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33話

_______室内は、一切神殿のような門と関係ないような見た目だ。

寧ろ屋敷というか、家じみた見た目をしている。

市松模様のカーペットにアラベスク模様の壁、天井はやっぱり高い。

迷宮の中身に対して考えることなど無意味なのだろうと思うほど、洞窟、門、室内に関係性はない。


「アドラー、どうやって行く?」


「はいはーい!ちょっと待っててくださいね〜」


アドラーは魔法を構築し発動すると道が青く照らされていく。


「とりあえず見える範囲のマッピングはグッジョブです!クッソ可愛くない最悪のビジュアルの敵もチラホラいるみたいですけど、アドちんたちの神絵師パワーで捻り潰しましょう!」


そうして自信満々に歩き出したアドラーを追いかけながら、わたしはロンフェイと目を合わせた。


「行けそう?」


「愚問だね、ミアちん。やれるに決まってんでしょ」


角を曲がり、少し進むと横に騎士が並んでいる。


「さて、皆さん……バトルタイムですよ!」


アドラーがそう叫んだ瞬間、並んでいた騎士たちが甲冑の硬い音を響かせながら動き出す。

アドラーが後ろに下がったと同時にわたしとロンフェイは前に出て、アドラーは魔法を唱え始めた。


「この世界は公式が絶対、二次創作は公式の規約に従ってもらいますよ〜!アドちんという作者がイエスと言ったらイエス、ノーと言ったらノー!さあ、版権のルールに従いましょ〜!ビューティフル・ワールド〜!」


その言葉と同時に地面に縦横四マスのマークが現れる。

上から下へAからD、左から右へ一から四。

そう、これこそがわたし達のパーティでアドラーを指揮官にする理由。

基本的にパーティで方向を指定するのは東西南北もしくは時間が多いが、わたし達のパーティは範囲内ではこのマスを用いた具体的な位置取りを出し、この範囲外ではこのマスの向きでの上下左右で大まかな方向を示すというやり方を取っていた。

戦闘においては突発的に言われて理解できるかどうかが大切だから、下手に他のやつに指揮官をやらせて何時方向だの言われても反射的に対応出来ないし、わたしたちのパーティは何人増えても指揮官はアドラーであり彼女は必要不可欠の存在となっている。

このアドラーの魔法は次元魔法ではなく創造魔法で、確か結界に値するこれはLT魔法と呼んでいたはずだ。

アドラーはフィールドを構成すると範囲内に入った瞬間遅延がかかる魔法と、範囲の外周に電撃を加える罠魔法を入れる。

これらのトラップはWT魔法と確か呼んでいて、LT魔法は永続的に働くもの、WT魔法は一時的に働くものという分け方だったはずだ。

そうしてアドラーは杖を持ち、魔法をさらに紡ぎ始める。


「さて……アドちんの創作が始まりますね!キャラクターとして、物語として……動いて下さいみなさん!ハロー・ワールド!」


アドラーは杖を携帯すると魔法によって生み出されたタイプライターのような機械に触れ、カチカチと打ち始める。

あれはたしか……FT魔法と言っていた気がする。

タイプライターに限らないが、あういう創作に必要な器具を魔法として生み出し、それを使って自分が構成している魔法のパターンや出力などを調整する魔法だ。


_______ロンフェイは速度の遅くなった騎士のようなエネミーに雷を撃ち込むと、わたしはJewelryToBerryを持ち叫ぶ。


「JtoB!」


イメージするは相対する騎士の姿。

といっても甲冑などはほぼなく、ただ動きやすさを重視に腰マントや剣を携帯できるようなベルトが付いているだけのもの。

剣は鞘付きの物でエストック。騎士相手ならば、鎧通しの剣で殺してやろう。


「ユングさんアシスト!」


「おう!……セット、アニムス!番号ファイブ、……対象AB、ヘイスト!」


その言葉でわたしとロンフェイの体が軽くなると、JtoBで変身したまま剣を振り回し、ロンフェイは足に雷を纏わせるとそのまま飛び蹴りをする。


「A3から増援二体!A4の騎士C3に回ってます!ユングさん背後!」


「セット、アニマ!番号トゥー!対象範囲B、バリアフィールド!」


ユングがBとCの境目にあるラインを対象にバリアを貼り、背後からの奇襲を防ぎながらロンフェイはユングとアドラーに敵視が向かないように背後にいる騎士に遠隔で攻撃を仕掛ける。


「降り注げ、ライトニング!」


そうして敵視はわたし達に保たれたまま、わたしは剣でそのオブジェクトのような騎士の甲冑の隙間に剣を差し込むと切り裂き、魔力の粒となって消滅したのを確認すると同時に次の騎士へ向かう。


「ミアちん、後ろやって」


「りょーかい!ユングもういいよ!」


「おせーぞミア!」


「わたしは別にあんたの元に引っ張ってもいいんだからねこいつ!……っと!」


騎士の振りかざす剣を右へ左へ避けてから一突き。

そこで魔法を使い鎧を引き剥がすと胸にある核を突き刺し、確実に殺す。

ロンフェイが騎士を倒すと次は増援のエネミーだ。


「ぎゃッ……き、キッモ!キモすぎます!さっさとやりましょうあんなの!」


アドラーが声を上げ前を見ると全身がドロドロに溶けたようなふとましい男のようなエネミーが見える。

アドラーご自慢のハロー・ワールドで罠を大量に置くと、わたしとロンフェイはすぐに構えた。


「ミアちん前ね」


「あんたあれがキモイから後ろからやろうとしてるでしょ?ロンフェイが前ね」


「はぁ〜〜?ミアちんが剣だから前にしただけですけどぉ〜??」


「じゃあ銃にすればいいんでしょ?JtoB!」


服はそのまま剣から銃に切り替えるとロンフェイに向かってウインクする。


「行ってらっしゃい、前衛さん?」


「ミア、性格悪いよ」


「今更でしょ」


やれやれと言いながらロンフェイは杖を構え、目の前の男のようなエネミーを半目で見る。


「降り注げ、トール・スパーク」


空中から降り注いだ雷はエネミーを感電させ、バチバチと光りながらのろのろと進んでいるところにわたしは銃を撃ち込む。

隣のエネミーにも同じように撃ち込むと、アドラーの領域に入ったそのエネミーにありとあらゆる罠が発動し、燃えたり毒にかかったり爆発したり、むしろ発動している罠を見ている方がグロテスクと言わんばかりに色々なエフェクトに埋め尽くされた後エネミーは跡形もなく消滅する。


「正義は勝つ!顔のいい奴は勝つ!……ってことですよね?」


「アドラーのそのバーニングルッキズムはわたしにはよくわかんないよ…」


「ルッキズムじゃありません!芸術品を守ろうとする心です!」


「はぁ……」


「バーニングルッキズムはいつもの通りダサいぞミア」


「うるさい」


そうして言い合いをしながら、わたしたち四人は先へ進んでいく。


『いや……やめて……痛い……苦しい……』


「……へ?」


そんな時、突然頭の中に響く声にわたしはキョロキョロと周りを見渡した。


「ミア?」


「いや、なんでもな…」


『わたしのせいだ……わたしがあきらめたから……わたしが逃げたから……』


そんな声と共に、頭に何かがぶつかるような強い痛みを覚える。

グラグラと目の前が揺れ痛みは頭全体に広がり、気を抜けば気絶してしまいそうだ。


「っぐ、……うぅう……!」


「ミアたん?……ミアたん!」


『……たすけて……くるしい……痛い……』


悲痛なその声は酷く幼く、強い耳鳴りと共に響くそれはわたしの平衡感覚に揺さぶりをかける。


「な、……んなの、あんた……はッ……!」


『たすけて……るおん……たすけて……』


(ルオン?!なんでアイツが……)


その言葉を最後に頭痛は去り、同時に声も居なくなる。

先程まであんなに苦しかったのが嘘みたいに平常で、寧ろ短い間でグラグラと揺らされていたせいか今の方が歩き出したら不味い気もする。


「ミアちん、ミアちん……大丈夫?」


「あ、……いや、なんでもない…」


「なんでもないなんて無いでしょ、あんなにヤバそうだったのに……」


「本当に、なんでもないから……」


今は、なんでもないから。

だから前までの現象に聞かれても困ると思いながら、わたしは少し深呼吸を繰り返すとまた歩き出した。

ふと振り返り、扉の入口の方を見ると、閉めたはずの扉が空いていて……外の洞窟から、見慣れない色の光が漏れているように見えたのだった。

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