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4話

_______



「見てくださいよミアたーん!この美しい彩色の食器!ここにある好きな食器でケーキや紅茶を嗜めるなどなんて画期的なカフェなんでしょうか?!さすがデザイン地区!素晴らしいです〜〜!!」


「食器なんて割れたらどれも同じでしょ」


「なんで割る前提なんですか?!」


予定を話し合った次の日、ソワソワと忙しない様子のアドラーを連れてわたしたちはヘルシンキのデザイン地区に来た。

小物やポストカードが多く置いてある店に入った後、元々行きたいと言っていたカフェに入ると更に彼女の機嫌は良くなる。

ロンフェイも興味ありげな様子で食器たちを見る中、ユングとわたしは楽しそうなふたりをぼんやり見つめるだけになっていた。


「はぁあ〜……早く聖地巡礼してぇ…」


「聖女オタクキモ」


「キモくてもいいよ、俺フランシミアと先生には感謝してるから」


「無敵モード入ってる…」


どうやらユングは次に行く裏世界の事にしか興味が無いようで、わたしもどちらかと言えばそうだしなんならルオンはやりたい事があるからとそもそもショッピングに同行していない。

こんなにつまらないと分かっていたらルオンの方についた方がまだマシだったかもしれないのに。


「あっち二人でショッピング行ってさ、俺たちで裏世界行った方が絶対良くなかったか」


「今からでもギリ切り返せるかなぁ……?」


と言いつつ、二人で楽しそうに話しているロンフェイとアドラーを見ると少し胸がチクチクする。

全員で行動しない苦しみとかいうバカめいたものではなく、単純に何時も自分の味方であるロンフェイが別サイドに居るというストレスだろう。

契約という魂の不可逆な繋がりがあるとはいえ、心では何も無いという訳では無い。

契約すれば感情という部分でも相互理解が出来ると根拠の無いことを考えて、わたしは自分に絶対的に従ってくれるロンフェイが自分と違う選択肢を選ぶということに苛立つのだ。


「まあ、……無理だけどね」


「先生にメッセージでも送ればどうだ?」


「未読」


一応、デザイン地区に行く途中ルオンにはいつぐらいに帰る予定かをメッセージで送ったのだがそのメッセージは未読に終わった。

今でさえ未読から変わらないのには少し憤慨を覚える。

ルオンは一体どこで何をしているのか知らないが、連絡くらい取れるようにしておくべきだ。

まあ自分がルオンなら未読無視するけど。


「コラー!ミアたんユングさん!早く決めなさい!」


「食器なんてどれも同じじゃない?」


「うんうん」


「風情ってやつが分からないよね〜ミアちん達は」


ロンフェイは栄華的な赤と金の色合いが際立つデザインの皿を選び、アドラーはアラベスクの美しい皿を選んでいる。

わたしとユングは特に迷わず一番近くにある皿を取るとようやく食べ物を選ぶ工程に進むことができた。

ロンフェイは一番人気らしいブルーベリータルトを、アドラーはヒヨコのマカロンを選びわたしは紅茶のケーキ、ユングはプレーンのスコーンを選んだ。


そうして飲み物まで選んでようやくカフェタイムに突入し、テーブルに座る所まで来た。


「ねぇ、ちょうだい」


「仕方ないなぁ」


ロンフェイのチャイティーを言葉を紡ぎながら勝手に飲んでいると、ロンフェイもやり返しと言わんばかりにわたしのアイスティーを飲んでくる。


「相変わらず距離感バグってますねぇ〜、アドちん的には目の保養なんですけど」


「同級生を邪な目で見るな」


「嫌ですぅ〜アドちんは秩序の中の自由という言葉に忠実なので〜」


アドラーはこちらをにやにやと卑しい目で見つめ、わたしとロンフェイが話す度に気持ちの悪い声を発する。


「アドラーキモイ」


「あらあら〜、外野の事はお気になさらずに♡あぁ〜…ここにルオン先生がいたらハァレムの美味しい空気が漂って〜……」


「先生が居たら裏世界に行く以外に選択肢ないぞ」


「いやですぅ!ショッピングしたいんですよぉ〜!!せっかくミアたんのソウル・メガフォンがあるんですからぁあ〜!」


「いや〜アドちーん?ソウルメガフォンにも限界ってやつがあるんだからねぇ〜」


「でもでも!ミアたんは容量いっぱいあるって言ってました!"前の持ち主が容量をマシマシにしてた"って!」


ソウル・メガフォンの特性をアドラーたちは知らないが、万が一容量を大きくするには魂を食わせるというシステムに気づいた場合のカバーもわたしは優秀なのでしっかりとやっている。

実際は迷ったら食わせるくらいの軽い気持ちでソウルメガフォンをグングン成長させているのだけれどアドラー達にはダダ広い容量でも一応限界は存在すると言っている。


「一年旅行する分詰んでもまだ余裕があるなんて、前の持ち主は余程容量を拡張したんだな。ちゃんとお礼言ったか?」


「いや、前の持ち主とか知らない」


なぜならJewelryToBerry含め家の封印されたところにあったからだ。多分家宝かなんかだろうけどこっちからしたら知ったこっちゃない。


「でもねぇ、俺からしたらユンくんとアドちんも波動を感じるよ〜?」


「バッ……、何言ってんだよロンフェイ!俺とコイツっ、……あ、あ、あ、アドラーはそんなんじゃねえから!」


「なんで照れてるんですかこの人」


「アドちんは周りに必死って感じだねぇ」


ロンフェイの言っていることが呑み込めていないまま、二人は言っている意味を理解したのか各々とレスポンスをしている。

コミュニケーション能力が高くアドラーの使う業界用語もそれなりに知っているらしいロンフェイはさすが数千年生きた雷龍と言ったところだろう。


「それにしても、アドラーって絵だけじゃないんだ」


わたしの知っている範囲での"彼女みたいな人"は、このような部分にまで触腕を示す人は余りいないように思える。

絵が好きというならそれに派生した立体の物品や文字であり、アドラーの選択した食器などには彼女の解釈による熱いリビドーを感じず、単に彼女の好みで選んだもののように見える。

デザイン地区に来たのもそもそもな事で、彼女は二次元オタクの人間としてデザインされたものを貪っている訳ではなく、単に芸術に対するオタクとしてここにいるみたいなのだ。

二次元オタクの中で、彼女のように芸術に対しても目を向けられるオタクというのは少数派のはず。

多くは単一のものにのめり込み、熱狂し、それ以外には興味を示さず、それ以外に興味を示すとしたら何らかの繋がりがあるものだろうに。


「アドちん的には、絵だけっていうのも逆に不思議なんですよねぇ」


「……というと?」


「そもそもオタク向け作品って、脳内の情報プログラムで思考して作られた波形でしか表現出来ないようなつまらないデータを、二次元にアウトプットする事で表現しているということだと思うんです」


「……?」


アドラーは多分分かりやすく言っているのだろうがわたしからしたら全く理解できない。


「つまり、脳で考えたことをアウトプットした時点で一歩ステップアップしてるんですよぉ。それで、二次元的なものを立体として表現しようとすると三次元的な物に変化しますよねぇ〜?絵や文字で書いていただけのものを、立体物としてアウトプットする。またステップアップしてるんですねぇ」


「……えーーっ、えーっと……何が言いたいの?」


「アドちん達は三次元に生きる人間ですから、全て延長線上に過ぎないという話なんですねぇ〜。一次元も二次元もあくまでこの世界における表現の一歩二歩手前にある産物。ということは、アドちん的には二次元に対してアウトプットをするより寧ろ三次元にアウトプットする方がスマートで適切ですから。

二次元が三次元を内包しているのではなく、三次元が二次元を内包してるんですよぉ。

だからオタクが二次元しか好きじゃないのであれば、人間である必要性は特にないんですねぇ。コスプレだとかフィギュアだとか、それなり形は色々ありますけど〜、人間だからこそ出来るアウトプットっていうのがアドちん的にはあって〜」


そうしてアドラーの長い語りが始まった。

単に"推しカプ"だとかの話をしているなら脳内ピンクのアホ野郎で済むだけなのだけれど、今アドラーがしている話はまるで大学の講義のような頭の辺りが痛くなってくる堅苦しく難しい話で頭がおかしくなりそうだ。


「〜つまり〜、アドちんがこういう芸術に目を向けるのは人間としての本能なんですよぉ。オタクとして好きなものに繋がることしか好きになれない人は、その人が三次元で好きになれる可能性のものにぶつかっていないか、それが気づかないほど危険で表に露呈しにくいようなアンタッチャブルなものということになると思っています〜」


「いいこと教えてあげるミアちん」


アドラーの話に頭がクエスチョンマークでいっぱいになった頃、ロンフェイから突然話しかけられる。


「なに……」


「次元魔法に適正のある人間は、こういう自分の中の独特な理論とか理屈が固まっていて不思議な事を言う人間が多いんだってさ」


「他の次元魔法使うやつもこんな感じってこと?」


「うん、俺の知ってる範囲だとそうだね」


「じゃあお返しにいいこと教えてあげる。それ全然いい事じゃないから」


げっそりとした顔で語りが終わりマカロンを美味しそうに食べているアドラーをチラリと見て、ため息をひとつ着いた。

これはショッピングになったらまたこの語りが続く予感がする。


「ちなみにユングは理解出来た?」


「2ミリくらい」


「ダメじゃん」


「アドラーは……えーっと……二次元の好きと三次元の好きは同じものとは限らなくて、二次元だけ好きなように見えるヤツは三次元での好きな物に気づいていないだけってことが言いたいらしい」


「さすユン」


「"さすユン"ってなんだよ。しばくぞ」


「は?殺されたい?」


「は?」


そうして互いに火花が散ると、いつもの通りユングとの暴言バトルが始まるのだった。

緊迫しない緩和の回が続いておりますが描きたい重要なところだけ書くとあっという間に話が終わってしまう問題があるので頑張って文字数を使い普通の中身のない会話で繋いでいるのです(身も蓋もない言い方)

なので今だ!緊迫ゾーン突入!って言うのを検知したら見に来るというのでもありかと思われます(緊迫ゾーンでも特に更新スピードが早くなるとかそんなことはないので感覚の問題です)

ギャンブルをする感覚で緊迫回と緩和回を当ててみてください!(?)

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