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18話

_______


「ルオン、あんたさぁ……」


今日は学校をサボった。

朝からデパートを適当に周り、それからゲームセンターに行って、適当にアーケードゲームをいじっていた。

最近熱属性の発見により機械ブームが起こっており、このアーケードゲームも機械仕掛けな物でピチュンピチュンと音を立てながらひたすらに目の前にあるものを玉で倒していくシンプルなシューティングゲームだが、それがまたフランシミアにとっては楽しみを覚えていた。

そうして散々と遊んだ後、適当にカフェで本でも読み、雑貨屋に行って眺めたり、川を歩いたりして……家へ帰ると、何故か自分の部屋にルオンがいた。


「お帰り、ミア。僕か僕か僕……どれがいい?」


「は?」


おかしい話だ。両親は家にいない。執事達も、教師だからといってルオンをこの部屋まで通すわけは無い。というか鍵がかかっている。

わたしは鍵を開けて入ってきた。鍵をルオンが無理やり開けたのならば、開いたままであるのが道理だ。空き巣に来たとて閉めるにしても帰るタイミングにする方が効率的だから。


「だから、僕が欲しいだろう?」


「……鍵渡したつもりないけど」


「鍵?そんなもの僕にはいらない。何時でもお前に会える。どこにいても、僕はお前の元へ向かう」


「いや……、もう……、なんかツッコミ疲れた」


ルオンはその圧倒的な眉目秀麗の、美しく綺麗でかっこいい顔面をわたしに向けながら全開に期待にこもった目で見つめてきた。しっぽはくねくねと先が動き、二メートル超えの馬鹿みたいにデカい身長がわたしを見下ろしながら、にたにたと笑顔でわたしを見つめる。やめて。


「ほら、ミア。茶でも入れてやろう」


そうしてルオンは指を鳴らすとあっという間に紅茶がわたしのテーブルに置かれ、ついでに茶菓子まで着いている。

相変わらずこの男は意味不明な無詠唱をふんだんに使ってくる。調べたけど猫亜人だからといって無詠唱が使えるという訳では無い。

こいつが完全に特別だ。こいつ、本当に頭おかしい。


「で、あんたはなんの用なわけ……」


そう言っているとルオンはベッドにわたしを押し倒し、上に跨る。


「は、いや、……いやいやいやっ?!」


「ミア……」


ルオンは首筋に顔を埋め、すーはーと荒く息を吐き始めている。ヤバい。早く何とかしないと。というか、……というか不思議と何故かルオンの股辺りにある部分がちょっと所ではないくらい固くなってる気がする。

これは危険だ。危険すぎる。このままではセンシティブな情景が始まってしまう。


「る、ルオン!」


「んぅ……なんだミア?キスでもしたいのか?」


「違う!……なんか……その…、えっと……わたしはやりたいことがあるからどいて!」


そう言われてグイグイ押しても微動だにしない。

というかルオンがめちゃくちゃ重い。

多分100は確実にある。

こんなにデカい体で、体型もがっちりしているから。


「僕と戯れる以外にやりたいことなど…あるのか?」


ルオンは顔を近づけてわたしを見てきた。

本当に危険だ。この恐ろしい程に美しい顔面がわたしを見ている。

面食いという訳では無いはずだが圧倒的な強い顔面にわたしはもう死にそうだ。


「ひ、と、ご、ろ、し!」


この欲求は別のところで晴らさなければとどうにか言葉を紡ぐと、ルオンはさらに体重をかけてくる。


「ぐぇっ!重、ルオン、どけっ!どけってば!重い!」


「ミア……、ミア……」


ルオンの腰が揺れグイグイと固いものが当たる。


「変態!へんたいへんたい!!もう……、このっ!雷鳴よ嘶け!我が手に宿りし力に答え今鉄槌の雷を!サンダーボルト!」


ルオンに向かって思わず魔法を放つと彼は当たっても何食わぬ顔でこちらを見る。

魔法が直撃しているのに、本当にちくりと電気が走ったくらいの顔だ。


「ミア、そうか。人殺しとは、僕を殺したいということだったのか。つまり……僕と遊びたいということなんだな?」


「は?いや、違うんですけど、わたしは勝てる相手を殺すのが大好きなだけで…」


「ミア……ミアぁ……♡それならそうとさっさと言えばいいじゃないか……」


ルオンはねっとりと気持ち悪い声を出しながらわたしの腕を引く。

するとまた空間がパチンと弾けるようになり、世界の色は薄くなる。


「なっ、……ここ、何」


「ここは表と裏の間、狭間の世界だ。狭間の世界では時は動かず、誰も僕とミアの邪魔をするものは居ない」


そう言いながらルオンいやらしく微笑むも、結局何故ルオンがここに行けるのかどうかなどという説明はされない。

というか、またルオンはわたしを見ながらかかってこいの姿勢だ。違う。わたしはルオンに一方的に弄ばれるんじゃなくて、わたしが相手を弄びたいだけなんだ。だから、ルオンと戦うつもりなどない。

わたしは馬鹿じゃないから、目の前にいるこの男が恐ろしい程強いのは分かっている。今のわたしで到底敵うような相手では無いから。


「ルオン。あのね、わたしあんたと戦うつもりは無いの」


「何故だ?浮気でもするつもりなのか?」


「だから、……わたしと一緒に人殺ししない?」


自分の欲求を満たしながらルオンをどうにかいなすにはこれしか無かった。ルオンは付き合ってもいないしわたしがルオンのことを好きでもないのに浮気だのなんだの言ってくるのは至極意味不明だが、それはそれとして。

5月も回って外は少しずつ温かみを増している。

夜に出歩く人も、なかなかだ。

そういうアホを狙って殺していけば簡単な作業になる。


「ルオン、あんたはちょっとデカすぎるから、隠れてる時は猫にでもなってもらって…ね?」


「……ふーむ……、これは……デートの誘いと言うことか?ミア、そういうことなのか?ふふっ」


「勝手にして」


「そうか、デートなのか……、お前は本当に回りくどいメスだな……フフフフ……」


ルオンは相変わらずの最強ポジティブ精神で曲解し、一切思ってもいないことを飲み込んだ。

彼のこの謎の思考回路はどこから来るのだろう。というか、いつからわたしにこんなに執着しているのだろう。わたしが何かルオンにしたとは思えない。

貴重なアーティファクトを贈られる覚えも、デートと謳われる覚えも。

しかし、それを拒絶しきれないわたしもわたしだ。何を考えているのか分からないが、本能的に拒絶できない、寧ろしてはいけないと頭が訴え続けている。

この男を直接反故にするようなことをすれば、命の危険がある……そんな気がして。


「それではミア、行こうか。デートに」


ルオンは狭間の世界からわたしを連れ出すと、悠々と窓を開け、飛び出していく。


「えぇ……」


わたしもその後ろを付き添い窓から飛び出す。


「ふわりと着地!グラビティ・ワン!」


効率のいい殺戮のために高所からのショートカットは必須。

それ故に、これだけは略式詠唱を身につけている。他の魔法も略式詠唱を構築するために練習中だ。

影に身を隠すシャドウ・ハイドとか、相手の動きを拘束するスタンだとか。

まだ安定はしないためここぞと言う時に運任せで使うが、一応理論は理解してはいる。

まあ、わたしはこれでもそれなりに努力をしている方だから。

そうして難なく地面に着地すると、わたしはルオンの前に出て進み始める。


「ウロウロされるとめんどくさいから、黙って着いてきて」


「そうなのか?散歩する犬に任せてやるのもまあ、……悪くないか、ふふっ」


「散歩する犬って何?!わたしは人間ですぅー!」


「人間だからこそ、だろ?」


猫亜人が自分を棚に上げて犬と人間を同扱いしている様を、わたしは救いようがないとスルーしながら影伝いに移動する。

わたしの練度だと5人までならまとめて殺れる。


「JewelryToBerry」


イメージするは暗殺者。真っ黒い服に、暗器を携えて。体は細くすらっとしたシルエットを強調させるように、コルセットで締め上げる。

喪服紛いな仕上がりのそれに変身すると、丁度いい人影を見つける。


「勝手に動かないでよ」


そういってルオンに釘を刺すと、ナイフを持って急接近する。


「ッ?!」


「きゃはッ……反応が遅い!」


そのままナイフで首を刺すと、あっという間に死ぬ姿を見てわたしは倒れる死体を眺めながら、すうと大きく息を吸い込んだ。


「きゃああーーー!!!」


周囲に散らばる血の匂いに大きく響く悲鳴。

これでそれなりに人は集まってくることだろう。無抵抗な相手を嬲るターンと、武装してくる相手をなぎ倒すターン。わたしにとってはどちらも必要なものだ。


「こっちだ!」


「ルオン、後方支援。半径100メートル範囲を隔離して、わたしに防御と攻撃魔法を重ねがけ」


ルオンには働かせているという自覚を持たせることで満足してもらうため、比較的難しい方の支援魔法をわざわざ頼んだ。

しかし目論見は当たったのか外れたのか、ルオンは何一つ苦もないような顔をしながら、わたしに手を向けると一言も発することなく魔法を構築する。


「全部無詠唱、……あんた本当に規格外」


「当然のことだ、ミア。お前の望むことならなんでもしてやると言っただろう?無詠唱など息をするように出来る。重ねがけも、寝ながらでもできる。お前が難しいと思っているそれらは、僕にとっては全く難しくないものだ」


とてつもなく煽り散らされた気がして舌打ちをすると、わたしはJtoBを構える。


「それを言ってられるのは……今のうちなんだからっ!」


ルオン、わたしはあんたを絶対に超えてみせる。

スカした顔で無詠唱だの、素手打ちだの、そんな簡単に成し遂げるようなことであると言うのなら、わたしだって努力して手に入れてみせる。

わたしだって魔法を扱える人間だ。

聖女だのなんだの、特別な人間じゃなかったとしても、わたしにはロンフェイだっている。

珍しい無属性魔法だって持ってる。

あとは、人より努力するだけだ。

現れた警官の数人にきゃは、と一言笑うと瞬間JtoBを銃に変えて重い鉛の音を響かせながら眉間を貫く。

そもそも、わたしはどうして剣も銃も扱えるのか実の所よくわかってはいない。

家にあったものを触って、試して殺して、それが全て上手くいったからやっているだけで誰かから習ったとがそんなことは一切ない。

血飛沫、赤が道路に撒き散らされる。

大きな銃声の音はまた人をばらまかせ、そして集め、集ってきたものを一人残らず生かして返すことはしない。


「空よ、意思に応えろ。わたしの望むがままに世界を動かし、全てを燃やし尽くせ!きらきらファイア!」


瞬間に、空から炎の雨が落ちてくる。

人を見てはそこに降り注ぎ、断末魔を上げながら黒焦げになるおもちゃ達。

そうやって手も足も出せずに死んでいくところを見ると心地よくて、わたしはこの世界も壊したくなってしまう程だった。


「あは、あは、あははははっ!みぃんな死んじゃえ、死んじゃえッ!世界もみんなバラバラになって、わたしとルオン以外無くなっちゃえ!」


「……、ミア……僕は残してくれるなどやっぱり僕のことが好きなんだな……」


「は?わたしは自分の手でルオンを倒したいだけなんだけど」


衝動のままに放った言葉にルオンが恍惚の表情を浮かべるものだから、わたしは釘を刺すようにそう言った。

しかし、倒したいという意思は事実だが世界が壊れてしまうその時にルオンが死のうが、それはわたしが殺したことと何も変わりないのに。

どうしてわたしは、ルオンを生かしたいと考えたのだろうか。

いや、そんなことを考えても無駄だ。

とりあえず今の範囲で人はいなさそうだし帰る。

あと、いなさそうというより深追いするとルオンが追いかけてくると考えたら面倒なのだ。


「ルオン、終わり。大人しく帰って」


「ミア、そういう時はな……終電を逃してしまったと言ってミアの家に一緒に……」


「いや帰るから」


「そうかそうか、天邪鬼な所もまた卸し甲斐が有るな」


ポジティブが体を覆っている男は、わたしにはらはらと手を振ると黒猫になって影の元へ溶け込んでいく。

そうしてわたしも、家に帰ろうとぼんやり歩き出したのだった。

この回はちょっとだけ描写が違います(が一文違うレベルなのでほぼ差ないです)


ちなみに活動報告にメインキャラの容姿設定を置いていたりします。メインキャラ全員書くことからは延々と逃げています(現状あるのがルオンルスランミアニアだけなので…)

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