『參ノ柱 ✿ 吸血族 de 概説』
吸血魔族の『真祖』は、各世界に唯一個体のみであるとされ、それ以外の同種族者たちは、全て『眷属』と分類・認識される。
眷属たちは幾層もの階級によって、各々の役割や上下関係などを、その地域社会の中で充てがわれることとなり ――
その判定基準は、各個体ごとが持つ 膂力や魔素量などによって計られ、それら結果に応じて厳正に割り振られるという、謂わば 実力主義に大きく主眼を置いた制度となっている。
但し、それとは別の評価基準として、ある一定程度考慮され得る事項が、もう一つだけ存在する。
それは、『血統』である。
血統によるところの判定とはつまり ――
『真祖からの経路・世代が如何程に近しいか』が問われるものであり、これは一見、他種族… 特に人間族社会においてよく見られる、『門閥優位制』や『世襲制』などと同一視されてしまいがちになるのであるが、実は少し違う。
と言うのも吸血魔族の場合、その『真祖との血縁の近さ』は、概ね その個体の持つポテンシャルの高さと比例・整合するという性質を持つからである。
具体的に例を示すと、例えば人間族社会においては、『門地良く地位は高いが実力が伴わない』といった非力愚昧な者が、その門地・家柄のみを根拠として高位についてしまう…といったことも往々にしてあり、そうした部分は確かに、歪で不公平な仕組みと捉えられても致し方ない。
(但しこの制度には、そうした厳格なルールを設けることにより、社会としては『無駄な混乱や争いを避ける』、そして個人としては『自らが継ぐべき職責を幼い頃から意識し長く経験を積める』などのメリットもあるわけだが)
しかしながら、それに比して吸血魔族という種族では、血統による『真祖との血脈上の遠近・濃薄』が、畢竟その一族 もしくは一個体の『吸血魔族としての性能』に直結し、実際の力量として如実に表れるのである。
故に、あくまでそうした観点から鑑みた上で言えば、この種族に限っては比較的 公正な上下関係が築かれるであろうと、他国や他種族の側からも ある程度肯定的に受け留められているのである。
そしてまた、その眷属たちそれぞれの『寿命』についても、真祖との血脈的距離に比例する、同様の相対関係が見られ ――
縁遠い末端の者たちは せいぜい120年程しか生きられないとされるが、その距離が最短の者… つまりは、真祖自身により直接この種に導かれた、血が最も濃く近しい高位の者たちとなると、その寿命は およそ350年程にもなるとされている。
因みに、吸血魔族はよく『不死性がある』とも言われるが、確かに病などには殆ど罹らず、また多少の傷を負ってもすぐに癒えるため、その個体が持つ寿命期間内に限っては、ほぼ不死に近い状態であると言えなくもない。
だがしかし、他種族や通常の生き物たちと同様、寿命 もしくは力が尽きれば… または回復が追い付かない程に甚大な損傷を受ければ、当然ながら直ちに絶命する。
従って、彼らは『不死』などではなく、単に他の生き物よりも多少丈夫で強いだけであると言えよう。
それともう一点、彼ら吸血魔族たちが、その身に内包する諸々の力、中でもとりわけ重要な『魔素量』についてであるが ――
その数値は、晩年になると全盛期の年代に比べて半分以下にまで落ち込むと言われ、更に死の間際には、ほぼ皆無となる。
さて、ではそうした観点から見た『真祖』自身の実情はどうか。
真祖の寿命は、過去歴代の統率者たちの統計を見ると、戦いによって命を落とした者などを除けば、概ね600歳前後であると認識して良い。
つまりは、今年で齢480を超えるパドマ・バティ・ヴリコラカス侯爵の魔素量は、既に全盛期の半分程度にまで落ち込んでしまっている… ということになるのであるが ――
つい先刻の、まさに超常的とも言えるような事象を見る限り、それでも想像を絶する程の膨大な魔素量を秘め、かつ如何なる眷属たちとも 全く以て比べるべくもない程の圧倒的な力圧の差… 格の違いが厳然としてあるということが見て取れる。
真祖が、全ての同魔種眷属たちから絶大なる尊崇を受け、神の如き待遇を以て崇め奉られているのも、こうした実情を鑑みれば当然の帰結と言えよう。
だがしかし、あれほどの超常的な力を行使することが、たとえ『可能』ではあったとしても… そのことが過度な負担となり、代償として大幅に命を削ってしまう… などということもまた、一方では大いにあり得べきことであろう。
そして ――
此度の戦勝と護りの立役者、パドマ・バティ・ヴリコラカス侯爵の命の灯は、今まさに尽きようとしていた。
今宵、魔帝 リュツィフェール・アリシャ・アイオーニオン・ザイタン6世の御呪法にも匹敵する程の超絶的な『力』を行使した彼女は、一切の事を成し終えた後に 虚空から独り、地上へと落下。
それは、己が身に内包された魔素を完全に使い果たし、更には足りない分を命で補ったことによる当然の結果であり ――
彼女自身、そのことは充分に認識・覚悟の上の行動であった。
そして既にもう、残された時はごく僅かである。
カマル暦1435年 ――
此処、ラミーア・オベクス自治侯領 西方辺境において、またひと区切りの歴史が幕を下ろそうとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【 一掬 ❁ 後日譚 】
蓮御門家の面々による茶番解説
蓮御門 緋子(猫/長女);
「あ~らぁ、ちょっとちょっと御母様ぁ… 今回のお話、もうご覧になられましたのにゃ~?」
蓮御門 煕子(母);
「あらまぁ… 見ましたわよ緋子さぁん、見ました見ましたぁ~♪」
蓮御門 緋子(猫/長女);
「一体どういうことなんでしょう… 私たちがまだ出てこにゃい… のはまぁ良いとして、それどころか 誰も出て来ず、あまつさえ台詞や情景描写すらも一切ないだにゃんてぇ……。 ぃ…いやぁん! ハイカラ… ハイカラ過ぎますことよぉ~~~!」
蓮御門 煕子(母);
「まぁまぁまぁ… それではまるで なにかの論文とかぁ… そぉそ、取扱説明書みたいな味気無さではありませんかぁ……。 き…きゃぁ~~~! 破廉恥… 破廉恥ぃ~♪」
蓮御門 煕子 & 緋子
「ん ねぇぇぇ~~~え♪」
「ん ねぇぇぇ~~~え♪」
蓮御門 丹子(次女);
「ぅうわ!? びっくりしたぁ…。 …っんだよ こいつら… なんで急にババァみてーなんだよ、どうした」
蓮御門 晴親(父);
「なんや 儂もよぅ解らんのやが…。 まぁ少なくとも煕子は、『破廉恥』ゆう言葉を使てみたかっただけなんとちゃうやろか… 」
パドマ(元真祖/魂の居候);
「うむ… それは緋子の『ハイカラ』にも、同じ匂いを感じるのぅ」
蓮御門 丹子(次女);
「なんだそりゃ… アホくさ。 てかよー、あたしも今回の話 チラ見してきたんだけどなー?」
パドマ(元真祖/魂の居候);
「おお! どうだ、我れや眷属らのことが よ~く解ったであろ… 」
蓮御門 丹子(次女);
「ありゃあ… 小説としてはちょっとひっでーな。 物語ってのは三話めが大事だってぇのによー、だらっだらと能書きばっか書き連ねやがって…。 眠くて読んでらんねぇっつー」
パドマ(元真祖/魂の居候);
「な!? いきなりのダメ出し… じゃと…… 」
蓮御門 晴親(父);
「まぁまぁパドマ殿、今のはあくまでも丹子個人の意見やしなぁ、あんま気にせんでええ。 大丈夫… 大丈夫や」
パドマ(元真祖/魂の居候);
「おぉ、ち… 父殿!」
蓮御門 晴親(父);
「そんなもんなぁ… なんぼ程、吸血魔族の人らぁの生態や慣習に これっぽ~っちも興味なく面白んない話んなろうが… そもそも お前はんの世界が殺伐とし過ぎとって、読者が皆ドン引きしまくっとろうが…。 まぁ そんなんは所詮、些細ぃ~なことや」
パドマ(元真祖/魂の居候);
「あー、じゃ… じゃよのぉー……。 う… うんうん、ちぃーっとばかしハードボイルドでは あったかものぉー…。 そうかそうか、成程、そういう見方のぉー…。 あは… あっははー…… 」
蓮御門 緋子(猫/長女);
「はぁぁぁい? いえいえ~、そういう次元のお話ではなくってですにゃあ~、もう世の中のぉ… ニーズ? そう、ニ~~~ズの問題ですわよ~。 ねぇ~え、御母様ぁ~?」
蓮御門 煕子(母);
「そぉそ! さぁっすがは緋子さん、わかってらっしゃるわぁ~。 要はつまりぃ… もぉ、読んでて しぃんどい♪」
蓮御門 煕子 & 緋子
「ん ねぇぇぇ~~~え♪」
「ん ねぇぇぇ~~~え♪」
パドマ(元真祖/魂の居候);
「ほ… ほぉほぉ…… な、成程成程じゃのぉ~……。 我が故郷や同胞らの話はニーズがなく… 面白ぅもなくてしんどい… か……。 はっは… はは… は…… 」
蓮御門 丹子(次女);
(!? おっと… これはちょっとやべー気がすんな…。 『元』とは言え魔界最強種の真祖…。 うん、この状況は絶対にやべーやつだ。 あたしはあんま 関わらないでおーこぅっと♪)