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紅蓮ノ華 ✿ 白翠ノ月  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
chapter 002 『転』
5/10

『壹ノ柱 ✿ 陰陽道 de 召喚』

蓮御門はすみかど 緋子ひいこ】 (作画;漣 ✾ 黒猫堂)

挿絵(By みてみん)





此処ここは… 何処どこじゃ…… 」


 上半身を不自然な程 美しく垂直に起こし、顔は正面を向いたままで 少女はそう呟いた。

 すると寝座脇に控え 衣冠束帯を身に着けた男が、吃驚きっきょうの表情を浮かべ尻もちをついたような姿勢のまま、少女に問うてくる。



「ぁ… あんたは、ひ… 緋子ひいこなんか? それとも、別の… 何かなんか?」


 かすかに震えている男の言葉を受け、少女は首だけを彼の方に すっと向けて応える… いや、問い返した。


「 ……… ほう、其方そなたら… あの忌々(いまいま)しき人間族ヒューマンどもではないか。 今度は一体、れに何をした?」


 少女の表情はあまり変わらなかったが、言葉の後半はわずかに怒り… もしくは怨嗟えんさを含んでいるようにも聴こえた。


れはのぅ… 今しがた命を落とした(はず)なのじゃ。 それがこうしていまだ話をし、また面妖おかしな場所で珍妙おかしなで立ちの人間族ヒューマンどもに囲まれ……。 いや… うむ、いろいろと問い(ただ)したいことはあるが… まずは()く答えよ。 何故なにゆえに、れは裸なのじゃ!?」


 その問いを聞き、男の方はかたわらの女に向かって何やら小声で「ほれ、みてみぃ」などと言い、女の方は袖で口元を隠すようにして くくっ… と笑いを必死で押し殺している。


 そのさまを見るに、どうやら悪意や害意などはないように見受けられるが ――

 そして何より、この人間族ヒューマンどものつがいには、そもそもの緊張感がまるで感じられなかった。


「えーっとだ… ではまぁ、姿の事については また後でも構わぬ。 でじゃ… れは今、一体どういう状況であるのかを問おう」


 … と、心情的に非常に気になっているところではあるが 一先(ひとま)ず置いておくこととし、現況の把握はあくの方を優先させた問いに改めてみる。

 すると女の方が、何とも間の抜けた口調で発した答えは ――


「あなたの今の… 状況ぉ? えーっと… 状況はぁ~、やっぱりぃ… 裸?」


 … と、やはりこの者らとは話が噛み合わないこと、この上もない。

 そして今度は、彼らの間でまた あれこれとめ始めた。


「いやいや煕子ひろこぉ… その件はもうええて、さっき言うてはったやろ。 そやなく、この方は『何でこないなことになっとんのや』て、聞いてはるのとちゃうん?」


「あらぁ… じゃあやっぱりぃ… これってひいちゃんじゃないってことぉ?」


「そらっそやろぉ… だってほら見てみぃ、身体は青白ぉ~なって ほゎ~っと光ってはるしやなぁ、それに何より目ぇが… 何や左右で赤と緑の色違いんなってもうて、えっらい煌々(こうこう)とまたこれ… (まぶ)し… 」


「あらあらまぁまぁ! じゃあ、あの儀式が成功したってことぉ? 大変たぁいへん、想定外!」


「なんでや! ほならあんた、今晩どないなつもりで儀式に付き合うとったんや!?」


「だってぇ… あなたの主催でこぉんなに上手くいくだなんてこと、有り得るはずが… 」


 二人はまた何やら小声で ああだこうだとり合い始め、一向に要領を得ない。


「ぇえい、やめぃ やめぇぇぇえい! 其方そなたら、が術でくびり殺すぞ!!」


 … と、少女が声を荒げると、二人はようやくまた思い出したように はっと我に返り、揃って頭を下げる。


「こらぁ… えらいすんまへん… 」

「あらぁ… ごめんなさいねぇ、ひいちゃん… 」


 すると、少女はその『ひいちゃん』にも敏感に反応する。


「待て、女…。 何故なにゆえ其方そなたれのその… 身内同然の眷属ものたちしか知らぬ(はず)の呼び名を知っておるのじゃ…?」


「あらぁ… じゃあやっぱりあなた、ひいちゃんなのぉ?」


「ぇえい! 先程から馴れ馴れしく『ひいちゃん(・・・)』だなどと…。 其方そなた何処いずこでその呼び名を聞いたのかは知らぬが、人間族(ヒューマン)の分際で不敬である… ふけ… ふ…… ふぇっ~くしょいぃ!!」


「あらあらぁ、その恰好じゃ寒いわよねぇ…。 ほぉら、まずはそこに置いてある衣服を… 」


「ぐず… ん? あぁ、これか。 ぉ、おぅ… すまんのぅ… 」


 … と、このように会話が全く噛み合わずにすれ違い、無駄なときだけが延々と浪費され… 結局未だ、互いの素性や今現在の状況の把握すらも一切出来ていない中 ――


 室外から ばたばたと騒々しい足音が聞こえてきたかと思うと、部屋の入口のとばりが勢い良く上げられ、巫女みこ装束を身に着けた少女がもう一人現れた。


「おい! みんな大丈夫なのか!?」


 そう言って無遠慮に侵入はいり込んできた少女は、室内の様子を見て更に驚いたように声を上げる。


「うぅぉわ!? 姉貴、なんで裸なんだよ!? てか身体すんげぇ光ってるし! ひぁ!? 目ぇ、赤と緑んなってんじゃねーか! こっわぁ!?」


 この更なる混沌こんとんを盛大に持ち込んできたような もう一人の少女の出現に、これまで室内にいた三人はかえって少し冷静になり、『ともあれ、そろそろ一度状況を整理せねば』と、切実に思ったのであった。


 ◇


「ふむ… ではれは、其方そなた晴親はれちか殿が()り行なった、『精霊みたま召喚めしよせ 口寄くちよせ之儀』… とやらによって、此方こなたに呼び寄せられたと… そういうことなのじゃな?」


 … と、ここに至ってようやく、少女も取り敢えずは八重畳の脇に用意されていた襦袢じゅばんを羽織らせられ、互いにある程度の話が進み始めたところである。


左様(さよう)です。 わしが先祖伝来の術である『陰陽道』言うもんを使いましてな? 娘の身体を仮のしろとして、神さんか高位の精霊さんか… そのあたりの方に憑依はいっていただいて、ほいでから ある事をお伺いしようと… 斯様(かよう)に思ぅとったんですわ」


 晴親はれちかがそう言うと、隣に座っている煕子(ひろこ)が言葉を足す。


「そしてその、うちの娘というのがぁ… 長女の緋子ひいこちゃん。 あなたが今 憑依はいっておられる、その身体の子のことなんですよぉ。 あ、それで今来たこっちの子がぁ… その妹の丹子にいこちゃん、双子の姉妹なんですぅ~、うふふ♪」


「お、おぅ… そうか、成程のぅ。 では取り敢えず『ひいちゃん』の件は、どうやらこちらの誤解であったようじゃ… 先程はすまなかったのぅ、許せ。 でじゃ… これは(しか)と申しておくが、れは『神』などでは決してない。 むしろ、奴らの敵方にくみする者であるぞ」


「あらあらまぁまぁ! それではそのぉ… あなたは、『悪魔』さんなんですのぉ!?」


 煕子はそう言うと急に興奮した様子を見せ、まるで幼子おさなごのような くるくるした表情で目を輝かせ始めるが ――

 それを聞いたかたわらの二人はというと、互いにその青ざめ引攣ひきつらせた顔を見合わせ、何やら首を振ったり手先を振るわせたりしながら、また小声でごちゃごちゃと言い合いを始める。


「いや、れは悪魔族デーモンではない。 同じ魔族側… 魔帝国ザイタンに従属する陣営の一つではあるが… そうか、未だが名を名乗ってはおらなかったのぅ。 れは、ラミーア・オベクス自治領主・パドマ・バティ・ヴリコラカス侯爵である」


 少女… 蓮御門はすみかど 緋子ひいこの姿をしたパドマがそう名乗ると、人間族ヒューマンの三人は、取り敢えず ぽかんとした表情をしている。

 そして ――


「ぁあーっと… え、外人はん? なんやぁ… ただの外人はんやないかぃ~、驚かさんといてぇや ほんま~」


「あらあらまぁまぁ… 日本語が とぉーっても、お上手なのねぇ♪」


「え、神でも悪魔でもねぇの? っんだよ、ただの外国人のOBK(オバケ)かよ… ったくぅ!」


 … と、相変わらず話が進まず全然通じない流れは健在である。


「いや、だーかーらー! 其方そなたら… 一度ちゃんと、落ち着いてれの話を聞けぇ!!!」


 そう叫ぶように制するパドマにも少しく疲れの色が見え始める ――

 … が、実は本人さえも気付かぬうち、当初 人間族ヒューマンである彼らに対して抱いていた怨嗟えんさや蔑視、警戒感といった負の緊張はすっかりと失せ… 逆にどうやら、彼らの持つ一種独特な雰囲気に()まれる形となってしまっていたようである。


「ふ… ふふっ どうにも、珍妙おっかしな連中じゃのぅ、其方そなたらは」


 この長く不毛でくだらないやり取りにパドマはつい可笑おかしくなり、少しだけ破顔わらってしまう。


「あー、分かった分かった。 れももう少し丁寧にゆっくりと話すことにするゆえ其方そなたらも早合点せずにきちんと聞け」


 そうして彼らは、互いのことをいろいろと話したずね合い、ようやくにして少しずつ、事の次第が整理され始める。


 ◇


「なんや、やはりただの外人はんとは ちゃいますんやなぁ。 ところでさっき、『コウ爵』や 言うてはりましたけど、どっちの… いやぁ いずれにしろ、うちよりも爵位は上なんやなぁ。 この蓮御門はすみかどの家も、一応は華族でして… 子爵の位を授かっておりますのや」


 略)


「成程のぅ…。 ではどうやら此処ここは、つい先程までれがった場所とは、そもそも全く別の世界… ということになるようじゃのぅ」


 略)


「あらぁ… それではつい先程、許嫁いいなずけの方と最期のお別れを… それは大変にお気の毒でしたこと… ぐすっ… しくしく」


 略)


「そうか、煕子殿の占いで『数年後に未曽有の災害が起こる』との凶兆が見えたゆえ、神を召喚して真偽の程を問い質そうとしたところ、れが呼ばれてしまったと… そういうことなのじゃな?」


 略)


「え… 神でも悪魔でもないけど… 『ヴァムパイヤー』? あー、それって… なんか最近読んだ仏文学の本に書いてあった気がすんなぁ…。 そうだ、『吸血鬼』とかいう… げ、あんた血なんか吸うのか!? やっぱこえぇ~… てかさ、『鬼』が陰陽師の家に召喚されるって、何それにウケる~♪」


 … と、多少はいろいろと話が進んだところで(えん)たけなわ ――

 ここでふと、この家の次女である丹子にいこが、ようやく大事なことを思い出した。


「あれ? なぁなぁそれよかさー、姉貴って… 一体どうなっちまったんだ?」






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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読ませていただきました! 晴親さんの口寄せで召喚されたのですね 和洋折衷入り混じって、これからが楽しみです また、読みにきますね♡
[良い点] 一気に読んじゃいました!感想かくのははじめてですが。こういう小説にであったことはないです。感動しました! まず前がきをああいう使いかたされるのに驚きなのと、キャラクターどおしの会話がとて…
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