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1話




_______退屈な挨拶。退屈なお辞儀。退屈な演説。


「私達はこの学園で紳士、淑女としての振る舞いを_____」


つまり、この場を切り抜ける唯一の方法は立ったまま寝ることだ。

周りの微妙な視線も気にせずこくこくと頭を動かし寝こけていると、気付いた時には終わっていたようで。

わたし、フランシミアは群衆に紛れて大ホールから校舎へと戻ると、群衆は散り散りになって行く。


「ニア、バイバイね〜」


「あ、うん…、また後でね、ミア」


キョロキョロと周りを見渡して歩いていく方向音痴のニアを見守りながら、わたしは自身の学科へと歩いていく。

わたしの学科は……無属性学科。他の学科の人数が多いところだと100人近くいるのに対し、無属性学科はその珍しさ故か5人しかいない。

_______わたしも、無属性は予想外だった。

初等部はみんな揃って基本的な属性魔法を学んで、わたしは特に雷属性に秀でたらしく雷雨の中避雷針を持って降ってくる雷を威力を見て雷魔法で相殺するというのにハマっていて、初等部の6年間毎年毎回やっていたのを思い出した。


そうして中等部に上がる時、わたし達は基本的な魔法を学んだだけの人間から"何に向いているのか"を確かめるべく、魔力検査を行った。

魔力検査というのは学園にある巨大なアレキサンドライト魔石の事で、これに触れると魔力の方向性が分かるというもの。


たしか、フォルフォニアは水属性が元の聖属性だったか。それのお陰でフォルフォニアは今聖魔法、医療魔法、占星魔法へとクラスが発展する白魔法学科へと進んでいる。


わたしが、フランシミアがアレキサンドライト魔石に触れた時ぐにゃぐにゃと魔石が宇宙のような柄を見せながら歪み出して、最終的にぱちんと弾けてしまった。


他の人間にはどうも見えなかったものからわたしも何かよく分からなかったのだが、結果がそう、雷属性を元の無属性になってしまい、晴れて精鋭でもない少数の無属性学科へ振り分けられた。


別に嫌な訳では無い。

わたしはサボるのが好きだし周りと面倒くさい絡みをする事も嫌いな、いわゆる問題児とカテゴライズされる人間だから。


そうして割り振られた無属性クラスにわたしはぼんやりと向かっていく。


聖フェイリス学園は"聖"なんて着くからわかる通り白魔法優遇みたいなところで、白魔法学科の人数も多ければ白魔法学科の為に校舎が別にある。


白魔法学科優遇なのはそこに聖魔法があるからで、しかも、なんたらキルストを崇拝する聖教の勢力範囲に学校があるからだ。


_______勢力範囲とは、宗教において神々が影響を及ぼす範囲のこと。


この世界には色んな宗教がある。それは、色んな世界から神様とやらがやってきて、この地球という惑星に縄張りをつくって宗教として信仰させ、神々として人を導くという"仕事"をしているのだと言う。


それで色んな神様を取りまとめているのがこの宇宙を総べる神である神王と、宇宙に二重に存在する裏の世界を統べる魔王。


一神教というやつはあるにはあるが、例えば"聖教の世界ではキルストのみが神である"っていう事で、この地球においては色々な神が縄張りを張っているので八百万いるのは当然だ、みたいな話になってくる。


そう、数え切れないくらいいるやつら。キルストを信仰する聖教だとか、アッリァーを信仰する律教だとか、釈迦を信仰する釈教だとか、まあ他にも北欧神話だの神道だのが立ち並んで、この地球を好き勝手にしてる。


まあわたしは無信仰だけど。



_______とにかく、人見知りでコミュニケーションに障害のあるフォルフォニアがあんなところ大変だろうな、なんて他人事を思いながらわたしは無属性学科へ進んで行った。

といっても、無属性学科はどこかと言うと本校舎の地下だ。


無属性は扱いが面倒でやる事も無茶苦茶だから地上でやって森を吹き飛ばしたりなんてしたら大変なもので、地下の奥深くでなら好きなだけ爆発させてもいいってなったことでわざわざ転移魔法で地下にまで下らなきゃいけない。


お陰で学校のくせに無属性学科の奴らは他の学科の声が一切聞こえない。

なので、逆に何しててもいいわけだ。

ということで転移魔法陣の上に乗って軽く力を込めてやると、体が地下深くの無属性学科専用スペースへ転送された。


全く、無属性だと分かっていたらほかの学校を選んでいたのに。


他の学校なんか人数も少ないの分かってるのに無属性用に校舎があったりとか、出ただけで少なくとも留年しないなんて所があるのに、残念ながらここでのその優遇枠は白魔法学科。

無属性学科なんか、同級生が五人しかいないし教師も一人しかいない。やってられないという話だ。


そうして、どんな埒外な力や因果律改変も許さないと言われる次元魔法の結界で作られているらしい扉をくぐると、そこには既にメンバーたちが揃っていた。


「フランシミア、15分遅刻だ。…でもいつもよりは早いな」


そう声にする男は無属性学科の教師、"ローウェン・カリスト・オルテス"、火属性が元の無属性、創造魔法を得意とする。黒い目に暗いパープルの長い髪を垂らす気だるげな見た目の男。


ミドルネームは16歳…成人年齢になって貰うものであるのでわたし達にはまだないが、大人であるローウェンにあるのは当たり前のことだ。

他種族には適用されない人間特有のミドルネームで、それは魔力色名とも言われている。

その人間の魔力の傾向などを、血液検査で測り、たしか…惑星や、小惑星の名前から決めるはずだ。

といっても惑星の名前…ジュピターだのマーキュリーだの貰えるやつは余程の素質がない限りありえないが。


さぁ、脳水泳から現実へ戻ろう。


「まあこいつ、こんなもんでしょ」


こんな失礼なことを言うやつは同級生の一人、ユング・フォルスター。

焦げ茶の髪に銀色の瞳で、垂れ目な顔は温厚そうに見えるのにいつも顔を顰めているせいで怖そうに見える。基本的には生真面目だが、オタク気質で語り出すとうるさいし、憎まれ口を叩く癖がある。


といっても憎まれ口は同級生限定で、教師には媚びへつらっていい子ちゃんしているのが滑稽。

彼は創造魔法の学者を目指しているらしく、無属性が当たった時飛び上がっていたのをよく覚えている。

いや、生徒の前であんなことをしていたのによくすかした態度で居られるなと内心思いながら、周りを見渡した。


「まあまあ〜、アドちんはそんなミアたんも好きですよぉ」


相変わらず変態色を見せているこいつはアドラー・メノディーヴァ。一応由緒ある貴族のお嬢様の筈だが、学園で見るとどう見ても変態にしか見えない。

藍色の髪にエメラルドグリーンの瞳で、ぼさっとした髪は適当に結んだのが分かるくらいあちらこちらに跳ねている。お嬢様なのにこんなに清潔感がないのは、アドラーが本人曰く虚弱体質で、"尊いもの"を見ると感情が抑えられなくなり吐血して倒れるを繰り返すらしい。多分このぼさぼさ具合は、今日3回は少なくとも倒れていたはずだ。


彼女が個人的に管理する部屋には本棚が詰められていて、沢山の恋愛小説や童話などを元にした"ウスイホン"とやらを制作しているらしく、今日も紙とペン片手に文字を書いており自らの魔法は創作のためにあると言い張っている。まあアドラーのメインは次元魔法だけど。

次元魔法は使いこなせるやつが少ないものの、使えるだけで出世確実という未来のある魔法なためアドラーの未来は明るいだろう。

彼女は、次元魔法をよく使いこなしているし、創造魔法もそれなりに使えるから。


「まーミアちんは問題児ってことを受け入れてるから、寧ろ今日集会だけで飽きて帰らなかっただけマシじゃない?」


彼はリー・ロンフェイ。

東洋からきたという"設定"で、同級生ではあるのだが……実は、彼は人間ではなく龍だ。

雷龍ロンフェイというのが本来で、この地に元から住み着く奴だったのだが、研究所に囚われていたらしく逃げるところをわたしが契約することで助けて、それから共助の関係になっており、学校では協力して魔法を使うこともあるからバディ扱いである。

といっても、基本的には別行動の方が多い。

わたしの体は何故かロンフェイと遠隔でのアクセスが出来る謎の体で、いつでもどこでもロンフェイとコンタクトをとる事ができるから契約してるとはいえ一緒に居なくても別にいいのだ。

別にいいのに、興味があるからといってロンフェイは籍を作って中等部の時ここに転校してきた。

……彼、自称だと3000歳くらいのはずなのだが、中等部の制服を着てても恥ずかしくないのだろうか。


彼は高位な龍ゆえアレキサンドライト魔石やミドルネームの為の血液検査すら誤魔化せるほどの人間に化ける術を持っているらしく、容姿をいじるくらいは簡単なようで今彼は16歳程度くらいにはしていると言っていたはずだが、それにしてもだ。

薄くて暗いピンクの髪に、くせっ毛を三つ編みにして垂れている。

軍服を元にしたと言われている聖フェイリス学園の制服はちょっと異国感を出してはいるが…まあ大丈夫な範囲だろう。

彼は本来なんの魔法でも使えるが、一応創造魔法という体をしている。


ちなみにわたしは、創造魔法をメインにして次元魔法も多少なら使えるという範囲。次元魔法に関して、アドラー程は上手く使えない。次元魔法を創造魔法で補って出しているわたしに比べれば、アドラーは次元魔法使いとしては別格だ。

性格が残念だけれど。


で、残り一人はシュヴァル・チェーナという奴のはずだがこいつは中等部2年になってから何かあったのか一度も授業に出席していない。留年3年目らしいが多分そろそろやめていくはずだろう。

ということで、実質無属性学科の2年は4人だ。

それにしても、ローウェンの話を聞いていても暇だ。暇すぎて、人を殺したくなってきた。

アドラーくらいなら虚弱体質って言ってたから殺してもバレないかな、とぼんやり考えていたら、ポンポンと横から肩を叩かれる。

…ロンフェイだ。


「ミア、流石にやめな?」


「はいはい」


ロンフェイがいなかったら本当にこの場でアドラーを突き刺してたから危なかった。

当たり前のように訪れる殺人衝動にギリギリ学科のただでさえ少ないクラスメイトを殺さないで済んでるのは一重にロンフェイのおかげだった。


まあ、他のクラスメイトは止めないから白魔法学科は殺人されたとなるとめちゃくちゃうるさくなるし他の学科のヤツを適当に殺して遊んでたりもするのだが。



それにしても授業は欠伸が出る。

今日は一日目だから実践どころか座学もしない、授業方針の説明とテキストの配布のみ。

そんなものだから終わった瞬間に誰にも挨拶せずにドアを開けて、転移魔法で地上に戻っていた。

もう午後の授業なんてやる気が無さすぎる。

このままだと癇癪で全員殺しちゃいそうだからさっさと帰ってサボらないと。

そうして忙しなく早足で歩いていると、魔法車が見える。

整備された道路を煙を立てながら走っているのを見ながら歩いていると、ふとそこに黒猫が過った。

車の来ない隙を狙っていたのか知らないが、真っ直ぐ真っ直ぐ進んでいく……その時、物凄い速度で車が黒猫のいる方へ突っ込んでいくのが見える。

_______あれは完全に轢かれる!

そう考えてから体は一瞬で動いた。

何せわたしは人間より猫が大事だ。

猫が好きになったきっかけは分からないが、細胞が猫を守れと疼いている。

だから、わたしは飛び出して、猫を庇う。

このままわたしが轢かれてくれれば、ロンフェイの力で一緒に車も木っ端微塵になるはずだから……と思って衝撃に備えるが、待っても待っても痛みが来ない。


なぜだか分からなくて、目を思わず開いた。

そこには、車を片手で持ち上げている……猫耳にしっぽの着いた男がいた。

黒い髪はあの黒猫にそっくりで、その身長は2メートルもあるんじゃないかとまじまじと見ていると、男は車を投げ捨ててこちらをじろりと見つめる。

血のように赤い瞳。人よりずっと上の、それこそ神のような…そんな美しく格好いい顔面。人と同等の亜人のはずが、人なんかでは、いや神なんかですら敵わない存在のように見えた。


「お前は誰だ?」


そう低い声で問う猫耳の男………"猫亜人"の男は、他の人間よりも、亜人よりも、ずっと影が濃いように見えた…





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