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14話

_______目の前から、居なくなる金色の髪。

フランシミアは、気分屋というよりサイコパスだ。

そうじゃなきゃわたしをこんな所に放り投げて放置しない。

本当にあの愚妹は、わたしに対する好意が欠けらも無い。

王子様のように優しいルスランに守ってもらって、戦いたくなかったのにあのルオンとかいう怖い人がミアについて、それが勝ってしまうから……。


「うう…、ルオン……まるで魔王…!」


ルスランが王子様ならルオンは魔王だ。

ルスランは力を付けて魔王に勝ち、そしてお姫様であるわたしに……、いや違う。

わたしが姫になれるような器などない。

わたしはブサイクで、醜くて、何も出来ない無能だ。わたしのようなゴミクズなんて死んでしまえばいい。

そんなわたしがルスランに守られて?ルスランと恋人になれて?幸せになれる?そんなこと、有り得ない。


じりじりと己の間合いにわたしを入れこもうと迫ってくる魔物に、立ち上がって逃げようと振り向くと…、そこには木があった。


「ひっ…!」


グギャ、とモンスターの恐ろしい声が聞こえて、わたしは体がガタガタ震えあがる。

たしかにわたしはゴミだ。クズだ。さっさと死にたい、わたしは死ぬべき人間だ。

死んだ方がみんなのためで、ルスランのためにもなるはずだ。

しかし。


「……、……なんでわたしが貴方なんかに殺されなきゃいけないの?」


見える。魔物の顔が。

シワ立つ緑色の肌に、片方が潰れ、血走った目。棍棒を持ちながら、ボロきれのような服を着るそれをみて、わたしは心底気持ち悪いと思った。

気持ち悪い。わたしは、こんな気持ち悪いやつには殺されたくない。

わたしは死ぬなら毒殺がいい。イケメンに、ルスランに毒を飲まされて死にたい。

それか目の前で首を吊るでもいい、銃で喉を撃ち抜くでもいい。

とにかく、わたしは美しい人の前で死にたいのだ。こんな気持ち悪いやつに殺されたくなど、微塵もないのだ。

というか、なんでわたしが死ななきゃならない?

悪いのは世界だ。悪いのは、わたしを醜く産んだ親だ。わたしを醜く育てた環境だ。

わたしは悪くない。何一つ悪くない。一切悪くない。

わたしは美しく死にたい。それがわたしの持つ権利だから。

醜く惨めで無能なわたしが、死に方までなんで惨めにならなきゃいけないの?


「ねぇ……わたし、死にたくないの。死んでくれる?」


そうしてわたしは、ネックレスから十字架を引っ張って離し、構える。


「セント・ドグマ!」


「フォルフォニア……、オレが君に、断罪の力を貸してあげる。存分に暴れてきなよ。お嬢様」


「暴れる?わたしは暴れるなんてそんな事しない。……ただ排除するだけだから…」


十字架を握ると睨むように相手を見る。

フィオエルの気配がするからなのか、魔物は暴れだした。

本当に気持ち悪い。

気持ち悪いやつは、殺す。


「聖なる力よ、魔を祓う光を大地に。ライト・ピラー」


詠唱が完了すると十字架が光り、魔物に向かって光の柱が突き刺さる。


「白き刃は悪しき者を裂く……。今こそ審判が下される。ジャッジメント・オブ・セイント」


そこへ追い打ちに光の剣が降り注ぐと、魔物は霧散し消えていく。

しかし、後ろからもう一体同じ種類の魔物が現れた。ならばやることはひとつ。

ジャッジメント・オブ・セイントで生み出された光の剣を持って、急接近するとそれを持ったまま叫んだ。


「聖なる刃よ、死から出でる者達に、光の選定を…ホーリー・エッジ!」


すると、光の剣は鎌の形へ変貌する。それを振り回し、飛び上がると勢い任せに魔物へ向け首を刈り落とす。

地面に着けば鎌を剣に変え、魔物に突き刺した。


「……いい加減、消えて…?」


そうして魔物が霧散していく姿を見守ると、わたしはふわりとへたりこんだ。

疲れちゃった、なんて口にしながら十字架をネックレスに付けると、木陰から人が出てくる。


「……!」


「……、ニア」


ルスランだ。一体いつからそこにいたのだろう。今ちょうど、間に合ったところならばよかったんだけれど。


「る、ルスラン…、さん…」


ルスランはわたしに駆け寄ると、直ぐに頭を撫でられる。


「怖かっただろうに……、よく頑張ったね…」


「あ、……、わ、わたしは…その…頑張ってなんか…」


「いいや、……一人で心苦しかったろうに、逃げずに立ち向かって……」


そう言われると、逃げずにというより逃げられなかったから戦ったわたしに罪悪感が募る。

わたしはルスランが言うような人間ではない。

逃げられなくて、死にたくなかったから殺した。

それだけだ。ルスランも優しい顔をして、優しい声をしているけど…本当にわたしに望んでいたことは、あそこで死んでもらうことだったのかもしれない。


「……、生きてて、ごめんなさい」


「どうして謝るんだい?僕は、こんな所でフォルフォニアが死んでしまったら……一生後悔していた」


ルスランはわたしを姫抱きし、少し土のついた頬を払うとそこに唇を落とした。


「わ、わっ……わ、わたしな、んかにっ…!?」


瞬間、顔が茹でダコのように真っ赤に染まる。

そんなところを見てルスランもくすくすと笑いだし、わたしの頭を優しく撫で続ける。

ルスランの大きい手は、とても落ち着く。

こんなに会う機会も少ないのに、ここまでわたしの事を好意的に思ってくれているのは、どうしてなんだろうか。

利用するから、なのかもしれない。

でも、ルスランになら殺されてもいい。

浮気されていることは見たくないから、好きなまま、わたしのことをころしてほしい。

……好きだと思うこと自体が嘘だったら、耐えきれない。


「あっちのバカは?」


「バカ?…ええと、あぁ、……ミアは…。どこかへ消えちゃいました…」


「あの女…、ルオンを利用して僕を牽制するなど、言語道断。一度締め上げておきたかったんだがな」


「じゃ、じゃあ…一緒に、探します…?」


その言葉にルスランは頷き、歩き出した。


その手を繋いでみたい、と少し手を伸ばし……やはりと引っ込めた。

ルスランと一緒に歩く間、わたしは気になっていたことを口に出した。

それは、聞いてはいけないことなんじゃないか、聞いたらショックを受けるんじゃないかと思いつつ好奇心には逆らえなかった。


「ルスランさんは…どうして、わたしなんかに優しくてくれるんですか?」


ルスランは、わたしのその言葉に止まった。

利用するからだ、なんて返されたらどうしようかと思っていたらルスランはわたしの目をじっと見つめて、呟くように返した。


「消えてしまいそうなんだ。僕が目を離したら、どこかへ。空気に溶けて無くなってしまいそうで、だから……側にいて、守りたいと思った」


「へ……?!」


それって告白なのか、なんて慌てながらも……そんなことは無いと言い聞かせる。

ルスランにとってわたしは通学路に貼られている外れそうなチラシと同じくらいだ。そうだ。だから消えそうで、気になってしまっただけだ。

わたしに価値なんてない。ある方がおかしい。わたしはゴミクズだから、生きているだけで罪だ。

罪だから、魔力が無くなっていくのだ。


「こう見えて、僕はあんまり人を大事に思う気持ちなんかないんだよ。だから……、こんなに守りたいと思うのは、ニアが初めてかもしれないね」


なんて言って、優しく笑うルスランの姿は美しくて、格好よくて……。しばらく見蕩れてしまっていた。

ダメだ……、わたしはルスランのことが好きだ。わたしが相応しくないなんでわかっているのに、ルスランの事が頭から離れない。彼に守られたい。彼に庇護されたい。彼に寄り添いたい。…ルスランじゃないと、嫌だ……。

でも、この気持ちが露呈したらわたしはルスランに気持ち悪がられるだろう。

わたしのような人間が、恋愛感情で彼のような人を見るなどありえない事なのだから。

わたしと彼との距離感は、近づきすぎないくらいじゃないと許されない。


「きゃは、あは、あはははっ…」


そんな時、ミアの声が聞こえてくる。

楽しそうに、また狂気に染まったようで、ジャキジャキと木々を裂きながら鳴るのは彼女のアーティファクトJewelryToBerry特有の、変化音。

フランシミアの普段の様子からして鬱憤晴らしだろう。ストレス発散に人の命を嬲るのはいつもの事だ。


「どさくさに紛れて人殺しか。随分野蛮な趣味なことだ」


ルスランはミアの姿を捉えると、しばき体制に入る。一歩一歩と進み、わたしはその後ろを追いかける。


「フランシミア」


「あれェ?ルスランじゃん。ニアも一緒?」


ミアは本当に楽しそうで、水を得た魚のようにけらけらと笑う。

そんな所をルスランはじっと睨むと、頭を鷲掴んだ。


「ぎゃっ!!」


「虎の威を借る狐風情が……、随分と調子に乗っているじゃないか」


「あばばばばッ!ちょっ!いたい!いたいいたい!」


ミアは暴れだし、ぎゃあぎゃあと騒いでいるとルスランはミアの頭を掴んだまま放り投げた。

その先には、あの猫亜人、ルオンが居て。


「イタズラ子猫を捕まえておいたよ。ルオン兄さん」


「は、この期に及んで"兄さん"など、気色悪い。兄弟という認識など、微塵もないだろうに」


そうやって吐き捨てるルオンに、ルスランは笑みを止めない。まるで彼によくお分かりで、と言っているようだった。

ルスランの言い草から、どうやらルスランはルオンの事が余り好きでは無いみたいだ。


「ちょっと!ルオン!あいつが頭掴んできたの!なんとかしてよっ!」


「僕から離れて勝手に彷徨いているのが悪い。ただの罰だ」


「あんたも敵なわけ?!ちょっとーー誰か!!誰かわたしの味方はいませんかーー!!」


ミアの声に、辺りは静寂に包まれる。誰一人として、ミアに肯定する者はいなかった。


「このっ、……どいつもこいつも……裏切りものーーっ!!」


魔物の殲滅を終え安堵の声にざわめく学校の中で、わたしたちは歪に揃っていたのだった。


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