けないでよ!」
ロンフェイの頼んだ栄華定食の酢豚からひたすらパイナップルを奪い、代わりにわたしのUSU定食のサラダのトマトをひたすらロンフェイの皿へ押し込む。
「え、だってあんたトマト好きでしょ?」
「奪った上で押し付けるのは話が違うんだけど〜??」
今のロンフェイは雷龍というのに、龍の王が聞いて泣く無様さだ。
たしか龍王がいて、その側近として炎龍、水龍、風龍、雷龍がいる。
つまり龍王の次に偉い存在なはずなのだが……。
「ちょっとユンくん!此奴に何か言ってやってよ!」
「え、ダルい」
「ユンくん俺の事裏切るわけ?!あれだけ仲良くしてたのに!」
そう言ってロンフェイのヘイトがユングに逸れて言ったのを見るとわたしは改めてUSU定食に向き合いTボーンステーキやマッシュポテトを食べる。
周りがぎゃあぎゃあと言い争っているのを知らん顔で舌に意識を集中させていると、瞬間にゾクリと強い気配を感じる。
生温い視線…いや情欲?分からない、とにかく、とにかく異様で、なのに威圧的で……。
しかし、直ぐにその気配は収まりわたしは安堵のため息を着く。
(まさか、ロンフェイがヤバいって言ってたのってこれのこと?)
と思いながら見渡すも、わたし以外に誰も怖気付いてなどいなかった。
しかし、ロンフェイはわたしと目を合わせると……。
「ね、言ったでしょ」
と言ってウインクしてくる。いやうざいが。
食事を終えると、各々は休み時間を過ごし始める。
ユングはアレでも授業を結構真面目に受けてる奴なので勉強しに図書室へ。
アドラーは新しい少女漫画を読むために、同じく図書室へ。
ロンフェイは日向ぼっこをすると生活のクオリティが上がるとか言って学校の敷地内にある芝生へ。
わたしはというと……
「やっほ、ニア」
白魔法学科の大きな校舎の近く、いつもの通り木陰で食事を取っていたらしいフォルフォニアに話しかける。
「あ……」
風に消えていくような臆病な声がフォルフォニアから上がる。
彼女は白い猫を撫でており、にゃあとその猫が鳴くと彼女も優しそうに笑った。
そうそう、猫はこうでなくっちゃ。猫亜人は良くない。特にルオンって名前の男は。
なんて思いながらその白い猫を撫でようとすると、するりと避ける。
「なっ…!」
「わ、……えと、…この子はフランシミア。わたしの、お姉ちゃんなの……だから、怖くないよ。…やっぱり、ちょっと…怖いかもしれないけど…」
おどおどとフォルフォニアがそう言うと、白い猫は観念したのかわたしに撫でさせてくれた。
もふもふでふわふわで…短毛だが埋め込み力抜群。腹も触れるし、顎の下までしっかり。
青い瞳はフォルフォニアをじっと見つめており、フォルフォニアが鼻に指を寄せると、すりと顔を擦り付けた。そうして、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「白い猫さん、ルスランさんみたい、えへへ…」
「なに……ニア、ほの字?」
「えっ……!?わ、わたしなんかが……無理だよっ!だから、違うっ、違うから…えと……その……」
いつものフォルフォニアの独り言自己否定タイムが始まったため、わたしは受け流しながら白猫を撫でる。
すると、木の裏からするりと黒猫が現れた。黒い毛並に真っ赤な目。
まるでルオンだ、なんて思うものの……にゃあ、と可愛い鳴き声。
ルオンは鳴かなかった。つまり……
「にゃんちゃんかわいいにぇ〜〜よちよち〜!!」
わたしは黒猫にすぐさま飛びかかり撫で回し始める。
黒猫はご満悦なのかゴロゴロと喉を鳴らしながら、わたしの膝に乗ると首筋を舐めてくる。
「ひゃ、くすぐったいよ?えへへっ…もう、猫ちゃんったらご機嫌さんなんだぁ…」
わたしことフランシミア・アミュレット。
人はゴミのように殺すが、猫にはデレデレの甘々。
人にやらないような口に猫なで声で抱っこして、甘え尽くしていると黒猫と白猫がにゃあにゃあ鳴き出す。
まるで会話しているようだ。野良猫はあんまり話さないイメージがあるし、猫同士の会話と言えば喧嘩と交尾くらいかと思っていたのに。
そうして猫たちが話すと、ふと白猫が時計をチラ見する。
つられて見ると、授業開始の5分前だ。
「ニア、時間」
たんたんとそう言うと、フォルフォニアは時計に目を向けて……あわてて白猫をお別れの挨拶として撫で回すと、走り出して行った。
突然ニアが走り出したことにびっくりしたのか、猫達もダッと逃げていくと…その場にはわたしだけ。
「…せっかくだし、拝んでから帰るか。その教師とやら」
そうしてわたしは、地下に降りる転移陣へ向かったのだった。
深い深い地下の底、教室へ入るとローウェンと生徒一行はもう席に座っている。
「相変わらず遅刻、3分経過だな。フランシミア」
「3分だけ遅刻とか、偉くない?」
「遅刻しねぇのが偉いんだよ」
ローウェンのいつもの指摘、ユングの毒吐きを軽く受け流すと席に座り込む。
授業は始まって居ないみたいだ。
数分経った後、転移された時特有の音が鳴る。
それがその教師とやらの襲来ということに気づいたのか、ローウェンはあわてて出ていった。
ローウェンは教師?知らない。わたしはヒエラルキーの最上。わたしを止められるものも、わたしに敬うべき相手もいない。
わたしは自由だ。だからローウェンは教師だろうと教師扱いしなくていい。というか、ローウェンの「せんせいごっこ」にわたしがつきあってやっているんだ。ふんっ!
そんな時、リターンしてローウェンが帰ってくる。
「それじゃ、紹介するぞ。今日からこの無属性学科の非常勤として、午後から担当してもらう教師だ。」