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1話

_______薄青の空に反して雪解けの水が空気を湿らせる。

四月のヘルシンキは春でスタデルクス・マルクスピサンツ君主国と相対的に見れば暖かいものの十度を上回ることはないため、これを暖かいと感じるのは国によるだろう。


「んふ〜……んん…」


人間が住むために整備された街の中をふらふらと歩いていると太陽を遮るように大きな建物が横に現れる。

ヘルシンキ魔法職管轄官庁。

ビルのような大きな建物は、他国で言う冒険者ギルドの役割と、市役所の魔法に関連する役割を総合した魔法使いの為の建物だ。


少し湿っぽいけど一応晴れてるからいい天気、新しい土地に見覚えのない肌の色の人間、見たことの無い種族、知らない空気と知らない匂い。

何もかもが新鮮だ。

そういう時は、こうしよう。


「ぅ゛う゛〜?!う゛〜!?」


「うん、今日もいい日」


路地裏で適当にそこら辺にいた人間を連れてきて軽く剣で一刺し。

真っ赤な血が地面に染み付いて、鉄の匂いがほんのりと鼻腔を擽る。


「あと三人くらい……あ、アレ太ってるから肉の感触良さそ〜」


警察に見つからないように都市の結界の中でも使える魔法を軽く発動して隠蔽してから、また明るい街中から路地裏へ連れ込んでいく。

それにしても、ある程度都市という物が掲載されている国では路地裏の概念がしっかりとある事が気持ちいい。

もし路地裏がない国に行ったら、一体どこで人を殺せばいいのやら。

カメラなどの感知に入らないようにするには創造魔法を磨くしかないだろう。


そうしてまた一人、二人、三人。

狙った相手を連れ込んではその命を奪う。

相手が死んだと理解した瞬間、わたしは安堵のリラックスと高揚のエクスタシーを同時に実感し精神がポジティブな方に整っていく。

わたし以外の生物はわたしに殺され死ぬのが当然だと言わんばかりに、わたしの殺人対象に種族性別は関係ない。

おまけに、わたしが殺そうとして殺せなかったのは今のところルオンだけだ。


『ミアちん、アドちんが探してるよ〜』


『あ、そう』


『そろそろ帰ってきなね』


ロンフェイから念話で声をかけられるとわたしはソウル・メガフォンに魂を吸わせたあと、奥の方に捨てておく。

痕跡を創造魔法で消しただの不運な不審死に仕立てあげれば、わたしはアドラー達がいるであろう宿へ向かった。


スオメンに着いた後、チェックインを済ませ荷物を整理すると本題に入る前に数時間ほどの休憩観光時間を取ったのだ。

他の人間たちがどこにいるかは知らないが時間を見る限りはそろそろ休憩終わりの時間だ。

そうなればルオンの方からスオメンでするべき事の説明がされるであろう。

ヘルシンキの街の少し活気が薄れた場所にわたし達の泊まる宿はある。

その宿は大きな西洋式のホテルで、受付はスオメンの言葉が使えなくとも英語で大体どうにかなる仕様だ。

エントランスも観光客向けの為かスオメンらしい北欧神話のトールだかオーディンだかの像が置かれていたり小綺麗に纏められていて、殺人帰りのわたしには甚だ似合わない雰囲気だ。

固い白床を進み受付を過ぎた先には扉が見えており、微妙な時間だからか目の前に人がいる様子はない。

中へ入ると目の前にあるのは転送魔法陣の跡がうっすら見える床とカードキーを入れろという以外ないだろう柱のようなオブジェクトとその上に置かれた機械。

カードキーは部屋の番号と一緒に紛失した場合は罰金を、とつまらない事が書いてある。

向き方向が指定されているようで柱に合わせて貼られている紙の図解を見ながら機械にカードキーを差し込むと、目の前の転送魔法陣が光り始める。


軽く眺めているとどうやら入れたカードキーによって魔法陣が所持者の部屋の近くに転送されるように変化しているみたいだ。

わたし達は三階の303から307を取っているから魔法陣は三階を示すであろう部分と部屋の五番を示すであろう部分が光っており、床に残る光っていない跡は恐らく他の場所に行くための魔法陣の構成パーツだ。


そんな転送用の魔法陣の上に乗ると移動し、305番の部屋の前にやってくる。

ただ、わたしの部屋は306番だけれど集合する場合はルオンの区域である303番にすると決まっているため不本意ながら303に向かわなければいけない。


303の扉を開けば中にはわたし以外の全員が揃っており、扉の前で突っ立つわたしを待ってましたと言わんばかりに視線が集中した。


「ん」


「よしよーし、ミアたんも揃ったのでバッチリ!ってことですねぇ」


ルオンと目が合うと彼はいやらしく微笑み、まるで自分に会いに来たみたいに機嫌良さそうにわたしに声をかけた。


「ミア……♡」


「話って?」


「あぁ、本当にお前はせっかちな女だな…フフ」


いいから早く話せ、という意味合いで睨みつけるもルオンに一切効果はなく、わたしを粘着質な目で見ながらわたしを手招く。

どうせ何をやっても無駄なのだから、抵抗する意味は無い。

そうしてわたしはルオンの隣に座ると、彼は話し始めた。


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