13話
「ルオン。……ルスランの洗脳を解いて」
「……洗脳?」
ルオンはわたしをじっと見る。
これでも一応創造魔法の使い手であり、次元魔法もそれなりに知識はある。
この教室に仕掛けられた結界が、"機能していない"のだ。ルスランが来たその瞬間から、無理やり停止させられている。
それはつまり、その結界を停止するものをルスランが使用して、それを使って嫌な奸計を張り巡らせているに他ならない。
「あんた分かってんでしょ?アイツが部外者だってぐらい。こっちは殺ること殺りたいの。うちのニアはそれに必要。それで、邪魔なのはルスラン。だから追い出してくれって言ってんの」
「はぁ……、なら、そんな面倒臭くて回りくどいやり方を取らなくてもいいんじゃないか?」
ルオンはわたしをみて、呆れながらため息をついた。
確かに、さっさとフォルフォニアを連れ去れば終わる話だが、残念ながらフォルフォニア本人はルスランにべったり。
本人に戦闘の意志など皆無、お荷物になる気満々だ。
残念ながらわたしは自分の姉妹がそんな軟弱者で許した覚えは無いため、いつもいつも適当に魔物の巣に放り込んだりわざとフォルフォニアがいる方向に逃げたりして戦わせているのだ。
彼女だって戦えるひとり。わたしがなんと言われようが、わたしの遊びにフォルフォニアは付き合ってもらう必要がある。
あの猫亜人一人に掻き乱されていい事象ではない。
「ミア。お前が望むのならば、僕は何でもしてやろう」
そう言うと、ルオンはルスランに向けて手を伸ばした。
「ルスラン……、僕のミアがお前のところのガキを求めている。大人しく、渡してもらおうか」
「は、いくらルオンでもニアは…」
「喧しい。お前に発言権など与えたつもりは無い。渡せ。これは命令だ」
そうして辺りが突然真っ暗になると、しゅばば、と何かが高速で動くような音が聞こえる。
まるで蛇が向かっていく音のようで、…それは5秒ほどの短い時間のことではあったが、景色が晴れるとルオンの傍にはフォルフォニアが居て、ルスランは荒く息を吐いていた。
「え?え?……アドちんこれを飲み込める程の脳がありませんがー?」
「魔術師同士の戦いって中々見ないから興味深いな…、それにしても真っ暗でなんも見えなかったが」
アドラーとユングは冷静?沈着?分からないがあんまりびっくりしている様子はなく、手品のようにルスランの元からルオンへフォルフォニアが移ったのを、じっと見ていた。
「み、ミア…、わたし戦いたくない……」
「ローウェンが言ってたよ。生徒が動員して魔物を討伐するって。品行方正なニアは、それに逆らうの?」
「お前本当に都合のいい時だけ教師の言いなりヅラするな、カス野郎」
ローウェンからの毒舌なツッコミが入ってきたのを全力で無視しながら、わたしはニアの腕を引っ張った。
「でも、…わっ、る、ルスラン、さ……」
「フォルフォニア…!」
「部外者は引っ込んでて!これはわたし達…姉妹の話だから!」
そう言ってわたしは無理やり魔法陣にニアを乗せ、地上へ転移する。
学校内に入り込んだ魔物達は、既に外を彷徨いており至る所で戦闘する音が聞こえてきた。
「ミア……帰りたいよぅ…どうしてわたしをつれてきたの……?」
「そんなの言わなくたってわかるでしょ?いっつもやってんだから……さっ!」
そうして、わたしはフォルフォニアの首根っこを掴むと魔物の方に放り投げた。
「きゃあああっ!!??」
「いちいち驚かなくていいんじゃない?慣れたでしょいい加減」
「む、無茶言わないでよっ……きゃっ!み、ミア、ミア助けてよぉっ!!」
ジリジリと迫る魔物に、フォルフォニアは後退して行く。後ろに木があるのをわたしは眺めながら、意地悪に笑った。
「やーだねっ!」
そうしてわたしは、フォルフォニアを置いて去っていく。
この魔物の騒動で、どさくさに紛れて人殺しができるからだ。今ならいけ好かない白魔法学科の奴らも、魔物に殺されたって想定で殺せる。グループに別れてるならグループごと殺せばいいだけだし、そのために殺し方は魔物のものと偽造するため……、とりあえずどんな魔物がいるかを回ってみなければ……